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生まれ変わったら王太子(♀)でした  作者: 月海やっこ
隣国世継ぎ問題乱入編
31/63

嵐のお茶会

 先ほどの謁見の間には国王陛下と王子達しかいなかったが、今この国に正妃はいない。

 第一王子もシリウスもそれぞれ別の側妃の子供であり、正妃の子供はいない。


 この国の国王には幼い頃から定められた婚約者がいてお互い好き合っており、国王が18歳になると同時に式を挙げた。

 ただし、その時権勢を誇っていた宰相の娘が側妃として同時に後宮へ上がった。

 しかし国王は正妃の所にばかり通い、宰相の娘である側妃の所へは時々しか通わなかったらしい。

 そんな中、側妃の方が先に懐妊した。


 早期の妊娠に喜び沸き立つ王宮の中で、その側妃が第一王子を産み落とすとほぼ同時期に、正妃が急な病によって命を落としたという。


 今の姿からは想像もつかないが、その時国王は半狂乱になり第一王子をその腕に抱くこともなく、まだ王太子だった為か政務を免除され王宮の離れでふさぎ込む毎日だったらしい。


 そんな国王を世話をしていた、当時伯爵令嬢で侍女として王宮に出仕していた娘が第二側妃として召し上げられ、シリウスが産まれた。


 その後国王は政務に復帰し、第一王子、第二王子共に平等に接するようになったという。

 しかしどちらの側妃も正妃に上げることはなく、そうこうする内に第二側妃はまだシリウスが幼少の頃、王宮内の事故で無くなった。


 その『事故』で第二王子であるシリウスは生死の境をさまよったという。


 湖のほとりでみた背中の傷は、きっとその時にできたものだろう。


 その後すぐに先王も『病気』で亡くなり、齢25にも満たない今の国王がたつことになった。

 まだ年若い上に第二側妃と父王を亡くした衝撃で呆然自失状態の国王に代わり、宰相が数年実権を握っていたそうだ。

 そしてそのころから開戦派がじわじわと王宮内ではびこるようになっていった。


 宰相は娘である第一側妃を正妃にするように何度も国王に迫ったらしいが、こればかりは頑として首を縦にふらなかったそうだ。

 その上、政に関わる場面では第一側妃が表に出ることを一切許していないらしく、夫婦仲は冷え切っているとのことだ。


 それは正妃と第二側妃、そして先王の死に、第一側妃側が絡んでいるのではないかという疑惑があるからだ、と暗部からの調査結果が入っている。



----------------------


 シリウスから誘われたお茶会は、茶会と言いつつも実際には王宮の中庭で軽くお茶する程度だ。

 ただ、綺麗に整えられた庭園のそばに設置されたテーブルセットは品が良く、長旅の疲れと、これからの緊張をほぐしてくれるものだった。


「とてもおいしいお茶ですね。やはり我が国とは茶葉や入れ方が違い、趣深い味わいですわ」

「気に入っていただけたようで何よりです。この国の方が冬の寒さが厳しいですから、皆体が暖まる物を好むのです。少し苦味があると思いますが、温めたミルクを入れるとちょうどいいんですよ、よろしければどうぞ」

「ありがとうございます」

 私の返事を合図にして、横に控えた王宮の侍女が私のカップにミルクをちょうどいいくらい注いでくれる。


 あーおいしい。

 味わい的にはアールグレイって感じだな。


 お茶請けには厚めにさっくり焼いたスコーンにクロテッドクリームにジャムが添えてある。

 全粒粉をある程度配合して作っているらしく、スコーンだけで十分おいしいが、そこに濃厚なクロテッドクリームと、甘さを抑えたジャムの酸味がよく合っている。


 いつも食べなれている王宮のお茶請けも好きだけど、やっぱりあちこちにお邪魔して食べるのってそれぞれ特徴があっておいしい。


 今までサンドラの時には全て断っていたお茶会とか参加してみようかな、主にお茶菓子目当てで。



 シリウスからは特にちょっかいをかけられることも無く、お茶を楽しんでいる。


 別に期待していたとかではない。

 断じて。


 そうだよね、街中と違ってシリウスとしてもこんなアウェイ感溢れる王宮で、じゃれてきたりはしないか。

 シリウスも何年もこの国を離れていたわけだし。


 しかし、周囲の人間の様子を見ると、この王宮内にもそれなりに穏健派の派閥を作っているらしい。

 開戦派は自分自身の利しか見えていない貴族が主のようだが、大多数の国民と、貴族内でも重鎮と呼ばれる者の幾人かは穏健派となっている。


 開戦派にいるのは、自分の利益を得ようとする思い上がった若者が多いらしい。

 シリウスは、そんな国の為ではなく己の為に戦を求める者達が国の根本を食い散らかそうとしている様子を横目で眺めながら、じっと罠を張っている最中のようだ。



 思いの他静かなお茶会となったそこに、乱入者達は現れた。


「これはこれはサンドラ王女殿下、こんなところで下賤な臆病者とお茶とは、ご趣味がよろしいですな」


 第一王子と、その取り巻きだ。

 取り巻きの中に一人女がいて、第一王子の後ろからこちらをちらちらと覗いている。


 あれが国王の言っていた子爵令嬢か。

 確かにかわいらしい容貌だが、ジルの方がかわいいくらいだな。

 胸は私と同じくらいか。


 彼女のことは既にいくつかの情報を、この国や他国へ潜ませた草から受け取っている。


『下賤な者』とは、シリウスの産みの母親が、第一王子の母親である侯爵家よりも低いことをいっているのだろう。

 しかし、伯爵位は決して低い位などではない。

 そもそもそれを言うなら、第一王子の隣にいる子爵令嬢のほうがよほど低いぞ。


 さて、どう調理するかな。



 とりあえず立って第一王子に対して礼を取ると、満足げに頷いている。


 私が礼を取るのは当然とはいえ、令嬢が立つモーションをしようとした段階で「どうぞそのままで」と言って、笑顔で止めるのが紳士というものだろう。

 と、王太子教育を受けた者として突っ込まずにはいられない。

 隣で立ち上がったシリウスも、苦々しげにしている。


 立ち上がった私を上から下まで舐め回すように眺めて、楽しげに言う。


「元平民と聞いていたからな、どんな猿がくるのかと思っていたら、見目だけは何とか取り繕ってきたようだな」


 第一王子の言い様に、取り巻き達や子爵令嬢も、面白い冗談を聞いたと言う風にクスクスと楽しげに笑っているが、周囲では真っ青になった使用人達がおろおろとしている。


「兄上、先程より余りの言いよう、撤回してください」


 シリウスが私の前まで回り込んできて、第一王子と対峙するようにきつい眼差しで言う。

 そのシリウスの迫力に一瞬怯んだ第一王子だったが、回りには自分の取り巻きと使用人しか居ないことを確認して意地悪げな笑みを浮かべる。


「なんだシリウス、この国の王太子になるのは止めて、そちらの国に亡命でもしたのかと思っていたら、こんな時に帰ってくるとはビックリだよ。何年も国外に出ていた者が王太子になんかなれるわけがないだろう。辞退するなら今の内だぞ? その女と結婚しなければ王太子になれないというならしょうがないから側妃くらいにはしてやるよ。見目だけは良いし、体も具合が良さそうだからな」

「ねぇ、見目が良いって可愛いってことでしょう、それって私より?」

「ばかだなあ、そんなこと無いさ」


 子爵令嬢が甘い声をだしながら第一王子にしなだれかかると、鼻の下を伸ばしながら第一王子が答える。


「よかった。サンドラ姫っていったかしら、そういうわけだからよろしくね」


 そう言ってその子爵令嬢は得意気に笑った。


 シリウスがそんな彼らを睨み付けながらも、私を気遣うような視線をよこす。


 シリウスは罠を張ってる最中だから、今暴発はできないのだろう。

 それなら私はネズミが力を合わせて罠を突破しないように、少し様子を見ておきましょうかね。


「ええ、よく判ったわ。お二人の仲は邪魔しませんのでご安心を」


 と綺麗に微笑んで言って見せれば、逆にその子爵令嬢はきょとんとしている。

 どうやら私が激昂するのを待っていたようだ。


 少し待て、もうちょっとギャラリーが増えてからだ。



 私たちが中庭で話していると聞いた物見高い貴族達が噂を聞き付けて、あちこちの回廊から顔を覗かせ始めている。

 散策ついでに遠巻きにこちらを伺っているものもいる。


「サンドラ様、私お茶を入れるのが得意なんですの。よろしかったらどうぞ」


 そう言って、子爵令嬢が何か思い付いたように近づいてきた。


「いえ、第一王子の寵愛が深いご令嬢の手を煩わせるのは申し訳ないですわ。それにまだ残っておりますので」


 と言って牽制するが子爵令嬢はまるでこちらの言うことは聞いてないようにテーブルに置いてあるポットを持ち上げると、そのままふっと傾けて、まだいっぱい紅茶が入っているティーカップの中へ少し高い位置から勢いよく注ぎ、紅茶の飛沫をこちらにかけるようにしてきた。

 とっさに横から出てきたシリウスの手のお陰で顔や腕にかかることは無かったが、ピンク色のドレスにポツリと一滴紅茶の染みがつく。


 私やシリウスが何か言う前に、子爵令嬢が叫んでその場から後ろへ少しよろめくようにしてみせて、後ろにいた第一王子に寄りかかるようにする。


「きゃあっ!」

「どうした!?」


 慌てたような声をあげる第一王子に、子爵令嬢がすがりついて震えながら言う。


「サンドラ様がいきなり私を突き飛ばしてきて……ひどい」

「何!? おいサンドラどういうことだ、不敬にも程があるぞ!」

「いいのよ、私なら王子が助けてくれたから怪我も無かったし。……でも怖かったわ」


 子爵令嬢がこちらをちらりと見て笑みを浮かべた後、第一王子に潤んだような瞳で訴える。


「サンドラ様を責めないで、私が悪かったのよ」

「ああ……、君はなんて心が広いんだ。彼女に免じて許してやるがサンドラ! またこんなことをやったら承知しないからな!」


 周囲の取り巻きも、彼女の優しさを褒め称え、私がなんて非道なのだと口ぐちに罵り始めた。


「何を言っているんだ! そもそもその令嬢がサンドラがいらないといっているのに紅茶を浴びせようとしたの―――」

「シリウス、いいのよ」

「サンドラ……」


 私を庇って第一王子達に文句を言おうとするシリウスを手で制して、にっこり微笑んでみせる。


「サ……サンドラ…?」


 私の笑顔を見て、戸惑ったようなシリウスの顔色が少し青くなったような気がするけれど、きっと気のせいだな、うん。



「そこのあなた、お待ちなさい」



 報復は自分でやるからいい。





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