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生まれ変わったら王太子(♀)でした  作者: 月海やっこ
王太子=悪役令嬢編
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王宮でのお茶会[ベリル視点]

 今日はサンドラ主催の茶会だ。

 王宮といえば、子供の頃よくアレクと遊ぶために来ていた為勝手知ったる場所だが、学園に入った頃から少し足が遠くなっていた。


 今回は庭の良く見える室内で行なうらしい。

 ジルも来ると言うことなので、きっと直射日光が入らないようにする為この場所なのだろう。

 彼女はよく

「目が潰れる~、なんで色素の薄い瞳ってこんなにちかちかするの……。それに日焼けが痛い~!」

 と言っては、こんな眩しいくらいの天気の良い日には極力外にでないようにしているから、それへの配慮だろう。


 逆にブルーノは室内よりもオープンエリアを好むので、すぐ庭に出ていけるようにテラスに面した窓は全て開け放っており、室内でありながらオープンテラスのようになっている。


 陽射しも気にならない上に外の空気も感じられる趣向といい、初めての茶会にしてはなかなかやるじゃないかと思わざるを得ない。

 もっとも、こういった細かい気遣いはアレクもお手の物なので、もしかしたらアレクが手助けしたのかもしれないが。


「本日は皆様お忙しい所お越しいただきありがとうございます」


 笑顔でそう言うサンドラはとても綺麗だった。

 薄いピンクの透けるような布で作った花びらが幾重にも重なって胸元を飾り、胸元の可憐なピンクからスカート裾へと濃い緋色へと変わるグラデーションになっており、サンドラの鮮やかな緋色の瞳とよく合っている。

 ブルーノから、その瞳とよく似た真っ赤なバラをプレゼントされて嬉しそうにお礼を言う姿は、まるで生まれながらの王族のように気品に溢れている。


 皆を席へ案内してからサンドラが周囲を見渡すようにくるりと体を回せば、開かれた窓から運ばれてくる風がアレクと同じ明るい金髪を軽やかに揺らし、金色の光を辺りに弾いているようだ。

 優しい声音はアレクとよく似ており、目を瞑れば耳に心地よく響く。

 まるでアレクに耳元で優しく囁かれているようだ。


「―――ル、ベリル?」


 はっとして目を開ければ、すぐそばにサンドラの少し怪訝そうな顔があった。

 一瞬アレクかと錯覚してしまいそうなくらい、その声はよく似ている。


「な、なに? サンドラ」


 動揺を押し殺すようにわざとぶっきらぼうに答えると、サンドラが心配そうに聞いてきた。


「大丈夫ですか? もしかして体調がどこかお悪いのでしょうか。無理に来ていただいたのでしたら申し訳なく……」

「いや、体調には問題ない。少しぼうっとしていただけなので気にしないでくれ」

「そうですか、それでしたらよかった」


 そう言って、ほっとしたような屈託のない笑顔を僕に向けてくる。

 ピンク色の紅を差した唇が優しい弧を描き、そんなに開いているわけではないドレスの胸元から覗くのは、今まで全く日にあたっていなかったような白い肌だ。

 きめ細やかなその白い肌は透けるようで、さっきまで何か軽く運動でもしてきたようにうっすらと内側から紅潮している。


 中等部の頃には全く感じなかったが、最近は女性としての色気が少し出てきたように感じる。

 そう言うと「遅い!」とブルーノやシリウスから言われそうだが、今まで全く感じなかったのだからしょうがない。

 実際、サンドラのドレス姿を初めて見たであろうシリウスとブルーノは、向かいの席で魂が抜けたようにしながら、可憐なドレスに身を包んで僕に笑顔を向けるサンドラを凝視している。


 その眩しいくらい綺麗な笑顔は、悔しくなるくらいアレクとよく似ている。

 アレクそっくりの笑顔を、そんなに無防備にあちこちへ晒してどうするつもりだと問いただしたい。


 平民から王族へと取り立てられたにしては、全くおごることなく皆へと平等に接するその姿勢はアレクと同様で、国王陛下のつけたであろう教育の賜物と言ってもいいだろう。

 アレクは王太子という立場もあり、皆好意は持っていてもそこまで馴れ馴れしく近寄る人間はいないが、サンドラは元平民の為、男子生徒の中では隙あれば近寄ろうとする者が多い。


 こんな女放っておけばいいのに、なぜかいらいらする。

 アレクと同じ笑顔を、他の男が触れることができる位置でそんなに気軽に晒すものじゃない。


 きっとあの笑顔で優しい国王夫妻とアレクに取り入っているに違いない。

 いずれ尻尾を出すに決まっている。


 そんなことを思っていたら、シリウスが手土産だと言ってサンドラに何か小さな箱を渡していた。

 開けようとするサンドラを制して、後で開けて欲しいと言っている。

 一体なんだろう。


 別に気にはならないがな。

 そうだ、気にならない。

 うん。


 僕はアレクの好きな茶葉を持ってきた。

 今日の茶会は参加しないとのことだったが、一人除け者のような扱いをされているアレクが可哀想で、サンドラからアレクに渡してもらおうと思う。


 そんなことを思っていたら、ブルーノがアレクの様子をサンドラに聞いていた。


「アレクは顔も出せないのか? なんだか最近は忙しそうであんまり学園にも来れないみたいだし」

「ええ……今アレクはお父様の補佐として印刷所立ち上げの管理を任されているようなの。何しろ我が国としても初めてのことで、王家の意向である旨を現場にも知らしめる必要があるみたいで」

「そっか。雑誌っていうんだっけ? 前にアレクから概要だけは聞いたけど、無理だけはするなって伝えておいてくれるか?」

「ありがとう、確かに伝えておくわ」


 サンドラはそう言ってまた、金のバラが咲いたような笑顔を見せる。

 至近距離でそれを見たらしいブルーノが、見る見るうちに赤い顔になっていく。

 そんなブルーノを横目に、シリウスが涼しい顔で今日のお茶の銘柄をサンドラに聞いてくる。


「今日の茶葉は珍しいですね。こんな透き通った緑色のお茶は始めて見ました」

「ありがとうございます。数年前輸入した株を王宮の庭で育てていたのだけれど、初めて収穫できたお茶なのよ。発酵させていないから新鮮な味がするでしょう」

「発酵していないって?」

「ええ、お茶の葉そのものの風味を楽しむものなの。もし口に合わないようだったら紅茶も用意してあるのでおっしゃってね」

「いいえ、すっきりとしていてとても飲みやすいですよ」


 そういってシリウスが口にしたのを見て、ジルもおそるおそる口をつけていたが、その味にびっくりしたように「緑茶!?」と小さく叫んできょろきょろしていた。


 そんな皆の様子を斜に構えて眺めているだけだった僕に、サンドラが話しかけてきた。


「ベリルもいかがですか?」

「……うん、いただこうか」


 お茶会なんだし、別に断る理由もないしな。


 どこかほっとした様子を見せながら僕の前に少し柔らかな黄色がかった緑色のお茶を出すサンドラ。

 一口飲むと、確かに今まで飲んだことがないすっきりとまろやかな味が口の中に広がる。


 期待していなかったけれど、結構おいしいかも。


「このお茶、ベリルの瞳の色と少し似ていると思いませんか? だからこのお茶会にはどうしても出したかったの」


 そんな僕の微妙な変化に気付いたように、サンドラが嬉しそうに微笑みながら言う。


 僕の為に?


「ありが…とう……」


 横を向きながら小さく呟いた声はサンドラには届かなかったようだが、プルーノとシリウスには届いたようで、にやにやしながらこちらを見ていたのがなんだか腹立たしい。



 ホストとしてあちこちに気を配るサンドラを何の気なしに眺めていたら、ジルの様子をちらちら気にしていることに気付いた。


 やはり女の子同士で話がしたいのだろうか。


 しかしジルの方でサンドラを警戒しているようで、まともな話はできないようだ。


「ジル、よかったら別のお茶をいかが? こちらの方がお口に合うかもしれないわ」


 サンドラに対する警戒のせいか、ジルは黄緑色のお茶を少しだけ口にしただけで他のお茶については口元に運ぶポーズをするだけで、実際には飲もうとしていない。

 そんなジルを見かねてかサンドラが別のポットから新しい茶器に紅茶を注ごうと近づく。


「いえ! お気になさらず、もうお腹いっぱいですので!」


 しかしジルは慌てて手を振りそれを遮ろうとした。

 あっ、と思った時にはジルの手がポットに当たり、熱い紅茶がこぼれてしまった。


 ジルにはかからなかったようだが、飛沫がサンドラのドレスについてしまった。


「サンドラ様! 大丈夫ですか!? さあこちらへ!」

「ええ、大丈夫よ。ドレスに少しかかっただけだから」

「いいえ、こちらへどうぞ!」


 周囲にいた使用人たちが一斉に動き出し、あっという間にサンドラを奥の部屋へ連れて行ってしまった。

 まるで王太子アレクに対するような過保護さだ。


 残されたナニーが不始末を詫び、そろそろ終了の時間に近くなっていたということもあり、お茶会はお開きになった。

 ジルもどうしようかと心配している様子だが、気にしないように伝える。


「ジル、気にしなくていいよ。サンドラにとってもホストとして客に怪我が無く済ませられたことが一番だし」


 とにかくジルに怪我が無くてよかった。

 時々突飛な行動をするとはいえ、ジルは守ってあげたくなるようなかわいい女の子だし。

 何しろ他の人は気付かなかった、僕のアレクに対するコンプレックスを見抜いた人間だし。

 おくびにも出していないつもりだったのに、本当にどうして判ったんだろう。

 しかもほぼ初対面の時に。

 でもそれだけ僕のことを見てくれていたということで、ジルには安心して何でも話せる間柄になった。


 ナニーに見送られながら皆で馬車寄せまで行き、シリウスとブルーノはそれぞれの家の馬車に乗り込み僕とジルが自分たちの馬車を待ちながら少しおしゃべりしていたら、後ろから軽快な足音が近づいてきて耳になじんだ声が響く。


「ベリル、ジル! 皆、今日は顔を出せなくて悪かったね」

「アレク!」

「アレク様ーっ!」


 すがるような素振りをみせるジルをひょいとかわしながら、アレクが聞いてくる。


「今日はサンドラが最後まで見送りできなくて悪かったね。私は出席できなかったけれど、せめて見送りだけはと思ってね。サンドラ主催のお茶会はどうだった? よかったらどんな様子だったのか教えてくれないかな」


 少し心配そうに言うアレクに、なぜかもやもやした気分になって言う。


「……別に、普通のお茶会だったよ。まあ初めての主催にしては頑張ってる方かなと思ったけれど」

「そうか……」


 しょげた様子のアレクを見ていられなくてつい言ってしまう。


「……でもあの緑色のお茶は興味深かったな。」

「そう!? サンドラと一緒にあのお茶を準備した方がいいねって言っていたんだ。ベリルが気に入ってくれてよかった。今度包んで公爵家宛てに贈るね」

「アレクの考えも入っていたんだ……。ありがとう」

「うん、初めてあのお茶の株を見つけた時、ベリルにも飲んでもらいたいなって思ったんだ」


 そう言って、金色のバラのような笑顔を見せるアレクの姿に今初めて気付く。

 学園の時と違って、アレクにしては珍しくどこかラフに着崩した感じの洋服の着方だ。

 まるで慌てて服を着たようにも見える。

 それに頬の辺りが少し濡れているようだ。


「アレクもしかして走って来たのか? 汗が―――」

「いや、ちょっと顔を洗ったところだったんだ。見苦しくてすまないね」

「そんなこと…な―――」


 少し照れたようにそう言うアレクの口元は、さっきのサンドラのピンク色の紅よりも鮮やかな朱だった。

 勝手に視線がアレクの唇に吸い寄せられて離れなくなっている僕の様子を見て、アレクがはっとしたように

「え!? まだ残ってる?」

 と小さく呟いて口元を拳でごしごしこすると、さらに唇の赤味が増す。


 自分の拳を確認したアレクが、安心したようすを見せながら、今度は不思議そうに一歩僕の方に近づいて顔を覗き込むようにして聞いてくる。


「―――ル、ベリル?」


 はっとして唇から目を上げれば、すぐそばにアレクの怪訝そうな顔があった。


「な、なに? アレク」


 動揺を押し殺そうとしても勝手に上ずった声が漏れる僕を、アレクが心配そうに聞いてくる。


「本当に大丈夫か? やっぱり体調がどこか悪いんじゃないか。今日はゆっくり休んだ方がいいぞ」

「いや、問題ない。問題ないはず……―――」

「そうか? でも無理だけはしないでくれよ。サンドラも心配していたぞ」


 そう言って、ほっとしたような屈託のない笑顔を僕に向けてくる。

 青い細いリボンで後ろに軽く一つに結んだ金の髪が光に反射して、後ろで結ぶには長さが少し足りない両脇の髪が、今はまだしっとりと水気を残している白い透き通るような肌に幾筋か貼りついている。

 それを指で払ってあげたいという衝動をぐっと押しとどめる。



 アレクとジルに別れを告げて、一人馬車の中で揺られながら考える。


 自分がサンドラのことをどうして嫌っているのか、ふいに理解した。

 今までアレクの一番の理解者は血も歳も近い自分だと思っていたのに、その場所をサンドラに奪われたような気がしたんだ。



 だって、アレクのことが大好きだから。



 あれ……?

 いや、そんなまさか。

 うん、そう、この国にとって大切な王太子だし、大事な従兄弟だし。


 人柄もいいし、非の打ちどころもないし、笑顔も綺麗だし声も耳に心地いいし、僕の名前を呼んでくれると何かこう心が浮き立つような感じがする。

 何かの拍子に肩に手を掛けられると、その男にしては細い指が綺麗でつい触れてみたくなるけれど。



 そう。

 好きなのは当然だ。

 別におかしいことじゃない。




 ―――そうだよな…?







偽ボーイズラブ、書いててむちゃくちゃ楽しいんですが!

ベリルには今後もっと可哀想な目にあってもらう予定です。(悦)





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