7月1日の物語(本戦開始)②
頑張った。
同日 同場所 11:00
「ボディチェックは終わりましたので、しばらくお待ちください。実況の方が選手名を呼びますので呼ばれたら入場してください。」
彼の心にはいまだ暗い炎がチラついている。彼はそれに気づきながらも無視する。
ふと足元を見れば正面から入ってくる陽の光のせいで影が生み出されている。どちらも材料が大きければ大きいほど大きい物が作られるところにルークはまるで暗い炎はこの影にのようなものと感じていた。
◇
「さぁ!いよいよ闘技大会個人部門の本戦が始まります!出場者は予選を勝ち上がった15名に昨年の優勝者である1名を加えた計16名です!」
「まずは第1試合!最初に登場するはイノサンス学園2年のルーク!」
ルークは光射す方へと歩み始める。
選手の姿が見えてくるにつれて観衆は大声で迎える。
服装は運営側から支給された簡素な服。しかし服装とは裏腹に背中に背負った大剣は堂々たる存在感を示していた。それは陽の光を受けて黒く光っており、腹の部分にはいくつもの線が入っているのが見える。
「次に入場するは同じくイノサンス学園の3年のエーレル・ベルン!」
少しづつ彼の姿が見えてくる。腰には1本の剣が刺されており、彼の歩みに合わせて軽く揺れる。周りから評判の金髪は少しづつ陽の光を受けて輝き始める。
学園の人気者の登場に生徒たちはより大声を上げて迎え入れる。しかし彼はただ正面に居る敵の姿を見据え敵意を露わにする。
「む・・・。」
敵意に気付いたルークは負けじと敵意を露わにする。たとえ周りの人からは見えなくとも既に戦いの火蓋は切られているのは明らかだった。
「さぁ!初戦はお互いに学園の生徒。そして!エーレル・ベルン選手の名は学園内で有名な様子!ならばルーク選手もその名は聞いたことがあるでしょう!」
「学園の実力者にルーク選手はどのように立ち向かっていくのか!?みなさまとくとその目に焼き付けてください!」
2人は差していた剣を外し構える。
ついに始まろうとしている本戦に観客は盛り上がる。
観客たちとは逆に両選手は微動だにせずお互いに敵意をぶつけあっていた。観客たちが「動」なら選手は「静」を表していた。
「闘技大会第1回戦始め!」
審判による開戦の合図と同時に両選手は別々の動きを見せる。
ルークは真っ直ぐと直進をしていく。それに対しエーレルは防御の構えを取る。
ルークは自身の剣の間合いよりやや外側から突きを放つ。助走を付けられたことによって勢いの付いた突きはエーレルの心臓へと向かっている。
エーレルはルークの剣が自身の剣の間合いに入った瞬間に体を捻りながら突きを躱し剣の腹で受け流して突きの軌道を変えると同時にいつのまにか強化していた右腕のみで突きを放つ。いや、エーレルの放った突きは突きなどでは無かった。ただ右腕だけで剣を真っ直ぐ地面と平行にしたに過ぎない。
しかし、今のルークは助走によって勢いが付けられた状態。たとえ剣を平行に置いただけでも、自身の持つ勢いによってエーレルの剣は自身の体に突き刺さるだろうとルークは分かっていた。
ルークも体を捻り、刺さらないようにする。しかし勢いの付いた状態から突然体勢を変えたことによって、ルークはバランスを崩す。
結果。体勢を整えなおした時にはある程度の距離がまた開いていた。
ルークはじりじりと間合いに気を付けながら少しづつ近づいていく。エーレルは未だ開始地点から1歩も動いていなかった。
ルークは息を整えながら距離を少しづつ詰めていく。ルークはエーレルを中心に置き円を描くように動く。ルークが円を描くのに合わせてエーレルも向きを合わせていく。ルークの目は敵の隙を探そうと忙しなく動きつつも彼の足からは意識を外さない。対してエーレルはただ一点にルークの目を見ていた。
間合いを見極めた後、ルークは攻勢を仕掛ける。
ルークの巨体とそれによって繰り出される大剣の猛攻。エーレルは直剣1本でそれを受け流し防ぎ続ける。
剣と剣がぶつかる衝撃音。剣が剣を受け流す摩擦音。観客が発する声音。今はこの3つがこの場を支配していた。
猛攻から逃れ続けたエーレルに1つの隙が生まれる。ルークはそこを見逃さずに一撃を放つ。エーレルは受け流すのは手遅れと感じたのか、剣で受け止め鍔迫り合いが起きる。
「貴様の剣は随分と攻撃的だな。」
「あぁ?・・・あぁそりゃそうだ攻撃は最大の防御が座右の銘なんでな。」
互いの剣を互いに押し返す。互いにフェイントを入れるも互いにそんなことは分かっていると言わんばかりに対応していく。
「ふっ。なら1つ教えてやる。攻撃だけでは相手に攻められないように護ることが出来るだろう。しかし大切な物は守れないということをな!!」
両選手は鍔迫り合いでは埒が明かないと判断したのか互いに後ろに下がる。
「今度はこちらの番だ!」
距離が開いた瞬間にエーレルは魔法で加速しルークへと迫る。
右斜め下からの攻撃に対してルークは打ち返す。エーレルの剣は行きと同じ軌道を描きながら戻っていく。エーレルはその勢いを利用して回転し、左斜め上から斬りかかる。
ルークはそれを受け流し、体当たりをかます。エーレルはバックステップで衝撃を軽減する。体当たりを避けた後、ルークは足払いをする。
エーレルはこれをジャンプで避ける。ルークはこれを狙っていたのか「隙あり!」とでも言わんばかりに攻撃する。エーレルはこれを防ぎ、分が悪いと感じたのか再度距離を開ける。
「さっきの言葉についてなんだけどもよ。」
「なんだ。」
「お前盲目というのは本当か。」
エーレルについての情報は簡単に集まった。有名人だからこその弱点とも言えるかもしれない。その中で1つの噂を聞いた。曰く「彼は小さいときに悪魔と取引して目と引き換えに強大な力を手に入れた。」と。
「貴様はどこでそれを聞いた。」
エーレルは何も変わらない様子で尋ねる。
「さぁな。ただの噂として流れてきただけだ。」
「噂の詳しい内容を知りたいところだが貴様の質問に答えるとしよう。」
「それで答えはなんだよ。」
「その噂は本当だ。」
答えた瞬間エーレルの存在感が増したのをルークはいち早く察知する。
ルークはその場から飛び退く。それは思考の余地すら無い本能と直感による動き。
ルークが飛び退いた直後、ルークの居た地点から大砲の弾が着弾でもしたかのような大きい音が響き砂煙が舞い上がる。
砂煙が晴れた後にそこを見ればエーレルがそこに立っていた。
「これがその力だ。」
「そんな風に言われても全然わかんねぇなぁせいぜいその剣がなんかしら関係してることくらいしかわかんねぇよ。」
今やエーレルの剣は試合開始の時と違いはっきりとした光を帯びていた。
「それが俗に言う魔剣っていうやつかよ。」
「その通りだ。悪魔の取引って言うのは嘘だが目と引き換えにこの剣を手に入れた。」
「目と引き換えたにしちゃそこまでの物には見えねぇがな。」
「見た目だけはな。だが剣自体としての性能に付与されたモノの一部が目の代わりになってくれているのでな結果だけ見れば大きい利益が出ているのだよ。」
ルークはエーレルに対して同じ剣士としてだけでなく人としても恐怖を抱いた。そんな儀式がいくら貴族といえども子供1人だけで行えるはずがない。ならばそれを先導したのは彼の親ということになるはずである。しかし今の彼の様子からは親に対する負の感情などは全く見られなかった。
「その儀式をやろうと言い出し行ったのは誰だ?」
「もちろん親に決まっているではないか。」
「ならもちろん親は全部知ってるんだよな。」
「そうだ。」
「なら何故お前は廃嫡されてないんだ。目が見えないとなっちゃ貴族として終わったも同然だろう。」
「そんなことは知らんよ。廃嫡したくとも出来ない何かがあるんだろうさ。」
「お前は親に関して何も思うことはねぇのか。」
「何も。」
この時点でルークはこいつは自分と全く相いれない存在というのを確信した。
「最後に1つだけいいか。」
「なんだ。手短に頼むぞ。さっさとこの試合を終わらせたいんでな。」
「俺はお前のことが大っ嫌いだ。」
「そうか。」
吐き捨てるようにして言ったルークに対してエーレルはあっけらかんと返す。
闘技大会本戦1試合目。まだ始まったばかりである。
次で試合は終わるはずです。




