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生まれ変わったら王太子(♀)でした  作者: 月海やっこ
隣国世継ぎ問題乱入編
28/63

病弱設定

 アレクは病気の為しばらく学園を休むという話を学園内に流す。

 実際、コルセットがきつくて学園内で倒れそうになったこともあるし、昼休みはよく令嬢達の膝の上で休んでいる姿を見ていた者も多く、不審に思う者もいなかった。


 逆にブルーノは

「昼休みに令嬢達の膝枕で休んでいたのは、好きでやっていたんじゃなくて、本当に体調が悪かったのか……。気付けなかった俺は……!」

 と自らを責めていた。


 ……いや、好きでやっていたんだけど。


 とはとても言えずサンドラとして

「どうぞ気になさらないで、お兄様のことを心配してくれてありがとう……」

 としか言えなかった。


 最初から予定していたこととはいえ良心が痛む……。


 令嬢達もショックを受けており、そんな彼らを慰めていたベリルは、サンドラとして学園に来ていた私にじろりと非難するように視線を向けていた。


 そうか『残酷』ってこういう意味合いも含まれていたのか、とようやく理解した。


 皆『王太子』という偶像に一過性の憧れのような好意を寄せてくれているだけだと、自分のことなのに他人行儀な認識しかしていなかったことに申し訳なく思う。

 おそらく私自身が、自分のことをどこか滑稽に突き放して見ているからだろう。


 特にジルの落ち込みが半端なくて、

「アレクはまだ数年は大丈夫なはずだったのに……。その間に現代知識を生かして何が何でも病弱隠居ルートを回避しようと思っていたのに……! アレクルートが無いのって、ヒロインが選ぶと病死してしまう仕様だったのかしら、もしそれなら私がアレクを選んだせいで……!」

 となぜか自責の念に駆られているようだった。


 余りにも皆に申し訳ないので、アレクへのお見舞いは事前に連絡を入れれば来ていいことにした。

 私がこの国に居る間は短時間なら対応できるだろうし、ベリルに変わっても友人たちの応対をしている間はベリルも王太子教育を休むことができるので、きっといい息抜きになるだろう。

 気付きそうなブルーノとシリウスは隣国に私と一緒に移動するし、ジルも王宮内で他の者もいる中で王太子に触れそうになるほど近づくことは無いだろう。


 アレクとして王宮に来ている時には『ベリル』はどうするかという話をベリル当人に相談したところ、

「……もういっそ『臥せっているアレクを心配する余り、ふさぎ込んで公爵邸に籠ってる』でいいよ、それで公爵家側には『アレクのことが心配で側についている』ということにしておくからさ。外聞が悪いから公爵家の者も言いふらしたりしないだろうから、対外的に矛盾は生じないはずだ」

 と投げやりに言われてしまった。


 ベリルがアレクのことを好きらしい、という話は王宮内の話だけでなく公爵の耳にも入っているらしく、 ベリルが父である公爵から内密に呼び出され、一体何事かとベリルが身構えていたら

「世継ぎのこともあるが、あの王太子だけは止めておけ」

 と重々しく言われたようで、色々な意味で

「ちがーーーう!!」

 と叫びたかったらしいが、そこはぐっと我慢してくれたそうだ。


 しかし公爵、私を一体どんな人間だと思ってるんだ。

 ……まあ、公爵に対してはひどいことをしている自覚はあるが、最も穏便な方法だと思っているのに。


 ちなみに、私にとって叔母であるベリルの母親は私が女であることを知っているが、ベリルの様子からあらかた想像はついているらしく

「あらあら、まあそういう時期もあるわよね。でも分が悪そうね」

 と息子の初恋について憐れむような目で見られているらしく、そちらの視線の方がキツいらしい。




----------------------------

[ブルーノ視点]


 アレクが、病気の為学園には当分来れなくなったという話を聞いた。

 最近、騎士への入隊試験があり注意がそちらに向いていたということもあるが、守る立場でありながらアレクの体調不良に気付いてやれなかった自分が不甲斐ない。


 言われてみれば確かにアレクは学園内で倒れたこともあるし、昼休みは横になっていることが多い。

 それに以前手合せをした時に掴んだ、男としては細すぎる腕。


 体調が悪いサインはあちこちにあったのに気付けなかった。

 それは、話しているとアレクが健康そのものに見えたからだ。


 落ち込みながらサンドラに、アレクが心配な旨を伝えると逆に俺を気遣うような言葉をかけられて、あれ? と思う。

 アレクとサンドラは仲のいい兄妹と聞いているし、それは事実だと思っている。

 それなのに

『サンドラはアレクのことを心配していない・・・・・・・』ように見える。


 サンドラは、アレクのことが心配で泣いている令嬢を見ては『まさかこんなことになるとは』と、とまどったようにしている。


 それにシリウスもベリルもだ。

 ベリルに至っては、心配どころかアレクの病気の話題が出ると舌打ちしそうなほど苛立たしげにしている。

 二人の間に何か喧嘩のようなことがあったことは知っているが、それはこの間の模擬決闘で解決したんじゃないのか?


 最近のアレクの様子を思い浮かべる。

 以前休憩の為にアレクが俺に寄りかかって来た時にいい匂いがして、それを指摘したらアレクが『まずい』というような顔をして、それからは俺の側で休むことは無くなったことを思い出す。


 あれはサンドラの匂いだ。

 香水ではないのだろうが、雄を惹きつけるような蠱惑的な匂い。

 もしかして一部で噂されているようにアレクがサンドラを良いように弄んでいるのかとも一瞬疑ったが、アレクに限ってそれはありえないと断言できる。


 サンドラは、一時期は避けていたようだが今はクラスメイトの男子達ともある程度気さくに話しており、他の箱入り令嬢達と違い男慣れしているようで、それなのに『そういう』意味ではまだ固く蕾のような気配がする。

 その体はとても男を知っているとは思えない。


 湖の時のことを思い出しても、男に対して余りにも無防備な姿を時折見せるくせに、男慣れしてるのかしていないのか良く判らないアンバランスな所がある。


 そういえば、アレクとサンドラはあれだけ仲が良いと言われながら、一緒に登園しているところを見たことが無い。

 それどころか、アレクとサンドラが一緒にいるところを見たことがない。

 それに、ベリルとの模擬決闘の時に見たあの緋色の瞳。


 もしかしてアレクは長いこと具合が悪くて、サンドラは皆に心配を掛けないように男装してアレクとして来ていたのか?


 バカな考えが一瞬浮かぶが、頭を振り払って否定する。


 ベリルと模擬決闘をしたのは、俺が昔からよく知っているアレクに間違いない。

 あの猫のような動きと、幼い頃から叩き込まれて舞のように美しくて無駄の無い剣技。

 数年前まで平民でいた女の子が振るえるようなものではない。



 最近集まることはなかったが、今日は珍しく談話室の一角にアレクとサンドラを抜いて、俺とベリルとシリウスとジルが揃っていたので聞いてみる。


「なあシリウスはデビュタントに行ったんだよな。その時アレクとサンドラはどんな感じだったんだ?」


 ジルはアレクの病気がショックだったのか、まだ涙ぐんでいるのをベリルが慰めているが、そのベリルの肩が跳ねるようにぴくりと動く。


 今年のデビュタントはサンドラが社交界デビューで、そのパートナーはアレクだったはずだ。

 俺はお誘いはいくつか貰っていたが、あそこでパートナーのOKをしてしまうとあっという間に婚約者に仕立て上げられそうで全て断ったのだ。

 こんなことなら「婚約者にはならないからな!」と約束した上で、とりあえず誰かのパートナーとしてデビュタントの様子を見に行けばよかった。


 シリウスがちらりとベリルの方に視線を向けながら言う。


「どんな感じもなにも、あの時の『アレク』は元気そうだったよ。それに相変わらず仲の良い兄妹っぷりだったしね」

「そうだよな、ちゃんとアレクとサンドラはパートナーとして踊ったんだよな……」


 まだ鼻をぐずぐず言わせながらジルが言う。


「ええ、アレクはサンドラと踊った後は少し席を外していたけれど、ホールに戻ってからは国王陛下の側で来賓の挨拶に答えていたわ。それから他の令嬢達とも少し踊ったんだけど、私とは踊ってくれなくて……こんなことになるなら、一曲でもいいからアレクと踊っておきたかった……!」


 そう言いながらまた泣き出すジル。

 それを宥めていると、ちょうどそこにサンドラが現れてびっくりしたように聞いてくる。


「どうしたの!?」

「……っ、ど、どうしたのって。アレクが……アレクが―――」


 しゃっくりを上げながらそういうジルを見て、サンドラが申し訳なさそうに長椅子に座っているジルの隣に座り、ハンカチを取り出してジルの涙を拭く。


「……心配かけてごめんなさい……アレクのことをそんなに大事に思ってくれていたのね」

「……あっ、当たり前、ヒック、…じゃない……」


『心配かけて』って……いや、兄妹なんだから自分のことのように責任を感じるものなんだろうか。


「ジルはデビュタントでアレクと踊れなかったのを残念がってるんだ。でもアレクは今それどころじゃないんだろう?」

「ええ……」


 サンドラはそう言って、なかなか涙が止まらない様子のジルを見て何を思ったのかゆっくりと両手を上げ、ジルのピンクのふわふわな頭を抱えるように抱きしめて自分の胸元に押し付けた。

 そのままジルの髪を、細く綺麗な指で優しく撫でる。


 は!?


 男でいうなら『俺の胸で泣け』というセリフ付きのお決まりのシーンだが、女でもこういうことやるもんなのか?


 二人とも全然違うタイプの美少女なので、そこだけ何か神々しくて背徳的な一枚絵のようにも見える。

 俺が混乱していたら、サンドラがいつもより低い作り声で言う。


「私で良ければ胸を貸そう」


 言ったーー!!

 っていうか、この声ってまんまアレクの声じゃないか!?


 俺が同意を求めるようにベリルとシリウスの方を見ると、なぜか二人とも動揺の余り固まったようになっていた。

 あれ? もしかして見目麗しい女の子二人の抱擁に動揺してるのか?


 サンドラの作り声にびっくりした様子のジルだったが、そのままサンドラの胸に顔を埋めて一通り泣いて落ち着いたらしく、むくっと顔を起こして言う。


「……ありがとう、貴女のこと悪役令嬢だと思ってたけれど、結構良い人なのね。アレクの声真似までしてくれるなんて。兄妹だからかしら、そっくりだったわ」

「『私』にできるのはこれくらいだから……」


 泣いた自分が恥ずかしいのか、ジルが今度はくすくす笑いながら言う。


「でもアレクの声で言われても、私より大きい胸の中で泣くなんて変な感じ」

「そんなことないわよ、ジルも結構あるじゃない」


 そう言ってサンドラがジルの胸をふにゃりと手で掴む。


 談話室に今度はジルの悲鳴が響き渡ったのは言うまでも無い。



 淑女教育に『令嬢の胸を揉んではいけない』とか書いてないのか?

 ……なさそうだな。



 ……抱擁シーンにちょっとどきどきしたというのは内緒だ。





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