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愚者の舞い プロローグ

「来たか。」

豪勢な玉座に座したまま、男はそう呟いた。

そこは玉座の間。

魔王と名乗り、自らの魔力により作りだした居城の最上階に位置する、広い空間。

男の見つめる正面には、高さ3メートルほどの立派な扉がある。

その扉を体格の良い戦士が、体当たりするように押し開けて突入して来て・・・突如ストンと斜めに下がった床でバランスを崩し、豪快にすっ転ぶ。

「ウオオォォ!?」

そして斜めになった床をツル〜ッと滑って行き、突き当りの木の壁に頭から激突し、牛を模し、角の付いた兜が見事に突き刺さり抜けなくなり、バタバタと暴れる。

その戦士に構わず、仲間達は斜めの床を避けてバラバラと室内に侵入し、散開した。

「ヌオオォ! ぬ、抜けん!!!」

「兜を脱げ。 土くれは愚鈍で困る。」

「なにをぉ!? この枝娘がぁ!!!!」

戦士のドワーフと、冷たい声で言い放つ女エルフ。

一見仲が悪そうに見えるがそんな事はあるまい。

魔王は城の中に溢れんばかりの魔物を配置してあったのだ。

その魔物を排除してここまでたどり着くような者達に、結束が無い筈がない。

「クックックックック。 ここまで見事に引っ掛かってくれると嬉しくって涙が出てくるぜ。 ようこそ、勇者諸君。 俺がこの城の主だ。」

幾多の悲劇と破壊を巻き起こし、世界中にもたらした男。

背にある、カラスよりも黒く艶のある一対の翼をゆっくりと広げながら、男はそう言って玉座から立ち上がった。

「小さい罠も連携すると、なかなか効果的だろ? 本当ならそのドワーフの上に岩などを設置して殺害するんだが・・・そんな物でお前らを倒しても仕方がないからな。 遊び程度にしておいた。」

ニヤニヤ笑いながらそう言われ、後に勇者と呼ばれ賞賛される若者達は険しい表情になる。

まあ、若者と言っても数百歳生きているエルフと50年ほど生きているドワーフもいるのだが。

そんな魔王の口上を断ち切る様に、背後でドワーフがぶつくさ文句を言いながら立ち上がる気配を確認しつつ、抜き身で持っていたレイピアをヒュッとエルフは振るった。

「今更お前がなぜこんな事をしたのか聞かん。 大人しく魔界に帰ってもらおう。」

「ククク。 強気だなクラスィーヴィ。 俺を楽しませてくれたら大人しく帰ってやるぜ。」

「覚悟!!」

人間の若者の号令で、戦端は開かれた。

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