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ゾンビの顔色  作者: Nemuru-
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2015年6月24日①

 2015年6月24日



 ホームルーム前に、榊先生に職員室に呼ばれた。「部活の希望を出してないの、本永と八重樫だけだぞ」

高1は運動部を推奨されているが、2人は免除されているのでその縛りはない。しかしいずれかの部か同好会に所属することになっている。

 「…」正直、夜叉の家に行く時間が大切なので、部活どころではない。本永はどうなのだろう。

「俺はそんなのは無理だ」本永が久しぶりに立ったまま揺れ出した。

「教室で多数の人間に囲まれて、話しかけられるようになっただけで、いっぱいいっぱいなのに、別の団体で新たに人間関係を構築しろなんて、先生俺に恨みでもあるのか」

「そりゃ、外様の件で随分頑張ってるとは思っていたが…そんなに無理してるのか」

返事の代わりに黒髪が小刻みに揺れる。瑞生は一つだけ、浮かんだ案を試してみたくなった。「先生、考えてみます。続きは後でいいですか」


 「佐々木、君の同好会、部に昇格を考えてるって聞いたけど、僕と本永が入会すると人数が増えるよ。幽霊部員でいいなら、前向きに検討するけど?」後ろの席の佐々木に話しかけた。

 佐々木は鳩みたいに目をぱちくりしていたが、突如教室外に飛び出していくと、暫く後にこにこ顔で戻ってきた。机に身を乗り出して、何故か小声で「お蔭で部に昇格できると思う。でも幽霊ってばれるとマズイから夏休み前の報告会には出て写真撮らせてくれれば後はいいよ。八重樫効果で女子が入ってきた時に、『幽霊の約束で入った』なんて言わないでね。『最初は興味あったんだよ』位のリップサービスはしてね」と確認してきた。瑞生は交渉成立とばかりに、頷いた。

 「お前って妙に…」本永が前を向いたままで呟く。

「『擦れてる』って言っておいたよね? それに異論ないんだろ? そういう時は『ありがとう』だよ」いつも上からの本永のお株を奪った気分だった。


 アイドル研究会に入会する旨を伝えに行った時、榊先生に面談を申し込んだ。意外そうな顔をされたが、昼休みに時間を取ってくれることになった。

 

 面談室は職員室の並びにある。昼休みに溢れ出た生徒の間を縫って面談室Ⅲに入る時、立和名の姿が見えた気がしたのだが、戻って確かめる時間がなかった。

榊先生は成績表を広げて、「よくやったと思うよ。入学時の成績は学年100名中97位だったから。英語や数学の小テストの成績も良くなかった。それが、6月に入ってからめきめきと力をつけてきた感じだな。授業中も理解しながら聞いているのがわかるよ。それで、何が心配なんだ?」

「ちょっといいですか…?」言いながら成績をメモしていく(さすがに写メしては失礼だと思ったので)。それを先生は不思議そうに見た。「八重樫…」

「あ、生物が悪い」生物だけ平均点より20点低かった。

「そう、真ん中の順位だとオール平均点というイメージになるけど、君は英数国が若干上で、生物がドンと下で、後の教科はほぼ平均で、結果ど真ん中になった。生物は、今までの生活で培ってきた知識や感覚が助けになるが…そういうタイプじゃないことがわかったんだから、今から覚えていくしかないな。…八重樫、成績表見てないんだな」

 「はぁ、諸事情で。…あのぅ、先生、成績が酷かったのに僕が入学できたのは、伯父が多額の寄付をしたからですか?」

「なんだ? そんなことを気にしていたのか? …しかし、そういう質問には答えられないな…」

「じゃ、これなら答えられるでしょう? 学園に伯父の知り合いはいますか?」

「…」

「学園長が伯父の知り合いなんですね?」友人のいない伯父の“知り合い”で、プライドから考えても話を持って行くのはトップの人間に決まっているからだ。

これには榊先生はあっさり頷いた。

 これで、榊先生に事情を話して味方になってもらうのは困難と判明した。今まで榊先生の取ってきた態度を見てみれば、悪い人じゃないけど典型的な『長いものには巻かれろ』タイプであることが明白だったからだ。


 そうとなったら残りの休み時間で本永と策を練ろうと思い、「急遽面談して下さってありがとうございました!」と一礼するや、大股2歩で面談室のドアを開けた。

 「あ、あ」ドアと共に前のめりになって面談室の床に転がり込みそうになったのは、なんと立和名だ。瑞生と目が合うと真っ赤になって飛び上がった。

「なんだぁ?」後ろで榊先生が間の抜けた声を出す。自分の身体で立和名が隠れているうちに、「失礼しま~す」と体ごと立和名を押し出してドアを閉めた。

 「ごめんなさい、ごめんなさい」立和名が小さな声で繰り返すばかりなので、とりあえず人のいなそうな通路に引っ張っていく。

 誰もいない図書室近くの廊下で、瑞生はようやく立和名の腕を放した。「どうしたの?」

 立和名は今にも泣きそうな顔で、「八重樫君から、『二度と俺に近づくな』ってメールをもらったけど、信じられなくて、面談室に入るのが見えたから、つい盗み聞きを…ごめんなさい」と俯いた。

「え? 僕メールなんてしてないよ」

「え、え?」


 2人で立和名に届いたメールを見てみた。

「『二度と俺に近づくな。俺に話しかけていいと思うな。』…う~ん、これを僕のメールと思ったの?」

立和名はパチパチと何度も瞬きした。「八重樫瑞生、と名乗ってるので。それにメアド教えたばかりだから…。でも文面が八重樫君ぽくないなぁ、と思ったから、何か様子がわかるかとさっきも面談室のドアにへばり付いてみたの」

 「なるほど、わからないでもない。僕にメアドをくれた直後に僕を名乗るメールが来たら、そう思って当然だ。普段、“僕”を使う人間がメールの時だけ“俺”は変だと思ってほしかったけど」

「そう、思ったの。それにちょっと“俺様”風でしょう? そこにも引っ掛かったの」

 “俺様”、まさしく瑞生を騙った人物の性格が投影されている。メールのなりすましにすら、人は自分を滲ませてしまうものなのか。本当に乗っ取ってなりすましメールを送るなんて、伯父さんって憐れな人だなぁ。本永のアドバイス通り、新しいスマホを買ってもらっておいてよかった。


 「ごめんね。身内の犯行だと思う。立和名からもらったメモを嬉しくて机の前にピンで留めておいたせいだ」こう言うと、立和名は耳まで薄ピンクになった。

「知ってるかもしれないけど、ちょっとごたごたしているものだから。…学校でこうして話をするのが一番安全だな。それでよければ、こうして会おう。僕の名前でいく電子物は信用しなくていいよ。言いたいことは僕は直接言うから。ああ、でも、噂を君が気にして、もう僕と係わるのはご免だと思っているなら、僕の方こそ話しかけないから、そう言って」

 立和名は背筋を伸ばして、凛とした佇まいを見せた。

「もっと、こうして話したい。私は噂より自分の目と耳を信じることにしているの」こう言うと、柔らかく微笑んだ。

 瑞生はその可愛らしさに舌を巻きながらも、立和名も芯のしっかりした、気の強いタイプだと確信した。自分の周りには気の強くない女性は一人もいない気がする。もしかして『気の弱い』という性質はもはや男にしかないものなのか?



 久しぶりの体育実技の時間が、貴重な勉強兼対策検討会になった。

本永には隠し事をして分析の精度が落ちては元も子もないので、立和名の件も話した。

 「犯人は伯父だと思う。伯母には動機がない。百歩譲って伯母だとしたら、ばれないように僕らしい文章を作るはずだよ」

「おお、こんな俺様な文言を平気で送れるのは伯父さんだけだろう。曽我さんならもう少しまともな文にするだろ」

「ああ、曽我さんの可能性を思いつかなかった。メモを伯父に見せたのは曽我さんだろうから、絡んでるのは間違いないけど。IT系のことには口出しはしていないと思う」

 心の中で、生物の問題集も持ってきたことに安堵していた。父と自分の写真が挟まっているのだ。そうだ。生物をなんとかしなきゃ。

 同時に良心の呵責を覚えた。部屋に勝手に侵入して伯母が隠していた写真を持ち出している事への罪悪感と、それを隠したままであることの後ろめたさだ。

 

 体育の授業が終わり、皆が教室に戻ってきた。夏休みまで水泳だから大雑把な男子の髪は頭に張り付いているか、天パーに戻ってクリクリしてるかだ。女子はドライヤーを交代で使うらしく、デオドラントスプレーの香りが混ざって少し息苦しい。

 坂下副委員が教壇近く、というより本永の席の前で、「職員室で聞いたんだけど、榊先生は結構ピンチらしい。外様の復学はさらなる事故を呼びかねないでしょ? 『その危険に対して君が責任取るのかね』とか言われてるらしい。元の事故の責任者のハンド部顧問の2人は知らんふりを決め込んでるって」と皆に聞こえるように言った。

「ハンド部は去年県大会ベスト8まで行ったから、うちの学園の球技では花形だ。『外様君はハンド部期待の星だ』なんて言ってたくせに、『もう退部した生徒のことですから』だよ」とはハンド部2軍の奴だ。

「署名運動とかした方がいいかな」

「ハンド部の奴はレギュラー外されるの嫌だから、顧問に逆らえないぞ」「生徒がダメなら親は? 幼稚舎からずっと一緒なんだから、親の方が協力的かも」「推薦狙いの親はどうかな」「もう、人間不信になっちゃう」

 「でも、おかしいよね。政治家みたいじゃない? 『選挙の公認から外されるから政党に逆らわない』みたい。私たち生徒って、私学においてはお客様なんじゃないの? 高い寄付金取ってる上に、推薦枠ちらつかせて、自分たちのミスや義務を誤魔化すなんて許せない。外様の人生破壊しといてそれはないんじゃないの?」東は闘うモード全開だ。


 「学校は、寄付金と授業料を払ってくれる保護者に弱いはずだよね? でも署名運動とか言うと外様のお母さんが率先してやらなきゃいけなくなる。学校側も頑なになりがちだ。だから、みんなが家で声高じゃなく同情的に呟いたらどうかな? 『外様とはずっと一緒なのに酷いよね。クラスのみんなが復学を待ってるのに』『俺たちサポートする気があるのに、新たな事故の危険性を言い訳にするのは教育者としてどうなの?』なんてさ。みんなの親にしてみたら、我が子が級友を気遣う優しい子だと再認識して嬉しい反面、その優しさを発揮する場を提供しない学校側の態度にカチンとくるのじゃないかな? じわじわと保護者が先生に言ってくればしめたものだよ」瑞生は前の席の本永に向かって、いつものように話しただけだったのだが、真横には蒲田、斜め前に坂下がいた。そして、クラス全員が聞いていた。

 

 「八重樫の提案を採用! 一番事を荒立てず効果も狙える作戦だと思う。今日からさりげなく親に呟こう。榊先生の耳に入れば頑張り甲斐があるんじゃない?」と坂下。

「八重樫が、いじめの横行する公立中で女子に身体を売らずに生き延びたのって、なんかわかる気がする。ぼんやりしてるだけじゃなかったんだ」東が感慨深げに言った。

「俺もそう思った。策略家とまではいかないけど…、なんかそういう才能があるようだな」蒲田までもが腕組みをして言った。


 今日の夜みんなが家で呟けば、翌日から徐々に反響があるはずと踏んでいたのだが、女子は行動が素早かった。その場で母親にLINEした女子が数名、尾ひれのつけ方で個性を競い合ったようだ。1時間後に、PTA主催“クラシックの夕べ”実行委員会の集まりで早速話題に上ったのだ。母親たちの解釈も各人各様で、『榊先生が若いから年配教員からいじめられている』『外様家に見舞金の減額に同意したら登校を許可する、と圧力を掛けている』『何の処罰も受けていないハンド部の顧問は学園長の甥だ』というように、SNSであっという間に拡散し、5限目の授業中にPTA会長から学園長に質問が成されるほどになった。



 「お前の擦れた部分が役に立つこともあるって証明できてよかった」本永がにやりと笑う。瑞生はむかついたので「なんで今日も来るの」と嫌味を言う。「久しぶりに昨日行って、再認識した。予期せぬ展開、手に汗握る緊張感、生きてるって実感を噛み締められる、あそこは」本永は全く意に介さずシートベルトを締める。伯母の車は夜叉邸に向かった。

 今の当たり障りのない会話程度が車中の限界だ。瑞生が見ると、伯母は何か言いたいのを我慢している様子だった。


 夜叉邸には、予想外のメンバーが揃っていた。

「サニ! 久しぶりだね」瑞生はサニに会って単純に嬉しくなった。サニは秘密の塊だけど、思慮深くて頼りがいがある。

 その後ろに森山を見つけて驚いた。「森山さん!」

「おお、どの面下げてこの家の敷居を跨いだ、って感じか?」本永は鋭利な刃物だ。

 森山は神妙な面持ちのまま、「やあ」とぎこちない挨拶を返した。


 「今日は病院はいいの?」瑞生の問いに、サニは伯母へのアプローチで返した。「カスミ! 会えて嬉しい。相変わらず咲き誇るバラのように美しいね。そう病院、難しい。人選、運営、ヤエガシさん、全部難しい。頭来て、こっちに戻った」

 宗太郎の名前が出て、霞と瑞生に緊張が走ったのを、森山以外の者は感じ取っていた。森山は皆の疑問に自分が答えようと頭を整理していたようだ。

 

 「一応、AAセンターは7月いっぱいで終了するように話がついたんだ。アンチエイジング科では研究費を獲るためにあった部署を閉鎖し、主流は継続するからそんなに混乱はない。ゾンビーウィルス科はウィルス解析センターと言う名で。ウィルス漏れや無菌設備と警備対策を何重にも確認している。元々しっかり作られた病院なので、施設としての準備は完了している。藁科の代わりとかCDCなどの他国の機関が医師の派遣を申し出てきて返答に苦慮してはいるが、何とかなると思う」

「問題は例の病棟のマスコミ対応と八重樫さんだ。僕も病棟の存在を知ってはいたけど、働いている医師やスタッフと顔を合わせたことはなかった。出入に裏口を使っているらしいんだ。確かに過去にはメディアに出ると困るようなこともあったらしい。センター側は要治療の患者ならば、多岐な症状であっても引き受け、ひっそりと療養させようというコンセプトだった。だがセレブ連中ときたら、開村で暗躍した政治家がいい加減な触れ込みで後押しを頼んだ影響もあるだろうが、“単なる甘やかしのメタボ”“躾以前の半グレ”“知能犯的病弱”…などを送り込んできたんだ。VIP病棟の医長は根気よく面談を重ねて、“患者”とは呼べない状態の人は退院させたそうだ。凄いバッシングを喰らったらしいよ。対して治療の必要のある患者には精神科・心療内科・神経内科の垣根を越えて対応した。これを繰り返すうちに、さすがに“なんとかヨットスクール”のように根性を叩き直す系の勘違いや、“厄介払い”の施設ではないと浸透していった。回復症例を評価して優秀なスタッフが集まっているんだ。患者の家族は支援してくれるから給料もいい。それで医長は継続なんだよ」森山は一気に話すと、ほっと息をついた。


 「なるほど。いい事の方から報告するタイプなんだというのはわかった。で、悪い事の方は?」

 本永の失礼な突っ込みに、森山は反発どころか、待ってましたと頷く。しかし、伯母に対してばつの悪そうな顔をして言い淀んだ。

「どうぞ、気になさらないで。八重樫の事だから想像つきますけど、私も聞きたいですから」と伯母は微笑んだ。


 「そのぅ、八重樫さんは骨形成不全症の専門科を作るために、自分の主治医の弟子に話を持ちかけた。高名な主治医ではなく弟子なら大丈夫と踏んだのだろうが…。弟子と言っても当然担当している患者がいる。それを八重樫さんは札びら切って強引に誘い、他のスタッフも引き抜こうとしたために、反感を買った。ここまで通院するのは他の患者には明らかに負担だ。あの病気は症状の個人差が大きいから、データを蓄積して遺伝や環境因子との関連を研究し今後の治療に活かすというのが大前提だったはずが、八重樫さんの言動から結局は『自分のお抱え医師に傍にいてもらうために研究施設を用意したい』というのが見えてきてしまって。結局東京の医師に断られて、八重樫さんは大阪や名古屋でも同じような事をした。そして今では一人の医師も手配できなくなったんだ」


 「なるほど」「如何にも、宗太郎だわ」

瑞生と霞が一緒に頷く姿を、事情を知る本永は興味深そうに見ていた。


 「病院は誰のためのもの? 患者のためのもの。医療を提供して医師・看護師スタッフ、報酬を得る。ここは? 今まではアンチエイジングとVIPビョートー。ここに来るのは時間と金と見栄のある人だけ」

 日本人では言いにくそうなことを、やたらとキッパリと、サニは一刀両断に切り捨てた。


 「ま、まぁAAセンターは人々のニーズに応じてできたというより企業や資産家の目論見で設立されたものだから、それらを根本から排除しない以上、夜叉の病院買い取りの精神に沿うようにはいかないね」森山がとりなすように言う。


 「しかし、困ったもんだな。夜叉の買った病院と言うだけで興味本位に扱われる。金持ち村をやっかむ連中や村内に入り込めないメディアは格好のスクープネタを探してるだろう。伯父さんはブチ切れ動画以降、好奇の目で注目されている。伯父さんがいい気になって世間にアピールすればするほど、霞さんも八重樫も病院も夜叉も窮地に立たされる。世論の流れを甘く見ない方がいい」本永の発言は、もはやこの場の重鎮レベルだ。


 サニが再びきっぱりと言った。「これからはヤシャの病院。ゾンビーウィルスのための病院」

「確かにそのために私財を擲って買い取ったんだよな。それだ。基本に忠実。『夜叉のゾンビーウィルスの研究病院、極めて真面目にそれに尽きる』と言えばいい。『AAはノウハウを無駄にしないため、VIPは転院できない患者の事を考えて継続するだけだ』とな」

 本永に結論を出されてクマちゃんは苦笑しながら頷いた。



 これで夜叉通信までの間、クマちゃんは自由に仕事が出来る筈だった。ところが予想外の所からお呼びが掛かった。


 「『これ以上忙しくなったら身が持たないから断る』って言っちゃえばいいのに。クマちゃんも人がいいなぁ」本永はビジターセンターに車で向かうクマちゃんの後姿を見送ると、半ば呆れ半ば感心して呟いた。

瑞生も負けじと呟いた。「『クマちゃん、恋の予感』かぁ」


 クマちゃんに呼び出しを掛けたのはコスモスミライ村新自治会執行部だった。これが門根からの要請だったなら「冗談じゃないわよ、この忙しいのに!」と一蹴していただろう。だがクマちゃんは一言の愚痴もこぼさずに、真っ赤な口紅を塗り直して出かけて行ったのだ。

 瑞生にはクマちゃんに化粧直しさせる相手の心当たりがあった。以前、田沼主催の事前会議に召集された時、ユニークで建設的な意見を述べた人がいたのだ。




 

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