Beginning-5-
太陽の駆るディバイドが逆袈裟でカタナを振るう。
一閃、返すカタナで二閃、右脚部を軸に機体ごと回転しながら三閃。
しかし、それら全ての攻撃を左右への動きで巧みに回避する黒いアサルトナイト。一度距離を取ると、今度は向こうが右腕のビームパイクでこちらにめがけて突撃してくる。
あんなもの、当たったら一発で終わりだっつぅの!
器用に身を捩って攻撃を回避、ビームパイクが頭部左側面を掠め、ビーム系兵器特有のベースのような重低音が聞こえてくる。
<<この……野郎っ!!>>
機体に無理やり反動をつけ、膝蹴りを食らわせる。しかし相手は腐っても重量機、後ろに数歩よろめくだけで大した効果はない。
そのまま後ろへブーストジャンプ、お互いに一定の距離を崩さない。
向こうはうまくやっているだろうか?
右手のカタナを構え直しながら、ふと先程まで戦っていたCDF達を思い浮かべる。
太陽にとってこの黒いアサルトナイトとの一騎打ちは望んでいたわけではなく、どうしてもそうせざるを得ない理由があった。
彼はここまで来る道中にある一家と出会っていた。彼らは地下鉄への避難が間に合わないと判断し、近くの建物の中に避難していた。しかし、不運なことに隣のビルが戦闘によって倒壊、避難していた建物の出入口を埋めてしまったのである。
太陽がそれに気づけたのは正に僥倖であった。しかし、いくらアサルトナイトとはいえたった一機で瓦礫の撤去を行うほどの時間的猶予はなかった。そこで、まずはレーダーに映る味方と合流し、彼らCDFを救出に向かわせることにしたのだ。
見知らぬ人間がいきなり仲間のアサルトナイトを使ってやって来たことに向こうも驚いていたが、緊急時であったため彼らはそれを承諾、援軍がやってくることを告げてこの場を預けていった。
……相手のパイロット、恐ろしく反応が早い。傭兵か他国の軍属か、どちらにせよ実戦慣れしてやがる。
──だったら。
太陽のディバイドが再び深く踏み込み、そのまま前方へブーストダッシュを仕掛ける。
何合か打ち合って奴の癖は掴んだ、あとはそれにこちらが合わせられるかだけ……!
お互いが交戦距離に入る、まずは太陽が右上段からカタナを振り下ろす。黒いアサルトナイトは機体を右に反らし攻撃を避けると、左腕のビームパイクで反撃。
狙いは、頭部。
<<そこだっ!!>>
相手の攻撃が当たる寸前、お互いの攻撃が回避不能となったタイミングで太陽はディスプレイから即座にもう一振りのカタナをロード、敵のビームパイクを左腕ごと斬り上げる。
予想外の攻撃を受け、距離を離そうとする黒いアサルトナイト。だが、もう遅い。
最大出力のブーストダッシュから敵機の胴体に渾身の蹴りを食らわせると機体のバランスを失っていたのか、黒いアサルトナイトは吹き飛ばされながら後方に倒れ込んだ。
<<ハァ……ハァ……>>
久しぶりに操るアサルトナイトの機動に振り回され切らした息を整えながら、倒れた敵機に歩み寄る。
<<お前の負けだ、大人しく投降したらどうだ?>>
まるで本物のCDFみたいだな、そんなことを思いながら敵機にカタナの切っ先を突きつける。すると、相手からノイズ混じりの通信が入った。
<<俺の負け……いや違う、負けたのは……お前だ>>
ガキョン、と小気味よい音を立てて黒いアサルトナイトの胸部装甲が左右に開くと赤黒く光る砲口が露わになった。
そう、俺はもっと早く気づくべきだった。
奴がこれまで近接戦闘用のビームパイクしか使っていないということを。
奴がそれ以外の武装を有していない保証がないことを。
俺が看取ったCDF隊員が腰から下を吹き飛ばされていたということを。
これは、終わった───
赤黒い光がヘッドカメラを通して、顔面に拡がっていた。
一瞬、何が起こったのか分からなかった。
気づいた時には俺の目の前に敵の放ったビームを受け止めている赤いアサルトナイトの姿があった。
中世の騎士を模したであろうその機体はその身の丈程もある巨大なエネルギーシールドを構え、太陽に向けられた黒いアサルトナイトの放つどす黒いレーザービームを防ぎ続ける。
ビーム砲の発射を終えて、体制を立て直す黒いアサルトナイト。その攻撃を受け止めた赤いアサルトナイトの盾は砕け落ちていた。
<<PMC……傭兵か。まさか、ジャックハンマーの一撃をそのような小さい盾で受け止めるとはな>>
敵のパイロットらしき男がそう告げる、どうやら黒いアサルトナイトは『ジャックハンマー』というらしい。
<<ええ、お蔭で私の自慢の盾が吹き飛んだけどね>>
赤いアサルトナイトのパイロットがそう答える、声を聞く限り若い女のようだ。
<<それじゃあ第二ラウンドといきましょうか、とは言ってもここからは二対一だけど>>
俺は彼女のアサルトナイトの手を借りて、機体を引き起こす。大丈夫だ、彼女のおかげで機体へのダメージはない。
<<そうしたいのは山々だが、残念、時間切れだ>>
そう言うと敵機……ジャックハンマーの腰部から何かが射出され、俺達の目の前で炸裂したと同時にメインカメラにノイズが走る。
これは……EMPグレネード!?
攻撃を受けまいと視界を失ったまま、反射的に機体を後ろへ下がらせる。耳を頼りにして敵の位置を探ると次第に遠ざかっていくブースターの音だけが聞こえた。
<<……やられたわね、まさか最後の最後にあんな隠し玉を持っているなんて>>
戻りつつある視界の中で、赤いアサルトナイトのパイロットが呟く。
<<逃げてくれただけマシだ、この状態で攻撃を受けていれば……>>
視界を失った時間は約二秒間、その間にあのビーム砲やパイルを受けていたら避けれなかったかもしれない。
<<そんなことよりごめんなさい、私の到着が遅れたばかりにあなた達CDFに迷惑をかけてしまって>>
赤いアサルトナイトのパイロットが装甲解除しながらこちらに歩み寄る。
<<いや俺は……>>
CDFじゃない、と言おうとしたがその一言は赤いアサルトナイトの中から現れたパイロットを見たことで言えなかった。
「改めて、PMC『ブルーフランカー』から派遣された暁星 憐華です」
赤髪のツインテールを靡かせ、敬礼しながらそう答えるパイロットの姿は、どう見ても子供だった。