元凶と会おう
連日の積雪⇒雪かき の繰り返しで腰が悲鳴をあげている今日この頃。_(☓3」∠)_
ファイアボール打てたらいいのに……………
「というわけで、そこどいてくれないかしら?どうせ雑魚なんだから怪我しないうちにさ」
「「ああん?」」
無視され続けていた門番たちへ向けた最初の言葉。それは到底相手を気遣うような表現ではなく、おちょくっているとしか思えないセリフだ。
当然、門番を担当している傭兵二人は怒りで頭に血が昇る。
「テメエの命が消えるのが先だってんだよおおーーーっ‼」
握っていたバトルアックスと呼ばれる斧を一直線にアルトへ振り下ろした男。挑発したのはカリマなのだが、目の前にいる仲間ももろともに殺そうとしたのだろう。向けられた殺気にぎょっとするアルト。
距離の近さだけで先に狙われるとは思っていなかったアルトは咄嗟に防御態勢にはいる。が、構えるアルトを押し退けてその一歩前にカリマが介入した。
本職の技だけあって大上段から振り下ろす斧の威力はたやすく人間を屠るだろうと思える勢いだった。受け止める気だったアルトも止めきれるかわからなかったのに、女のカリマが対抗できるとは思えなかった。
押されたせいで背後に倒れていく最中、正面をみすえるカリマにアルトは叫ぶ。
「カリマさ………!」
叫び終わる前に尻餅をついたアルトが尻の痛みも無視して目を向けた先では、真っ二つになったカリマの胴体のみが立って――――いるわけもなく、余裕で交わして地面へ突き立った斧に片足をかけ、相手を挑発するカリマの姿があった。
「ん、呼んだ?てか受けると思ったの今のを。そんなわけないじゃない、あんな直線攻撃受けるのが馬鹿らしいわよ」
「ああっ?ふざけてんじゃねえぞこのアマ!!足どけやがれっ!!」
「あら、この程度で苦戦するなんて話にならないわね。ならどかしてみせなさいよ、ほら」
右足を軽く載せているだけにしか見えないのに、その下のバトルアックスをカリマごと持ち上げようとする男はびくともしない足に驚愕といら立ちを乗せる。
「この…っ………なんで、抜けねえ……んだ……よっ…!」
べつに男は手を抜いているわけでも、ふざけているわけでもない。怒りのままに自らの力をだしている。だというのにカリマの華奢にさえ見える片足の下から自分の得物を持ち上げることは一向に出来ていない。
「そこのお隣さん、あなたも教えてくれないの?」
男が持ち上げようと力をこめるなか、平然ともう一人に挑発するカリマにもう一人の門番は愕然とする。
斧の男と違い、もう一人は盾と長剣を構えていたが、それまでの舐めきった態度を一変させた。
油断なく睨んでいつでも切りかかれる態勢になるが、カリマと目を合わせ続けているとハッと目を見張った後、急にガクガクと震えだしその場に武器を放り出した。
その反応をよく知っているカリマはあら、とつまらなそうにする。
(あたしのこと知ってたみたいね、あっさり戦意喪失するなんて………べつにかかってきてもいいのに)
雑魚を相手にするのは面倒だが、戦いたくないわけじゃないのだ。ただ一瞬で終わってしまうから戦った気がしないことがほとんどなのでつまらないだけだ。
最初の戦闘はここじゃなさそうだと残念に思うも、まあまだチャンスはいくらでもあると自分に言い聞かせる。
「ほら、かかってきなさいよ。私に」
来ないのをわかっていて、わざとじっと見つめて殺気とともに笑ってやれば、耐えられなかったらしい相手の方が逃げた。
「ひ、ひいいいいっ!!あいつだあっ『紅い恐怖』だあー!」
叫んで走り去ってしまった剣盾男。カリマの二つ名を口にしたことで斧の男も目の前の存在を理解したようで、今までの威勢はどこいったというほどガタガタと震え出した。
その反応にあ、とひとつ思いつくカリマ。
(悪名をたまには利用しましょうか)
泣きそうな目で動かずにいる男へ、いいことを思いついたカリマはにっこりと笑いかける。
「続ける?逃げる?今なら何もしないわよ」
「ひぅ、うううう…っ……に、逃げる。から、たす、助けて……くれっ…」
「いいわよ。仕事はひとつ潰れるけど、また新しく探しなさいね。ああ、ついでに聞くけど、中に主人たちはいるのかしら?」
「あ……ああ、い、いるっ、いるよ…!!」
脂汗を流して何度も頷く男によしよしと頷いて、カリマは武器から足をどけて離れる。
「そう。ありがと。はいっ、さよならあ~~」
驚かすように大声で別れを告げてやれば、脱兎のごとく傭兵は去っていった。
「ひぎいいっ、うあああああああー!!!助けてくれえーーーっ!」
みっともないとも思わないのだろう無様で必死な逃走は、見ていて面白かった。
そしてあっけなく開かれた門に、カリマは溜息をつく。
「はあ…、あんな連中ばっかなら楽しめなさそうね。戦えるかしら」
「戦っても殺さないでよ」
「はいはい」
隣からのうるさい注文にカリマはしぶしぶ返事を返して屋敷の敷地内を進んだ。
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屋敷内に入れば、呆れるほど大人数が護衛についていた。
王族でも匿っているのかと突っ込みたくなるほどうじゃうじゃとむさい男どもが集まっていたのだが、やはりごく一部を除いてほとんどがカリマの名と容姿に覚えがあり、二つ名と一致する本人だと判明した途端逃げ出す者がほとんどだった。
扉を開けた瞬間に不意打ちしてきたやつが、今のところ一番カリマを楽しませてくれた相手だ。
限界まで気配を消して殺しにかかってきたそいつはカリマが入ってきたと同時に首を狙っていたが、その刃が彼女に届くことはないまま命を散らした。
早抜き―――というより鞘から抜くことなく振りぬいて打撃でもって相手の骨を砕き絶命させた。
追撃を予定していたほかの護衛たちは一瞬の出来事に硬直し、目の前でピクリともしなくなった先頭の者の屍とカリマを交互に見比べたかと思えば我先にと逃げ出した。
屋敷内の探索は、そんな物騒すぎる状態から始まった。
たまに勇ましく立ちはだかる者や、名を知らず見目の美しさから下世話なことを考えて襲い掛かってくる者がいたが、等しくカリマの得物の一振りでその命を散らした。
ある者は首が飛び、ある者は両腕を失い、ある者は胴から真っ二つに両断された。
「ちょっとお~、もっと戦ってくれる人いないのぉ~?」
飛び散る臓物と血が壁や床を汚す。だがそんなものに視線も向けないカリマは奥へ奥へと逃げていく傭兵たちをゆっくりと歩いて追いかける。
それをアルトは慌てて止めに入った。
「ちょっとカリマさん!殺さないでって言ったじゃん!!」
約束したすぐに破られるなんて思わなかったアルトは、先ほど建物に入った瞬間に襲い掛かってきた敵を一瞬の躊躇なく殺したカリマにビビッてさっきまで扉付近から動けずにいた。
だがその硬直もすぐに解けた。いや、固まっていられる状況じゃなくなった。
カリマの正面に回ってそれ以上の進軍を阻む。それでようやっとカリマは止まった。
「しょうがないでしょ、さっきの不意打ちはあっちを殺さなきゃあんたが死んでた。依頼者を殺すわけにはいかないわ」
「…………それはしょうがないにしても、今のは殺す必要なかっただろ!約束守ってよ!」
「怖がらせたほうが情報取りやすいでしょ。交渉なんて面倒じゃない、必要事項よ」
約束を破ったことにも、人を殺したことにもまったく悪びれる様子のないカリマ。初めから守る気なんてなかったのだとわかりアルトは怒りを顕わにする。が、それすらも想定内なのかカリマの表情を変えることはなかった。
「依頼は叶えるわ。フィルナムと交わしたあなたを護る約束も守るわ。もうそれでいいでしょう?これ以上は面倒よ」
「俺は嫌だって言ったぞ!雇い主には従うってさっき言ってたのにっ」
「うるさいわねぇ~、これだからガキは……まあいいわ、誰も協力的じゃないし」
言い合いすら面倒になり、護衛の傭兵たちの追跡をやめる。剣の血糊を払い落として鞘に戻すと二階へつながる階段へと向かい始めた。
「どこ行くの?」
後を追って質問するアルトにカリマは答えてやった。
「女の悲鳴が聞こえた。考えるにアルトのお父さんの正妻でしょうね。声をたどれば会えるでしょうから向かってるの、お父さんもいればすぐに話し合えるかもね」
「その呼び方やめて、あんなやつに当てはめたくない…」
「あら、『お父さん』って呼ばないの?実の父でしょ」
「何も知らないのにいきなりいろいろ押し付けてくるやつなんか家族じゃない。少し同じ血が流れてるだけだ」
「それを家族と呼ぶと思うんだけど……。ま、確かに今までのこと考えたら思えないわよねえ」
父親らしさというより、父であろうともしていない様子が人伝からでも想像できるのだ。まともな家族が身近にいる分、余計にそんな人物を家族とは呼びたくないのだろう。
階段を上がりきって声が聞こえたほうへ進むと、近づくほどギャアギャアと言い合っているのが聞こえてきた。男と女の罵り合う声。どうやら予想外のことが起きて夫婦喧嘩になっているらしい。
内容まで聞き取る気はないのですいすいと進んで目的の扉前に到着する。アルトにこの中にいるとジェスチャーで教えてやる。
「入る?」
「当然」
頷きが返ってきたので盛大に蹴破って扉を破壊し中へ入った。中の悲鳴が聞こえたかと思えば、即座にカリマ達に目が合った。
「な、なんだキサマ!何をする!?」
「ひっ、なぜお前がここに!ご、護衛、守れっ、私を守れ!」
やはり部屋にいたのは商人夫婦(と、その息子)と他に護衛数人だった。
「はい、み~つけた♪」
目的の人物を見つけたカリマは黒い瞳を細め、美しい笑みで部屋の中の者たちへ笑いかけた。