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生まれ変わったら王太子(♀)でした  作者: 月海やっこ
隣国世継ぎ問題乱入編
30/63

謁見

 王宮付の侍女が迎えに来る前に、簡易な旅の装いではなく謁見用のドレスに着替える。

 隣国の国王陛下と第一王子とは初対面の為、相手に威圧を与えないように淡い色のドレスを選ぶ。


 ここは普段は選ばない、ピンクのふわふわお姫様ドレスにするか。


 淡い色調のピンクで、スカート部分は軽い布が幾重にも重なりふわりと広がる。

 上半身も同じ色調だが、布で作られた花びらとピンクトルマリンが交互に縫い付けられて、光と風にあたると、スカートも花びら部分もひらりとそよぎ、花びらの隙間からピンクの宝石が蜜のように煌めき、さながら朝露の中咲き誇るピンクの薔薇のようなドレスだ。

 髪は結い上げず、毛先だけ巻きをつけてそのまま垂らす。

 鬘なので、着付けと髪型のセットを別々にできるのが便利だ。

 櫛削られた鬘を被り、年齢に合った薄化粧を施せば、鏡の中には花の妖精がいた。


 本物の侍女について化粧の仕方とドレスの着付け方法まで習った女性近衛騎士の面々は、自分たちの仕事っぷりに満足しているようだ。


「姫様はこういった可愛らしいドレスもお似合いになるのですね。妖精のようですわ」


 こういったかわいいものは別に嫌いというわけではないし、年齢的にも合っていると思うのだが、それを自分が着るとなるとなんだか気恥ずかしいというものがある。

 男として育てられた部分としても気恥ずかしいし、前世からの女としての部分に至っては

「私がこんな少女趣味満載のピンクのドレスって……コスプレか?」

 と、そちらの方の拒否反応が強い。


 前世の精神年齢的には、この国の国王の方が年齢が近いくらいだし。


 爪も艶めくような健康的なピンク色のマニキュアを塗り、小さなピンクの宝石をいくつか指の爪に付ける。

 イヤリングとネッレスは華奢な黄金細工だ。

 指輪だけは、以前シリウスからアレクとお揃いで贈られた物をつける。

 今は昼間なので落ち着いた青緑の色をしている。


 鏡の中を見ると、この年齢だからこそ許される可愛らしいバランスを持った『世間知らずの夢見るお姫様』ができあがった。


「姫様お美しいです!」

「ええ、本当にお可愛らしいですわ!」


 確かにいい出来だ。


「皆、慣れないのに頑張ってくれてありがとう」


 そう言って仕上げは自分でしようと思い、ドレスをまくり上げて太ももの部分に暗器を仕込んだ革のベルトを巻きつけようとしたら、全力で止められた。


「姫様! そのドレスで仕込みは止めてください~!! 私たちがお守りいたしますので」

「しかしな……」

「そうですよ、日常的には構いませんが、国王との謁見の時に何かの拍子にばれたりするとその場で姫様が処罰されてしまう可能性が高いです」


 近衛騎士以外にも、暗部の者まで私を止めようとする。

 まだ納得がいかないと言った様子の私を宥めるように、暗部の者が言う。


「姫様は剣の扱いはそれなりですが、暗器の扱いは素人です。それにそのように一目で武器と判る物を日常的に身に付けるものではありません」


 確かに、本職の暗部の者は一目では武器とは判らないような獲物を使うことが多い。

 小さな鉄球だったり針のようなものだったり、髪の中に銀線を紛れ込ませている者もいる。

 必要な時にはそれらを組み合わせて武器として使用するのだ。


 「……そういう問題ではなくて私が言いたいのは一般常識的なことなのですが―――」

 と言っている近衛騎士を「姫様には常識面から攻めても無駄ですよ」と、暗部の者が慰めていた。


 なんだか納得がいかないが、周囲の人間関係が良好になるのはいいことだ。



 迎えに来た王宮の侍女に案内されて謁見の間へ行く。


 王宮の廊下を通ると、こちらに気づき次々と頭を垂れて礼をとる王宮勤めの者たち。

 他国からの来賓なので当然だが、中には私と気付いた上で敢えて無視を決め込む、この国の貴族らしき者もちらほらいる。

 そういった者は全員華美に飾り立てており、その羽で威嚇しようとする孔雀のようだ。

 本物の孔雀のように美しければまだしも、どこか趣味が悪く醜悪なイメージがする。


 例えるなら孔雀の羽をつけた金満豚だな。



「サンドラ王女殿下、ご到着でございます」

 使用人がそう言って、ドアの両脇に立っていた護衛が重厚なドアを両方から大きく開けると中くらいの広さのホールが広がり、数段高くなった場所にこの国の国王が豪華な椅子に座っており、両脇に第一王子と、第二王子であるシリウスがそれぞれ立っていた。


 国王は若く、今年で36歳程度のはずだ。

 その容貌も、17,18の息子が二人いるとはとても見えないくらいで、実年齢よりもさらに若く見える。


 髪はシリウスと同じ銀髪で、瞳は黒にも見える濃紺だ。

 髪型は短くしており、後ろになでつけてある。

 一筋額に落ちた前髪が大人の色気を醸し出している。

 体は何か武芸を日常的に行っているのか、ごつすぎない程度に引き締まった感じがする。

 表情自体は柔和でありながら、その瞳の中には鋭利な刃物が潜まれているように感じる。


 眠れる獅子といったところか。


 好みだーーっ!


 前世の女の部分が頭の中で叫んでいる。

 まあ落ち着け自分。


 こうして国王陛下と並べて見てみると、シリウスは国王陛下に瓜二つだ。

 瞳の色がシリウスの方が少し明るいくらいで、さらりとした銀髪も同じだ。

 おそらくシリウスが年を取ったら国王陛下のようになるであろうことが簡単に予想できる。


 それに比べて第一王子は驚くほど国王に似ていない。

 事前に仕入れた情報によると、第一王子は母親似らしい。


「サンドラ姫、長旅ご苦労であった。夜会までまずはゆるりと長旅の疲れを癒されよ」

「国王殿下におかれましてはご機嫌麗しく、この度はお招きいただきありがとうございます。当初ご招待いただいておりましたアレクお兄様は都合によりこちらへまかりこすことができず、代理で私のような者がお伺いすることになり申し訳ございません」


 淑女としての礼を保ったまま顔を伏せて型通りの挨拶をする。


「そう堅苦しくなる必要はない、姫には私も一度会いたかったし、サンドラ姫自身がこの夜会に参加すると聞いてうれしく思っている。顔をお見せ願えるかな?」


 その言葉にゆっくりと顔をあげて国王陛下へと視線を合わせる。

 その途端、国王とついでに視界の隅で第一王子が驚いたように息を呑みこむのが判った。


 私の中の『前世の女の部分』、カモン!


 ジルを見て覚えた乙女のしぐさ、集大成の使いどころだ。

 国王と目を合わせてまず5秒、そして微笑む。

 声はできるだけ優しく、震わすように。


「ありがとうございます」


 息でも止めてまた頬を染めようかと思っていたけれど、この国王相手ならそこまでしなくても頬ぐらい簡単に染められそうだ。


 いやー、男盛りって感じでいいねぇ。


 視線を合わせ続けると相手に威圧感を与えてしまうので、8秒くらい合わせてすっと一度逸らして、また視線を合わせて微笑みながら会話を続ける。


 第一王子とシリウスの方には敢えて視線を向けないようにする。

 この場で抑えるべきは国王だ。


 おーおー、第一王子のイライラのボルテージが上がっていくのが肌で判るわ。


「明日のファーストダンスのお相手は、サンドラ姫自らお選びいただきたい。第一王子、第二王子どちらかとの婚約をこちらとしては望んでいるが、二人ともお眼鏡に敵わないようでしたらお国より連れてきたと言う騎士殿でも構わんよ」

「私がどなたをファーストダンスの相手に選んでもいいと?」

「ああ」

「でも、選んだからといっていきなりその方と婚約するという話にはならない、ということでよろしいでしょうか?」

「もちろんだ。国と国との話し合いにもなるし、すぐに決まるとは私も思ってはいない」


 国王はおそらくシリウスと私を踊らせたいのだろう。

 しかしそれをしてしまうと、サンドラは明確な融和派となり、開戦派の結束を固めてしまうことになり、本当の大物は釣れないだろう。


「それでしたら、今日と明日はこちらの王宮で色々な方とお話させていただき、夜会の時に私からファーストダンスの申込みをさせていただく、ということでよろしいでしょうか?」

「ほほう、姫からのダンスの申し込みか。それもおもしろそうだ、そのように招待客には伝えておくとしよう」


 国王陛下とシリウスが、異議なしという風に頷いたが、第一王子が私に無視されるのが耐えかねたように声を上げる。


「サンドラ姫、呼ばれてわざわざこの国まで踊りに来るとは噂通り物好きな姫のようですね。せいぜい踊らされないようにお気を付け下さい」


 お前こそ熱した鉄板の上で踊らせてやろうか。


 はっ、生意気なガキ嫌いで攻撃的な前世の女の部分が暴言を。

 もちろん天使なお子様は大好きですよ。


 とりあえず返事は返さず、訳が分からないといった体で笑顔でかわいらしく首をかしげて見せていると、国王が苦々しげに注意した。


「……黙らないか、未来の妃になるやもしれないんだぞ」

「父上! まだそのようなことを。以前お伝えしたように私には既に心に決めた者が……!」

「あの礼儀も弁えない子爵令嬢のことか? 私は認めた覚えはないぞ」

「しかし彼女以外にこの国の王妃はありえません!」


 ここに私がいるのに全く気にしないように、熱に浮かされたようにその子爵令嬢のことを国王に話す第一王子。

 しかも『王妃』って、まだ立太子されてもいないのに自分が王太子に決定するのを疑ってもいない様子にびっくりする。


「それによりにもよって隣国の元は平民の王女だなんて、父上こそ何を考えておいでなのでしょうか。アレク王子でもないこのような下賤の者、人質になる価値があるのかすら―――」

「やめないか!」


 第一王子の暴言にたまりかねた国王が、びりびりとホール中に響くような声で第一王子を叱責した。


「ち……父上」

「お前を他国からの来賓の席に出すのは、やはりまだ無理だったようだな。下がっておれ」

「……っ、失礼いたします」


 第一王子は国王と私を睨むようにしながら一礼した後、大股で私の横を去っていく。

 ドアの向こうに消えるのを見て、国王が大きな溜息をつきながら私へと謝罪する。


「……見苦しいものをお見せしてすまない。あれは今まで殆ど政に携わっておらず、当人も学園では勉強もせず色恋にばかりうつつをぬかしているらしい」

「気にしておりませんわ。男性の方は男親への反発が強くなる時期があると聞きますもの。第一王子もきっと偉大なお父上である国王陛下を目指して葛藤なさっているのでしょうね」


 うそです。あれは単なる反抗期とかじゃなくてバカなだけなんだと思う。


 そう言ってにっこり笑ってみせると、国王が私のことを聖女でも見るように眩しげに見る。

 しかし横ではシリウスが笑いをこらえるように、私からすっと視線をずらした。


 そこ! 見えてるよ!


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 サンドラ自らが夜会の最初にファーストダンスの相手を選ぶという話は、あっという間に王宮内に広まった。

 皆、サンドラが第一王子と第二王子のどちらを選ぶのか、または選ばず他の者にするのか興味津々の様子だ。


 そして国王がサンドラを『王太子』の妻として婚約を申し込んでいる話もなぜか知られており、サンドラが選んだ者が次期国王になるのではないか、という憶測まで流れ出す始末だ。


 一国の王が他国の王へ送った信書の内容が漏れるということはあってはならないことだ。

 この国の上層部は大分腐敗が進んでおり、文官の統制も崩れ始めているらしい。


 国王の謁見の後、シリウスから簡易のお茶会のお誘いの手紙が届いた。

 ついでに王宮内を案内してくれるらしい。


 シリウスとお茶、というと先日の王都での喫茶店を思い出すが、今回はあんなことにはならないだろう。





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