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6.旅は道連れ世は情け

久しぶりの更新です。

長らくお待たせしました…

 


「……奴隷か」

「そう。何とかならないかな?合法じゃないんでしょう?保護とかできないかな」

「そうだな……受け入れ可能な施設を探すしかないが、奴隷の刻印があるジスは難しいな」


 現在、私達といる子供はジスを含め五人。しかし、奴隷の刻印があるのはジスただ一人だった。

 施設で受け入れ可能なのは刻印を刻まれる前の子供のみ。刻印がある子供はいく先々で奴隷として扱われることが多い為、迂闊に施設には入れられない。刻印を見た別の誰かに再び攫われて、隷属されてしまう可能性が高いのだそう。


「刻印消せないかな……術者を見つけるのは多分難しいよね」

「あぁ。それに、この呪式は恐らく下っ端の術者程度じゃ解けないものだ」


 私とアルくんがそうして暗い顔をしていた時。

 ヴィオラがふと、呟いたのだ。刻印を消せるかもしれない、と。


「私、聞いたことがあるのですわ。

 隣国のダーフェ国の古都にある聖紫宮(せいしきゅう)という場所に呪術を専門に扱う魔女がいる、と。その方なら、もしかしたら…」

「可能性、あるのね。なら行くわ。

 駄目だったら駄目だったで世界中回ってたら一つくらい何か見つかるでしょ。

 元々旅をしようと思っていたし、手始めにそこに行くのも悪くないわ。目的地があった方がいいだろうしね」

「……はぁ…どうせ俺が何言ったって聞かないんだろう…好きにしろ……」


 呆れた様な態度を取るアルくんはどうやら賛成の様だ。仕方ないから、という風を装っているがお人好しの彼の事だ。私が何もしなくても彼が何かをしようと行動していただろう。

 現に、ジスを心配そうに見つめているのだから。


「ねぇ、ジス。私とアルくんと、一緒に旅をしない?貴方の奴隷の刻印を消すために。旅の目的はそれだから、その目的が達成された後どうしたいかは君に任せる。どう?」

「……イズミねーちゃん達は、それでいいの?俺、ただのお荷物じゃない?」


 不安そうにそう言うジスに、私は微笑む。その様子を見たジスは目に見えてホッとしていた。

 旅は道連れ世は情け、母さんがよく言っていた。大抵面倒ごとに巻き込まれていたんだけど。私は弟が空中三回転して見事に着地を決めるという状況を見て、考えるのをやめた。うちの弟凄いでしょう、凄いよね。何があったのかは聞かないで欲しい、切実に。


「さて、話は纏まったな。今現在俺たちの置かれている状況を説明する。

 大半の奴らは俺たち……いや、イズミを害することはない。だが、一部の貴族が既に色々と嗅ぎつけていてな。お前らが連れていかれそうになった先もその貴族の家だ。まぁ、ある意味賞金首になっているとでも思え」

「うへぇ……王様なんとかしてくれないの?」

「表立って動けない立場なんだ。まぁ、無理だろうな。城で保護を求めるならば話は別だが」

「それは勘弁」

「だろうな」


 なんでだろう、あの王様のヘラっと笑った顔が思い浮かぶ。とりあえず一発殴りたい。駄目か、駄目だよねぇ。あの人王様だもんね、国のトップだもんね。


「今夜中には国を出た方がいいだろう。旅道具は既に揃えてある。……一人増えたが、まぁいい。国を出る時、関所を抜けなければいけないが……おそらく貴族の手が回っているだろう」

「……まーた関所破りか…」

「け、経験あるんですの……?」

「まぁ……うん…」


 関所を通さないと言われた時、満場一致の「じゃあ破ろう」で、実行したうちの家族はやばいと思う。主に父さんと弟がやりました。私何もしてないよ、うん。ちなみに母さんは爆笑してた。そんな状況じゃなかったと思うの。


「ヴィオラは、これからどうするの?」

「そうですわね……こうなってしまった以上、私も国を出ますわ。元々我が家は商人ですの。拠点を移すことなんて他愛のないことですわ」

「そっか、よかった。いつかまた会えるかもね!」

「えぇ、そうですわね」


 恋する乙女は逞しい。自信満々に笑う彼女を見て、本当にそう思った。

 私はまだ経験のないそれだけれど、きっと素敵なものなのだろう。









「……ふぅ、ねぇ。アルくんや、私も武器が欲しいのだけれど。せめて護身用の小刀とかない?」

「……短剣のことか?気休め程度だろうが……これを渡しておく。何かあったら使え」


 そう言ったアルくんから、小さいが斬れ味の良さそうな短剣を受け取る。


 私たちは、馬を走らせながらそんな会話をしていた。馬に乗れると言った時は、アルくんに疑われが。そんなに非力に見えるのだろうか。ちなみに、元武官だというのは半信半疑といったところである。

 ジスが私と一緒に馬に乗っている理由は単純明快、アルくんと乗る事を嫌がったからだ。まぁ、仕方ないと思われるような態度をアルくんは既に取っていたので自業自得というやつだろう。


 私たちが今向かっているのは件の関所である。馬で十日はかかる筈だったのだが、裏技という名の権力行使であと三日で着くという状況だ。王様が発行した認可証をアルくんが所持していたというのが大きい。小さな関所くらいならばサクサクと通過できた。


「そういえば、ロウ爺とかメイルちゃんとか……屋敷の人たちには知らせたの?その、旅のこと」

「あぁ。伝えてある」

「そっか、それならいいや」


 私の都合で巻き込んだのだ。割と強引でもあったし、私にだって罪悪感くらいはある。挨拶くらい、したかったなと思う。


 ふと、ジスが少し前から一言も発していないことに気がついた。その前までは周りの景色に目を輝かせていたのだが。


「ジス?……ありゃ、寝てる…」

「馬の上で寝られるとはな」

「疲れてたんだよー、色々あったし。あー子供体温…ぬっくぬく…」

「居眠りして馬から落ちるなよ」

「いや、流石に寝ないからね!?」


 そうこうしているうちに、大きな壁が見える。おそらく、これが国と外の境界の関所だろう。

 少し離れた所で馬を止める。

 ジスを起こし、時を図りつつ周囲の確認をした。

 他の人は巻き込みたくないし、極力怪我をさせたくない。兵は数人いるが、まだ何人か奥にもいるだろう。


 それからは、特筆することもないほどアッサリだった。

 アルくんが陽動で派手に動き兵を引きつけている間に私とジスが一気に馬で駆け抜ける。それだけだ。

 すぐにアルくんも合流したし。

 国を出るのがこんなに簡単で良かったのか不安になる。

 外からの守りは堅くて内側からは弱いというやつだろうか。


 ここから先は山を越えることになる。

 ラムリア王国とダーフェ帝国との境には大きな山がそびえ立っている。その山を越えない限り、両国間の行き来は困難となる。

 何故なら、山を迂回しようとするとザリア国付近からの入国しか方法がないからだ。それは、どの国にとっても危険なもので迂闊には近づけない。


 だから、どうあがいてもこの山を越える必要があるのだ。

 例え、その山が“魔物”が生息する地帯であっても。


「関所破りの次は山越えかぁ……旅もままならないねぇ…」

「旅というより夜逃げみたい」

「それは言わないでおいて、ジス。悲しくなってくる……」


 夜逃げ……そうか、夜逃げか……まぁ、ある意味夜逃げなのか?


 ところで、先程出た魔物という存在。実のところ私の元いた世界には存在しなかったものだ。ただ、似たような存在はいた。私たちは“鬼”と呼んでいたが。


 魔物は、人間の悪意を吸収し過ぎた聖霊の成れの果て。悪意の塊、怨讐の化身だ。一度そうなってしまった聖霊は、もうどうしようもない。人に害となってしまうのだ。だから、討伐するしかなくなる。ちなみに、ここでいう聖霊とは魔法を生み出す手助けをしてくれている不可視の生き物らしい。詳しい生態だとかはわかっていないそう。

 妖みたいなものだろうか?


 対して鬼は、人だったものの成れの果てだ。世界の淀みと呼ばれる宝玉に触れたか、悪意に染まり続けた魂が変貌を遂げてしまったもの。無念のままに命を落とした魂や留まり続けた魂が別の“鬼”により淀みを埋め付けられたりしてもそうなってしまう。そんな存在だ。


 時に、私はそんな似て非なるものの対処など出来る気はしない。精々囮になるくらいか。そこら辺のことはアルくんに丸投げしておこう。


 私達は、何処かおどろおどろしい山を見上げ気を引き締めた。

 そして、ぼんやりと思う。


 ……山なら食料とか狩れるよね?と。




 空腹を主張する私のその音に、アルくんは呆れて溜息を吐いたのだった。





 緊張感がない?それな。


やっと旅に出させられました。

(少々強引ですが…)

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