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3.保護生活はじめ

 



「何あれ何あれ!?え、キラキラ光ってる!!翼!羽根生えてる!!飛んでる!」

「あれは飛行魔法の一種だ。……頼むから少し落ち着いてくれ…」


 私は今、アルバさんに連れられ王都に来ている。初めて目にする魔法なるものはとても綺麗で。先程からずっと目を輝かせてるのだが。

 あまりにも興奮してふらふらとあっちこっちへと行ってしまったせいか、右手を拘束されている。誰にって、アルバさんに。要するにアレです、手を繋いでます。恋人同士の甘酸っぱい奴ではなく、親が子供の迷子を防止するタイプの奴。アルバさんの保護者っぷりがすごい。オカンかな?

 ……なんだか、さんを付けるのも面倒になってきた。王都に着くまでに聞いた話によるとアルバさんの歳は二十一、私よりも二つ年上ということになる。…乙女の年齢については計算してくれるな。答えは出ているようなものだけれども。


 ちなみに、王都までの道のりで私は彼に対する言葉遣いを変えた。敬語を使い続けるのが面倒になったのではない。親しみを込めてだ。あと優しいお人好しの様なので、これ位で怒らないだろうという謎の自信に後押しされた。実際その通りだった。流石お人好しなアルバさん!


「んー、アルくんでいっか。ねぇ、アルくんなんか凄く見られてない?コレは私が見られてるの?それともアルくん?」

「……そのアルくんというのは俺のことか…はぁ、まぁいい。そうだな、見られているのは俺だな」

「へぇ……有名人か何かなんだねぇ」


 王都に入った頃からだろうか。私たちは常に誰かに見られている。監視とかそういうものではなくて、単純に街の人達の視線だ。好意的なもの、だろうか。悪意かと言われると首をひねる程度のものだし、害はなさそう。放置が得策だろう。


 正直に言うと。私はそれよりも、魔法に興味を惹かれているのだ。

 元いたところには存在していなかったそれ。

 火、水、土、雷、風、光、闇の七つの属性に別れた魔法は、日常的に使われているらしい。先ほど見かけた空を飛び移動する魔法の属性は風属性らしい。翼はその属性が使えない者にも使用できるように補助する魔法具。

 目を輝かせる私にアルくんが教えてくれたのだ。彼は嫌な顔ひとつせずに私が疑問を持ったことを説明してくれる。有難いナビゲーターである。


 魔法は魔力を生まれ持った人だけが使用でき、魔力を持たないものはごく僅かにしかいないらしい。そして、この国では魔力を持たぬ者は保護されるそうだ。

 人は少数のものを厭う傾向がある。迫害の対象になってしまう可能性の高い彼らは国が護っているのだそう。

 その制度を取り入れたのはラムリア現国王であるライオス=ディア=ラムリア。若くして国王になった賢王、信徒を導く者と呼ばれ親しまれているらしい。


「……この国って、凄く平和だよね。住みやすそうなところ。皆、笑顔だ」

「そうだな。そういう国にすると王が宣言していたからな。……アイツなら有言実行をする」

「あれ、アルくんってば王様と知り合いなんだ?割と親し気だね」


 幼馴染だ、と素っ気なく答えるアルくんを見て王様との信頼関係はとても強固なものなのだと感じた。王様がそう言ったから。アルくんはそれだけで王様がそうするのだと確信している。それだけの信頼関係を誰かと築けていること。

 私はそれがとても、羨ましいと思った。


「そういえばアルくん。聖霊の森の警備してたって言ってたけど、寝てなかった?私の記憶違い?」

「記憶違いだ」

「寝てたよね」

「記憶違いだ」

「サボりか」

「英気を養っていたともいう」

「サボりじゃねぇか」


 もしやこの人、割とサボリ魔なのでは。



 そうこうしている内に大きいとは言えないが小さくもないと言った屋敷に着いた。どうやらここがアルくんの家のようだ。

 中に入ると男の人が出てきた。おそらく使用人とかいう奴だ。アルくんからの事前説明はあったので、私は比較的に落ち着いている。


「おかえりなさいませ、アルバ様。そちらのお方は?」

「……森で保護した。恐らく星流人だ。報告の為暫く屋敷を空ける。コイツの世話を頼んだ」

「なんと。承知しました」


 受け答えをしていた人は、白髪に翡翠色の瞳の老人だった。ただ、背筋はピンとしているし、どこか動きは熟練の戦士のようでもある。

 アルくんはそのままお城へと向かう様だった。まぁ、確かに仕事の途中だったよな。寝てたけど。


「では、行ってくる。イズミ、大人しくしていろよ?勝手に外をほっつき歩いて迷子になるな、屋敷にいろ。わかったか?」

「はーい、行ってらっしゃい」


 完全にオカンになっているアルくんをさっさと追い出す。いや、人様の家だけどほら、ね?どうやら初対面で号泣した事も相まって相当心配されているようだ。心配というか…過保護になっている気がする。目を離したら何かをやらかすとまで思われていそうだ。まだ会って少ししか経ってないんですが。だがしかし、自覚はある。迷惑かけてますスミマセン。


「初めまして、お嬢様。私はこの屋敷で執事をしておりますロウと言います。お気軽にロウ爺とお呼び下さい。では……立ち話もなんですから。こちらへどうぞ」

「あ、ありがとうございます」


 ロウ爺に連れられ整えられた部屋へと案内される。恐らく応接室の様なものだろう。華美なものは何もなく、どこか素朴な雰囲気のある部屋。ゴテゴテと飾り立てられている部屋よりもよっぽど過ごしやすいだろう。何より落ち着くのだ。

 そこで、まだ自身が名乗っていないことに気がつく。名乗ってもらっているのだからこちらもそうしなければ。礼儀というものは何処でも必須だ。


「私は和泉 蛍と言います。イズミが性でホタルが名前です」

「イズミ、ホ…ル…ホティ…

 申し訳ございません、お名前の方は私どもには発音が難しいようです。イズミ様とお呼びしても?」

「あ、はい。大丈夫です」


 この時初めて私の名前はこっちの人達には難しい発音だと知った。そういえば、アルくんにはイズミとしか教えてなかった。まぁ、大した影響はないだろう。それにあまり本名を教えるつもりもないのだ。

 (まこと)の名を知られるということはその人の生きた(みち)を知られる事と同義。生きた路を知られれば命を、魂を掴まれることに同じ。だからこそ、悪意ある者に知られてはならない。これは我が家の掟だ。


「お爺ちゃん!客間の用意が出来ました!」

「そうか、ありがとう。イズミ様、お食事は如何なさいますか?」

「あ、じゃあ軽く何かお願いします」

「わかりました!少々お待ちください!」


 私に遠慮の文字はない。ずっと歩き詰めで疲労し空腹であったのもあるが。ご好意は有難く受けよう。お腹減った。

 桃色の髪をサイドに纏めた翡翠色の瞳の少女は、とても楽しそうに何処かへと向かっていった。大方料理をお願いしに行ったのだろう。もしくは作りに行ったのか。アルくんは数人の使用人がいるとしか言っていなかったから、確証はない。


「あの子は私の孫でして。メイルというのです。とても可愛い子でしょう?いつもああして私の手伝いをしてくれているのですよ」


 私はロウ爺の孫自慢を聞きながら、食事をする部屋へと案内されていた。

 とても暖かい場所。アルくんはここで育ったからこそああいった優しい人になったのだろう。暖かいものに包まれた人は少なからず自身も暖かい存在になるものだ。そう思うと自然に笑みが浮かぶ。

 私を見つけてくれたのが彼でよかった。



 出された料理はとても美味しかった。とろとろでふわふわな卵に包まれたお肉は、柔らかく噛むたびに肉汁が溢れそうになる。この料理はこの国の郷土料理でカフネというらしい。この国の昔の言葉で恵みという意味らしい。

 料理人のゼフさんにそう言うと豪快に笑ってありがとうと言われた。お礼を言うのは私の方なのに。


 ご飯を食べ終わると、メイルちゃんがお風呂を準備してくれていた。疲れた身体に暖かいお湯はとても気持ちよくて。その間だけ、ここが異世界なのだということを忘れさせてくれた。




「では、お休みなさいませ」

「はい、ありがとうございます。お休みなさい」


 ご飯を頂き、お風呂まで入らせてもらった私は現在客間のベッドで寛いでいる。

 ふかふかのベッドの上で呆けながら、今日のことを考える。

 帰宅したらそこは森で。歩き回ったら明らかに別世界。そこで出会ったアルくんに拾われて、保護してもらっている。

 なんて濃い一日だろう。忘れられない一日だ。


「……ある意味、忘れられない誕生日だなぁ……」


 今日は私の誕生日だった。仕事から帰って来たら、母さんの作ったケーキを食べて父さんにちょっとした鍛錬をしてもらって弟に癒される。そんな日のはずだった。


「まさか異世界に来ちゃうなんて。びっくりだ。……心配、してるかな」


 もう二度と会えないのであろう家族を思って、私は眠りに落ちた。


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