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生まれ変わったら王太子(♀)でした  作者: 月海やっこ
王太子=悪役令嬢編
5/63

打算と好意と攻撃力

 少々のトラブルはあったもののサンドラとして初のお茶会は無事に終わり、サンドラとして慣れない茶会を主催した気疲れの為ぐったりと部屋で横になっていたら、ナニーが怒りながら入ってきた。


「アレク様! あのような恰好でお見送りなさるとはどういうことですか。逆にお客様に対して失礼あたってしまいますよ」


 ナニーは、私がサンドラからアレクへの早着替えをしてまで皆の見送りに行ったのを気にしているらしい。

 少し汚れたドレスを着替える際、アレクで見送りすればベリルが(ついでにジルも)喜んでくれるかな、と思っただけなのに。

 ベリルはやっぱりまだサンドラが苦手なようだからね。


 確かに、ちゃんと着付けさせようとする使用人たちを振り切って、少し乱れた服装で出てきたからな。

 それに化粧をざばざばと水で洗い落している私を見て、

「もう一度淑女教育はやりなおしかしら……」

 と、遠い目をしながら淑女教育の先生が呟いていた。


 実は茶会の陰で先生のチェックが入っていたのだ。

 大体は問題なかったらしいが、もう少し乙女度が欲しかったとのこと。


 しょうがないじゃないか、ジルの乙女っぷりを真似しようと思っていたのにサンドラに萎縮してか『乙女のお茶の嗜み方』の確認が出来なかったんだから。

 作法は先生から習えるが、年頃の乙女の細かい動きや視線の配置等細かいニュアンスは、現役女子学生に確認するのが一番なのだ。


 やはりジル相手には、アレクの方で聞かないと駄目だろうか。


 ベリルは少し様子が変だったな。

 実はベリルに頼みたいことがあったのだが、もう少し様子を見てからのほうがいいだろう。


 なんだかさっきは変な顔でアレクの顔を見ていたので、化粧が残っていたのかと一瞬ひやひやした。

 この国には拭くだけで化粧が落ちる便利なコットンは存在しないので、化粧を落とすとしたら水でざばざば洗うしかないのだ。

 口紅がなかなかとれなくて強く何度もこすったのだが、ナニー曰くサンドラとして口紅を塗った時よりも鮮やかに赤くなっていたらしい。


「でも化粧自体は落ちているからいいじゃないか。アレクが口紅つけているほうが問題だろう?」

 というと

「まあ……そうなのですが…」

 と言って、言いづらそうに口ごもっていた。


 なんでもサンドラからアレクへの早着替えを手伝っていた若い使用人が数名、私がアレクの姿になった途端使い物にならなくなったらしい。

 言われてみれば、私がアレクとしての服を着流したまま水で顔を洗い出したあたりから、何人か硬直している者がいたな。

 私がアレクとサンドラの二重生活をする為にナニーが直々に口の堅い者を選び、今まで散々アレクとして皆と接してきたのに今更何に驚くとというのだ。


 そうか、先生にも言われたが、だらしない私の姿を見て開いた口が塞がらなかったのかも。

 アレクとしてもサンドラとしても、きっちり洋服を着こなした姿しか見たことが無い者達ばかりだったからな。


 その者達はなぜか真っ赤な顔をしながら

「こんな……サンドラ様から戦闘状態を抜くだけでこんなにも色気が出るなんて……」

 と絶句していたそうだ。


 どうやらサンドラからアレクに変わる瞬間は色々なものがアンバランスに見えるらしく、それぞれに慣れた目からすると、よほど無防備な姿に見えるらしい。


「びっくりさせてしまったのかもしれないな。今後は気を付けるようにしよう」

「気を付けて頂けるのでしたらありがたいのですが……。でもこれからもサンドラ様からアレク様への早着替えの機会はあるでしょうし、あの者達を鍛えるしかないのか。しかしどうやって鍛えればいいのか……。そもそもアレク様に艶が出てきたのがいけないわけだし」


 ナニーは何かを悩んでいるらしい。


「使用人を鍛えるのか? 私に手伝えることがあるなら言ってくれ」


 実際、私のこの特殊な生活の為に皆には迷惑をかけているわけだし。


「いえ、アレク様が無駄に動かれると悪化する可能性があります。使用人が道ならぬ恋に落ちるのを見過ごすわけにはまいりません」


 一体何を言っているのか判らない。

 とりあえず若い使用人たちにはサンドラの姿の時のサポートに回って貰うことになった。


「サンドラ様に変わる時の『るーてぃん』とやらを見れば、きっと血迷いそうになっている使用人たちの目も覚めるでしょう」


 何を言っているのかは判らないが、なんだかバカにされているような気がするのは私の被害妄想だろうか……。


 まあいい、きっとナニーは私が子供の頃からアレクとしての支度を手伝ってくれていたから、サンドラとしての令嬢の支度は得意分野ではないのだろう。

 いつも令嬢の姿を作る仕上げの時には、ナニーはいつも死んだ魚のような目をしていたからな。

 しかも最近は私がルーティンをしている様子を、半眼のままどこか達観したように遠くを見ているから、相当疲れているのだろう。



 そんなことを考えながら、

「茶会が終わってから開けてくれ」

 とシリウスから言われていた手土産を開けてみることにする。


 小さな小箱には指輪が二つ納められていた。

 一つはサンドラへ、もう一つはアレクへ、とメモが添えられていた。

 金の大きめの台座に青緑色の石が嵌っているデザインだ。

 サンドラ/アレク用に、と書いてあっても、パッと見る感じでは二つとも全く同じデザインで見分けがつかないくらいだ。


 もしかしてこの石は……。


 サンドラ宛の指輪の方を取り出し中指にはめると、指に吸い付くようにサイズはぴったりだった。

 一体いつ計ったのだろう。


 抜かりないな、シリウス。

 男として尊敬する。


「まあ、素敵な指輪ですね」


 うっとりと指輪を眺めながら、ナニーが褒めてくる。


「そうだね、これはいい指輪だ」


 大ぶりの指輪だが、邪魔にはならない。

 逆にこれなら―――。


  アーンパ○チ!!


 そばのクッションに拳を叩き込みながら、その感触に笑みが漏れる。


 『サンドラは こうげきりょくが1あがった!』


 脳裏にレベルアップのファンファーレが聞こえたような気がした。

 きっとこの石はアレキサンドライトだろう、ダイヤ程ではないが硬質な石の為、多少の打撃では欠けないはずだ。


 うきうきした様子でシャドウイングする私を、ナニーがまた死んだ魚のような目をしながら眺めていたことは気付かなかった。


 アレクの方の指輪は大事にしまっておくことにする。

 同じデザインの指輪なら、アレクの時もこのサンドラ用と同じ指輪をつけていても問題ないだろう。


 予想していたとおり、サンドラ用に貰った指輪の石はアレキサンドライトだった。

 日が暮れて別の光源で見ると鮮やかな緋色に変わったのだ。

 その見事な色の変化に、私も思わず息を呑んだほどだ。


 これはシリウスに礼を言わないといけないな。

 これだけ見栄えもよくて、さらに攻撃力も上がる指輪はなかなかあるまい。


 確認していないが、きっとアレク用に貰った指輪も同じだろう。

 仲が良いということになっているアレクとサンドラに、お揃いの指輪を贈るとは洒落ているな。



---------------------

[シリウス視点]


 お茶会から帰る時に、アレクが最後挨拶に来たとベリルから聞いた。

 顔を合わさずに済んでよかった。


 別にアレクが嫌いなわけではないのだが、本国からアレクに対して何か弱みなどが無いか調べるように言いつけられているのだ。

 父王は穏健派とはいえ、『もしも開戦した時のことも考えて使えるカードは多い方がいい』という考えだろう。


 顔を合わせる機会が多ければその分本国が求める情報も得られやすいと思うが、そういうことは余りしたくない。


 だって、アレクは良い奴だ。

 俺がこんな調子ではお互い心から気を許す友人同士にはなれないかもしれないが、彼をはめる様なことは余りしたくない。


 もしかして三年間一緒に学生生活を送るうちに情が移ったのかもしれないな。


 それでしょうがない。

 王子である自分が言うのもなんだが、アレクは本当に『非の打ちどころの無い王太子』というやつなんだろう。

 常に他に対して平等であり、日々の努力も怠らない。

 それに相当な努力をしているのか、俺でも知らない豊富な知識も持ちあわせているようだ。

 特に算術では他の追随を許さない程だ。

 国政に関しても最近は口を出し始めているようで、国内の識字率がここ数年で飛躍的に上がっているらしい。


 アレクが中心になってこの国の国力は確実に底上げされ始めている。

 この国は大きく飛躍するための力を溜めているだけなのに、一時期経済が停滞したことを好機と勘違いしている我が国の開戦派の気がしれない。

 戦なんてお互いの国力を削ぐだけの愚策だ。


 それよりもこの国の施策の良い所を吸収し、共存共栄したほうがいい。

 今戦争なんて起こしたら、周辺国に両国とも食い潰されるのがオチだ。


 しかし今国元は開戦派が主流を占めつつあるらしい。

 国から離れたこの状態で私が声を上げても揉み消されてしまう。

 今は開戦派にとって有益な情報を流さないように気を付けながら、好機を伺うしかない。

 そもそも私が殺されてしまっては元も子もないからな。


 私の周辺に配置されている者の中に、兄上の手の者がいないとも限らない。

 もしそのような情報があったとしても、私自信が知らなければまだ開戦派の手にその情報が渡る可能性も少ないからな。


 そういうこともあり、アレクとは距離を置きたいところだ。

サンドラと初めて会った時もそのことが頭にあり、(美貌に惹かれたということもあるけれど)わざと嫌われるような真似をしてみた。

 笑えることに返り討ちにあったが、サンドラにはあの後謝ったらすぐに許してくれた


 そんな気苦労があったのに、平民出の姫はろくな情報を持っていないだろうという本国の判断で、サンドラに対しては弱味を握ったりする必要が無いことを確認した。


 サンドラとは何も気にしないで会話ができるようになって本当によかった。


 サンドラと一緒にいると楽しい。

 アレクと、何のわだかまりもなく接することが出来ていたとすればこんな感じかな、と少し思う。


 さすが王族の血を引き継いでいるせいか、アレクと同様に彼女も為政者たるべき資質を持っているような気がする。

 何より綺麗だし。

 時々足を踏まれそうになるときもあるが、じゃれあいの一環と思えば気にもならない。

 逆に一所懸命な所が可愛く映る。

 それに、そんな時のサンドラの瞳は鮮やかな緋色に輝いて吸い込まれそうになるくらい綺麗で、もっと見ていたくなる。


 そうだ、我が国とこの国が友好関係を結ぶなら、いっそ私とサンドラが結婚してしまえばいいのかも。

 国元の出方次第だが、そうなればいいな。


 刺すらも美しい金のバラのようなサンドラ。

 彼女が手に入るとしたら、どんなに素晴らしいだろう。


 ブルーノもサンドラを気に入っているらしいが、まだスタートラインに立ったばかりなので、これからどうとでもなるだろう。




 茶会の時に渡した指輪、サンドラが気に入ってくれるといいが。

 国元の鉱山で鮮やかに色変化するアレキサンドライトが見つかったと聞いたので、取り寄せて指輪に仕立ててみたのだ。


 アレクに渡した指輪の石はサンドラの物と似ているけれど、アレキサンドライトではない。

 不変不動の意味を込めて、光源によって色は変わらない石を敢えて使っている。


 彼にはせひあのままでいて欲しい。

 国元が落ち着いたら、きっと彼とも友好な関係を結べると信じている。





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