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1.帰宅したら森だった

のんびりペースで更新していきます


 異世界転生とは。

 生きて死ぬという人の人生を全うした記憶を有し、再び産まれるということ。前提条件として1度目の人生とは全く別の世界に生まれ落ちることが挙げられる。言わば、別世界の記憶を持って産まれることを指す。


 そして、それとは似て非なるもの。それは異世界転移である。

 これは文字通り、何らかの影響で異世界に転移することだ。身一つで何も知らない、こちらの常識も通じない別世界にご招待。誰が喜べるだろうか、そんなもの。


 察しのいい方なら既にお分かり頂けただろう。そう、私こと和泉 蛍(いずみ ほたる)は現在、異世界転移を経験しています。


「何処ここ……」


 私は確か、学校から家に帰って来たはずなのだ。何故にして家の扉を開いて入りふと顔をあげたら森?

 鬱蒼と生い茂る木々に溢れた森??いつから私の家は森に変化した。

 加えて、木々は見たことのないものばかり。蔓のようなものが地を這っていたり、葡萄のような房になっている実の色がどす黒いような赤なものだったり。

 明らかに私の知っている場所でもないし、そんな植物の生えている森など見たことも聞いたこともない。

 それはまぁ、いい。いや、良くはないのだが。良いということにしておこう。

 何故よりにもよって今日なのだろうか。


「母さんの、けーき……」


 ふわふわの生地にたっぷりの甘いくりーむ、そしてキラキラと輝く母さんお手製の飴細工が飾られた年に1度のご褒美である母さん手作りけぇき!が待っていたというのに。この仕打ち。

 私がこの1年どれほど楽しみにしていたか。神というものがいるのなら今すぐ目の前で正座させ懇々と説明したい。

 滅多なことがなければ作って貰えないんだぞ。レアものなんだぞ。普段おっとりでドジな母さんの本気の逸品なんだぞ?それを、この目で見ることなく、別世界に来ました、だと。

 やばい、泣きそう。

 もっと別のことで泣けよと思われるかもしれないが、私にとっては何よりも絶望することだ。今この時点では。


 ひとしきり悲嘆に暮れた後、状況を整理、把握する為周囲を見回すことにする。

 知らなければ何もできない。ここは森だ。このまま夜を迎えるのは、いくら箱入りの小娘である私でも危険だとわかる。

 周囲には何もない。あるのは生い茂る木々のみ。


「うぅん……川か何かあれば、それを辿って人里とかにつけるとは思うんだけど……」


 まず、その川が見つからない。元々世間知らずの箱入りなのだ。森の歩き方などわからないし、何が安全で何が危険なのかもわからない。わからないことづくしだ。


「森から出られないにしても、とりあえず安全な場所は見つけとかないと……いや、どう考えてもどこも安全かどうかなんてわかんないけど!」




 軽く1時間程は歩き回っただろうか。ここまで生き物らしい生き物にすら遭遇していない。川も見つからない。

 このまま夜が来て、視界の悪くなった森で身動きも出来ず野生の動物のご飯になってしまうのだろうか。それは物凄く遠慮したい。


 ふと、野原に出てた。野原というよりも、花畑だろうか。秋桜の様な形をした、蒼い花。まるで海のように辺り一面に広がっていた。綺麗、思わずそう口にしてしまう程には。


 花畑の中心には、大きな樹があった。その真下にまで行くと、ふと違和感を感じる。


「……え………!?光って……」


 花畑にある全ての花からポツポツと光が昇って行く。青い光が空へと舞っていく。その光景は唯々、美しくどこか神々しかった。


 その光景を目の当たりにし、私はやっと確信を得ることになる。

 此処は、私の知る世界ではないのだと。




「……もう疲れた……眠って起きたら夢でした、とかないかなぁ……ないかぁ……」


 慣れぬ森の道を歩いていた影響か、私は疲弊していた。どうしようもない。私はさして体力のある方とは言えないし、平静を保っているようにしてはいるが混乱しているままなのだ。帰宅して気がつくと異世界でした、などどうして直ぐに受け入れられよう。願わくば夢オチであって欲しい。

 しかし、それは歩き詰めで疲れ果て鈍い痛みを主張している両足により限りなくゼロに近い可能性だ。


 私はここで現実逃避という手を取った。肉体、精神共に限界が来ていたのだ。少しくらいなら大目に見て欲しい。このままではマズイと言うことは承知している。なんせここは見知らぬ森だから、まず行動しなければいけない。

 けれど、疲れた。私はとても疲れたのだ。もう一歩も動きたくなどない。ないったらない。

 次第に重くなる瞼に、どうして逆らえようか。私の意識はそこで一度途切れる事となった。



 夢を見た。

 底の見えない闇の中、青く光る花が空に舞っては消えてゆく。何処か悲しく寂しい光景。


「ごめんなさい……」


 光を織り込んだみたいに煌めく黄金色の髪が、さらさらと揺れる。

 ぽろぽろと宝石のように輝く涙を零しながらそのひとは言った。

 ただただ、誰かを想って泣いていた。


 ──ひとりは、寂しいの


 その言葉を最後に、夢は終わった。




 

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