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生まれ変わったら王太子(♀)でした  作者: 月海やっこ
隣国世継ぎ問題乱入編
44/63

帰国後

 騎士達に命じて号外新聞を隣国の城下町に撒いた後、皆で無理の無い行程で国へ戻る。


 保養村の宿では、楽なのでコルセット無しのアレクの服装で過ごしていた。

 ブルーノに女であることをカミングアウトしておいたので、気軽に過ごせていい。

 女性の近衛騎士や暗部の者からは

「アレク様用の胸をつぶすコルセットは付けなくてもいいから、せめてサンドラ様の時の下着を身に付けてください」

 と言われているので、ブラに似た物はつけている。


 温泉から上がった後は、窮屈な感じがするし、近衛の者達は私の裸を見ても大丈夫だから、少々シャツから胸が透けるくらいならブラも付けたくなかったのだが、女性騎士の

「垂れますよ」

 の一言で、付けることにした。


 確かに、寝る時もちゃんとブラをつけた方が形が崩れることは無いと言うしな。

 アレクの時は押しつぶしている訳だから、それ以外ではちゃんとホールドしておかないといけないかもしれない。


 その後、その女性騎士が暗部の者に

「こう言えばいいのね!」

 と感謝しながら何か喜んでいたが、何のことを言っているのだろう。


 まあ、部下の仲が良いのはいいことだが。


---------------------------------

 城に入る時にはちゃんとドレスを着てサンドラとして帰城し、まず真っ先に父上に報告に行く。

 父上には私からの報告よりも先に、簡単な報告をするよう近衛騎士に言っておいたので、概要は既に知っているはずだ。


 なので、私は隣国の国王との密会時の話をする。

 主には国家合併の話だ。

 隣国では今まだ大規模粛清の真っ最中だろうから、それが一段落した段階でこの国の人材を投入させてもらう。

『隣国からの協力』という体裁をとるが、隣国から「内政干渉という名の侵略だ!」というような反対が出る可能性もある。

 それを防ぐ為には、この国が隣国へ協力するもっと判りやすい理由づけが必要だ。


 私の出したとある案について、父はしぶるようにしながらも一応納得してくれた。


 事前に話していたのに、私が隣国の国王とここまでスムーズに話を纏めてくるとは思っていなかったらしい。

 全く、私を手元に置きたいのは判るが、そろそろ子離れしても良い頃だ。


 それに第一王子の件についても、父には真実を告げておいた。

 隣国の国王と、父の認識を合わせておけば、配下の貴族たちの間で疑問が出ることがあっても、それぞれの国王の一言で不問に処されることだろう。



「その『案』だが、お前は本当にそれでいいのか?」

「はい、それが最善策かと思われます」

「……いや、お前の気持ち的にだ。お前の働きのお陰でこの国は大分力がついた。今なら多少無理があろうとも隣国を飲み込むことも可能だ。いや、逆にその方が簡単かもしれんぞ」

「それをしてしまうと隣国側の民に禍根が残ってしまいます。国の政策が気にくわない流れ民なら自由な土地に移り住めましょうが、農民は特にそれぞれの土地から簡単には離れられません。そしてこの国でも隣国でも一番数が多いのは農民です」



 そして重要報告以外に、私がどんなことを隣国で行ってきたのか知りたいと言われたので、お茶会やダンスパーティーのことも伝えた。


 最初は面白そうに聞いていた父だったが、お茶をぶちまけて踏みつけた所と、第一王子を矢で射たところは、不思議そうにしていた。

 曰く、

「お前にしては珍しく感情が先だったな」

 と。


 父がなぜそこにひっかかるのか判らず、首をかしげながら聞いてみる。


「あれは必要だからやったまでのことですが、何か問題でも?」


「いや、常に安全性と効率を考えるお前ならもっと他の案を取るかと思ってな。子爵令嬢に喧嘩を売るより、第一王子に喧嘩を売った方が周囲の状況は把握しやすいし、船でのことも第一王子が第二王子を手にかけた後、第一王子を矢で射る手段もあったと思うが」


 さらりと私の上を行く父の発想に、条件反射で叫ぶように答える。


「そんなこと! シリウスが死んでしまうではないですか。それでは合併の話に支障が出ます」

「ダンスパーティーの話を聞く限り、通常のお前なら、まだ国内の貴族を掌握しきれていない第二王子より、国王を選ぶのではないかと思ってな」


 ……確かに、国王を手中にした方が話が早い。

 でも……。


「それは……、考え付きませんでした」

「隣国の国王はまだ若いし、側妃もいなくなるのだろう?」

「でも! ……シリウスが死んでしまったら、国王はきっと自暴自棄になってこちらの言うことも聞いてくれなくなってしまうかもしれません」


 そうだ。

 あの国王は、シリウスだけしか大切なものは残っていないと言った。


「そうか、それもあるだろうが、お前は隣国の第二王子を失うのが嫌だったのではないかね? 子爵令嬢のお茶のことにしても、お前が心配したのは自分自身の体裁よりも、まず第二王子の容態だったような気がするのだが」


 父はそう言って、人の良さそうな笑みを浮かべる。


「……」


 そんな父に何も返すことができなく、沈黙で返す。


 父は時々こんなところがある。

 私より残酷な道筋を考え付くのに、決してそれを選択しようとはしない。

 しかも人の機微に聡いときた。

 こんな浮世離れしたようなお人好しに見えるが、父だって子供の頃から私と同じように過酷な王太子教育を受けてきた身だ。


 実は狸かと思ったこともあったが、どうやら天然の性善説派らしい。


「父上は裏切られるということを考えたことはないのですか」

「もちろんあるさ、それが人間だからな。しかし人というのはそこまでひどいことは出来ないものだよ」

「そうでしょうか……」


 懐疑的な私を宥めるように、父が微笑みながら言う。


「そうさ、そもそもお前を女として公表するのを決めたのは私ではなく私の父だ。お前にとって祖父にあたるが、お前も私の父に似たのかもな、まず最悪を想定してそれに対して対抗策を練るんだ。しかし私はそんなことしなくても、人を信じて大丈夫だと思っているよ」

「……父上がそのようだからこそ、祖父は心配して色々考えるようになったのかもしれませんよ」


 父は少し困ったように笑いながら言う。


「そうかもな、私は父の姿を見てこんな楽観的になったのかもしれん。そしてお前はそんな私を見て、まず最悪を想定するようになった、と」


 私も少しおかしくなって言い返す。


「その論理でいくと、私の子供は楽観的ということになりますね。私はずっと気が抜けないではないですか」

「いやいや、中心に居る者が鷹揚に構えていれば、周りが育つということだよ。お前ももう少し肩の力を抜いても大丈夫だよ。皆お前のことを取って食いやしない。それにお前は優秀だ、恋をしても隣国の側妃のように道を見失うこともないだろう。もう少し自分の心にゆとりを持ちなさい」

「それは王命ですか?」


 冗談めかしながらの私の問いに、軽く肩をすくめながら父が答える。


「ああ、そうだよ。この件の一番の難関は乗り切った。後はどうとでもなるから無理をするな。周りの者が付いてこれなくなるぞ。弱いところもどんどん見せて行けばいい。後は周りの者がやってくれるさ」



 人払いをしており、今この部屋には私と父しかいない。

 父に一礼して自去しようとしたとき、背後から軽く声をかけられる。


「アレク、宰相の件は手間をかけさせたな、あいつも根っから悪い人間では無いのだ」


 父には、宰相のやったことは伝えていない。

 ばっと振り向くと、父がいつも通り害の無さそうな顔で笑っていた。



----------------------

 病床に臥せっているということになっている『アレク』の部屋へ行く。

 ベリルには私の部屋をそのまま使ってくれて構わないと言っていたのに、どうやら別の部屋にしたらしい。


 やっぱり人のベッドって気持ち悪かったかな。

 私ももっと気を回すべきだったかも。


 そんなことを考えていたら、最後のチェックの為か、ベリルが部屋へ入ってきた。

 私がいない間の話を聞こうと思っていたのでちょうどいい。

 ドアを閉めて、ベリルがアレクの代役として行ったことを聞く。


「ベリル、大変な役目を押し付けてしまってごめんなさい。最後の方は大分つらかったんじゃない?」

「サンドラ……いや、アレク。無事で良かった……。僕の方は大丈夫だよ、逆に元気が出過ぎて辛かったくらいさ」


 そう言ってベリルは力なく笑って見せる。

 確かに、顔色は良いし以前見た時より体がしっかりしているような気がする。


 王太子教育はなんとか一通りこなしたようだ。

 毒は子供の頃から少しずつ慣らすものだし、今回はそんなに行わなかったようだ。

 でも政務については一通りなんとか回せるようになったらしく、これなら今すぐにでも大きな都市を任せても大丈夫そうなくらいだ。


 要は膨大な資料の中から、本当に必要なデータを見つけ出して、それを必要とする部門へ伝達することが出来ればいいのだ。

 あとは将来のビジョンを明確にして、やることの優先順位付けと情報共有だ。


 それにしても―――。


「ベリル、私は今ドレスを着ているから『サンドラ』なんだけど」

「ああ、そうか……。でも二人きりの時はアレクって呼んでもいいだろ?」

「構わないわ……」


 ベリルは私のことをあくまでも『アレク』として扱おうとしている。

 じゃあとりあえず男言葉でも大丈夫か。こっちの方が私も楽でいい。


「そういえばナニーに聞いたぞ、昼は王太子教育をこなした後、夜更けまで自主練と称して鍛錬を繰り返していたんだって? すごいスタミナだな、ブルーノと張るんじゃないか? ブルーノもついこの間、三日徹夜していたぞ」


 ベリルが何かを思い出すように、少し遠くを見るようにしながら優しく言う。


「……ジルのおかげかもね。アレクが帰ってくるから『もう来ないで欲しい』って伝えてあるけれど、体に良さそうな物を毎日沢山持ってきてくれたから」

「へぇ、どんな物だ?」


 あれだけのハードスケジュールをこなしても、十分健康そうなベリルに興味を惹かれて聞いてみる。


「原材料から作り方まで、ナニーに伝えていたみたいだから後で聞いてみるといいよ。……まあ中には味も見た目も最悪なのがいくつかあったけれどね」

「そうか、ベリルがそこまで言うとは、逆に楽しみだよ」


 笑って言いながら、傍にあるベッドに腰掛ける。


「ちょっと、アレク―――」

「ん? どうした」


 少し咎めるような声を上げたベリルだったが、自分自身の感情の動きを確認するように片手を胸に当てて、少し右下に視線を向けて言う。


「いや……、大丈夫みたいだ。これもジルのお陰かな」


 なぜか寂しそうに笑いながら言うベリル。

 でもその直後に、いつもの私を嗜めるような口調で言ってくる。


「僕はもう平気みたいだからいいけれど、男と二人きりの時にベッドに腰掛けないこと! 座るならソファ一択だからね!」

「……わかった」


 とりあえずベッドから離れる私を見て、ベリルがどこか楽しそうに言う。


「そういえば、アレクの『淑女教育』についてだけれど、どうも一般的なものだとアレクには足りないんじゃないかと思って、侍女のナニーに色々・・伝えておいたから。これからの淑女教育は楽しみにしててね」

「えっ!?」

「これも大事な従妹の為さ。それにアレクの迂闊な行動のせいで勘違いした男が寄ってくるのを防ぐのも、大事な臣下の努めだろう?」


 久しぶりに見る、少しきつくて皮肉げで、それでも相手の為を思って敢えて口にする、以前のベリルだ。

 これなら、私のこれからの案を話しても大丈夫だろう。



「……それは、アレクが自分で考えたの?」

「ああ、そうだ」

「そう……、応援するよ。ちょっと悔しいけどね」

「ベリル……」


 なんと答えればいいのか迷ってしまい少し口ごもる私を見て、ベリルがゆっくりと私の体の周りに腕を回してくる。

 私を驚かさないようにか、抱き込むように包まれているのに、体には一切触れないように。


「だって、アレクのことが子供の頃から好きだからね。幼馴染として、いとことして、初恋の相手として……。そして国を守るべき主として、敬愛もしているよ」


 耳元で囁くように言葉が付け加えられる。


「全ての『好き』をありがとう」


 答えられない私を見て、軽く笑いながらすっと体を離して言う。


「もう行くよ、今からジルの所に行こうと思うんだ」

「ジル?」

「ああ、先日『アレク』にふられたから、きっと今頃はまだ泣いてるだろうし。責任もって慰めに行こうと思ってね」

「そうか」



 ベリルがすっきりしたような顔で言う。


「じゃあね、アレク」


「ありがとう……ベリル」



------------------------


 ベリルが出ていこうとドアへ向かって体を向けた時、閉じたドアの外側からノックがあり、侍女の声が控えめに届く。


「アレク様、ジル男爵令嬢がお見舞いにいらっしゃってますが、いかがいたしましょうか?」


 ジルか。

 ベリルは帰るところだったし、ちょうどいいから最後くらい本物のアレク(わたし)からお礼を言った方がいいな。


「この部屋まで通してくれ」

「かしこまりました」


 そう言って、ドアの向こう側で侍女が離れていく気配がする。


 さてと、ベッドに入っておくか。


「ア、アレク……!?」

「どうしたベリル、早く行かないとジルと鉢合わせするぞ」


 なぜか呆然としたように驚いているベリルを見る。

 今のベリルは私の鬘こそ被っていないが、いつもアレクが着ているような白いシャツと細身のズボンを穿いている。


「アレク、今の自分の格好に気付いてる!?」


 その声にふと下に視線を向けると、自分がオフホワイトのドレスを着ていることに気づいた。


 そうだった!

 ベリルと、アレクの口調で話していてすっかり忘れていたけれど、今私はサンドラだった。


「ベリル! すまないが代役を―――」

「無理だよ! 白粉もつけてないし、白粉ももう片付けたからこの部屋には無いし!」


 確かに、ジルの『元気の出る薬』のお陰か、今のベリルは顔色といい肌艶といい、とても病人には見えない。



 その時、ノックの音が部屋に響いた。


「アレク様、ジル様をお連れしました」



 どうしようーーーー!!!








ベリル「台無しだ……!」



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