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愚者の舞い 17

 ルーケは翌朝、改めてプレシャス商会の門の前に来ると、守衛に声をかけた。

「すいません、俺はルーケと言います。 プレシャスさんにお会いしたいのですが。」

守衛は、明らかに冒険者風のルーケの全身を舐めるように確認してから、

「約束でもおありで?」

俺はそんなの聞いてないぞ、と、全身でそんな雰囲気を醸し出しつつそう答えた。

「約束はしていません。 ですが、先日一緒に行動した者です。 取り次いでいただけませんか?」

昨日は特に気にしていなかったが、この守衛、物凄く腕が立ちそうだ。

年齢こそ初老に達したくらいだろうが、達人レベルではないだろうか。

物腰や雰囲気で、ルーケはそう感じた。

守衛は胡散臭そうにルーケを見返すと、

「生憎、シーフ上がりを取り次ぐ気はねぇなぁ。 帰んな。」

「なっ!? 何を根拠にそんな! それに勝手過ぎないか!?」

守衛はルーケの足元を指差すと、

「シーフってな、訓練を積むと自然に足取りに癖が出るんだよ、坊主。 出来るだけ足音を立てないようにな。 見たところ技術的にそんなでもなさそうだから、食いっぱぐれたガキが拾われて手伝いしてたってところか? 一念発起して冒険者になりましたって感じだろ。 違うかい?」

「う。」

門に近づく足取りを見ただけでズバリ言い当てられ、ルーケは二の句が継げない。

「今はシーフではないかも知れんが、冒険者でも同じ事だ。 襲撃の下準備に下見に来たとも考えられる。 そんな胡散臭い人物を取り次ぐ馬鹿がどこにいる?」

「しゅ、襲撃って! そんな事俺がするわけがないだろう!?」

「お前の事情などこっちは知らん。 シーフは金の有りそうな所を襲って奪い、冒険者は依頼次第で何でもやる。 胡散臭い事に変わりはあるまい。 さぁ、帰った帰った。」

守衛に言い負かされてぐうの音も出ないルーケである。

「・・・それでも、俺にはあの人しか頼れる人がいないんだ! 頼む、取り次いでくれ!」

「ご主人様に会いたがる人はみんなそう言うぞ。 たとえそれが、アサッシンでもな。」

「何を騒いでるんですの?? 朝っぱらから。」

いつの間にかルーケの背後に立っていたプリンが、不思議そうにルーケを見上げていた。

その腕には十本の長いパンが入った籠が抱えられている。

「おはようプリン。 実はな・・・。」

「プリンさん! 実はカクカクシカジカこう言う事で、プレシャスさんに会いたいんだ!」

「そんなの門前払いで当然ですの。」

プレシャスに会いたいが会わせてくれないと早口でまくし立てたルーケを、プリンは一刀両断。

最後の希望も打ち砕かれ、ルーケはガックリと項垂れた。

「でも、悪い人ではないですの。 私からお伺いしてみますの。」

「ええ!? 本当に!?」

ビヨ〜ンと顔を元気良く上げる。

「おい、プリン。 勝手な事をするなよ。」

「先日、志だけは立派な駆け出しのヘボ戦士と一緒に行動したって聞いてますの。」

「ヘ・・・ヘボ・・・。」

ガックリと項垂れる。

「聞くだけは聞いてみますの。 期待はしないでね。」

「おい、プリン。」

「ご主人様の性格は、ガードさんも良く知ってる筈ですの。」

そう言われると、守衛のガードも沈黙せざるを得ない。

「何が目的かは存じませんけど、ご主人様に害をなそうとしても瞬殺されるだけですの。」

アッサリとそう断言し、プリンは通用門から入って屋敷に向かう。

「・・・可愛いけど・・・きっついなぁ・・・。」

ショボ〜ンと立ち尽くすルーケを、憐みの眼差しで見詰めるガードであった。

しかし、そんなに待つ事も無く。

プリンが屋敷に入ってから数分で、プリンを伴ってモリオンが出て来た。

「モリオン・・・。」

「何の用だ? 物乞いなら余所へ行け。」

ルーケはおもむろに正坐をすると。

「今の世は乱れ、疲れ果てています!! お願いします! 僕を・・・僕を弟子にしてください!!!!」

「やだ。」

モリオンは即答すると、クルッと踵を返して歩き出した。

「お願いします! 俺は世界を平和にしたい! でも、力不足で何も出来ない! お願いします!! どうか弟子にして、教えて下さい!!」

それはルーケの心からの願い、叫びだった。

そのためモリオンも、一旦足を止めた。

魔王討伐から、はや120年もの月日が流れた。

しかし、魔物の脅威は取り除かれる事は無く、少し平和になれば人々は戦争を繰り返し、領土拡大を始める。

そんな混沌とした世のために、人々は平和と言う安息を完全に忘れてしまっているようだ。

笑顔もある、喜びもある、だがそれは、悲劇に慣れ過ぎて感覚が麻痺しているにすぎない。

ルーケは自分の生い立ちを知らないが、シーフギルドで育ち、そのやりようを見て来た。

「盗むのが悪いのではない。 盗まれるような警備しかしていないのが悪いんだ。」

ある金持ち宅を襲撃し、一家皆殺しにしたそいつは、そうルーケに平然と答えたものだ。

その男は最初から殺害目的で同行し、やってのけた。

ルーケは荷物運びで同行していただけだったが、そのやりように頭に来て食ってかかったその返答。

腹が減ったから焼いたパンを食べる、その程度の当たり前な事、と言わんばかりの平然とした眼差しは今でも忘れられない。

世の中を平和にしたらしたで悲劇はあるだろう。

しかし、現状でいいわけがない。

ルーケは誰よりも強くなり、そして世の中を平和にしたかった。

だからこそ冒険者になり、その足掛かりにしたかったのだ。

だが、結果は先日のとおり、低レベルなゴブリンでさえ手こずる始末。

今はとにかく強くなりたい、アルカをも簡単に粉砕したモリオンのように、強く成りたかったのだ。

「・・・お前の気持ちは理解した。 だが、俺が教えるにはお前は未熟すぎる。 もっと強くなってから来な。」

「その強くなるためにこそ、師になって教えて欲しい!! お願いします!!!」

「やだ。 面倒臭い。 俺は忙しいんだ。」

そんな主人の返答を、プリンとガードは、おや? という眼差しで見る。

「お願いします!!」

「ガード、こいつは絶対に敷地内に入れるな。」

「モリオン!!!!」

「プリン、食事にしよう。 レジャンドを起こして来てくれ。」

「モリオン!!!!!!!」

「いや、俺が行こう。 あいつは寝起きが悪いからな。 プリンは食事の支度を手伝ってくれ。」

「モリオン!! 弟子にしてくれるまで、ここを絶対に動かないからな!!!!!」

だが、そんなルーケを一顧だにせず、モリオンはプリンと共に屋敷に入ってしまった。

ガードは首を傾げながらも、主人の厳命であるため門を開ける事は無かった。


「あの、聞いてもいいですの?」

「なんだい?」

プリンは何度かルーケを振り返って見ながら屋敷に入り、疑問に思っていた事を尋ねた。

「どうして断ったんですの? いつものご主人様らしくないですの。」

モリオンは苦笑いを浮かべると、ポンとプリンの頭に手を置いてから撫でつつ、

「才能の無い者に、今は関わってる余裕がないんだよ。」

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