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生まれ変わったら王太子(♀)でした  作者: 月海やっこ
王太子=悪役令嬢編
21/63

柔らかい手

 翌日はアレクの姿で学園へ行くことにした。

 昨日の今日で、ベリル以外でも男友達に愛を囁かれるのは耐えられそうもない。


 今までシリウスやブルーノもそういったことはサンドラに対して口にしていたけれど、どちらかというと社交辞令のようなものだと思っていた。


 昨日ベリルに言われて、彼らの寄越してくる視線も熱も社交辞令でもなんでもないのだとようやく思い知る。


 前世の記憶のせいか、周りにいる男子を単なる『子供』としてしか見ていなかった自分に気付く。

 前世に照らし合わせてみれば16歳はまだ子供だが、前世に比べてこの世界は平均寿命が短く、その為結婚する年齢も早い。

 18歳くらいが結婚の適齢期と言われており、20歳前には大抵の者は結婚している。

 そしてすぐに子供をもうけている夫婦も多い。


 子供だったのは私の方だ。

 記憶が戻っても、自分は子供なのだから子供っぽくていいのだ、と思っていた。

 もちろん恋愛なんて考えたことも無かった。


「この世界は子供でいられる時期が短すぎるな。……いや、前世のあの国の方が異常だったのか」


 一国の王太子や王女ともなれば、普通で考えれば子供の頃から婚約者がいるか、16歳ともなれば見合い攻勢が始まっていてもおかしくないのに、私の場合は特殊な環境の為今まで父上が全て「当人の気持ち次第だ」と言ってブロックしてくれていたのだ。

 でも周囲はそんなことは知りようがない。


 政治的な婚約者を国王がつけようとしないなら、アレクなりサンドラなりを直接籠絡してしまえばそのまま結婚に持ち込めると皆思っている。

 その攻勢はきっとアレクとサンドラの婚約者が決まるまで続けられる。


 眩暈がしそうだ。


 クラスメイトの男友達は皆昨夜のサンドラの様子を熱に浮かされたように口にしている。

 義兄ということになっているアレクがいるのであからさまな話はしていないが、きっと私がいない場所ではサンドラを裸に向いたらどんな感じか、というような話題になっているのだろう。

 実際今まで令嬢達の耳がない場所では、誰それの腰が一番細くて抱き締めたら気持ちよさそうか、誰の肌が一番滑らかに手に吸い付きそうか、どの令嬢が一番簡単にやらせてくれそうか等、当の令嬢が聞いたらその場で卒倒しそうな内容の話をしているのだ。


 皆ふざけあって笑いながら話しているので、異性の体に興味があるませた男子のたわいのない会話だと思って聞き流していたのだが、あれは本気なのだ。

 きちんと見てみると、皆笑っているのに獣が今度狩る獲物を見定めているような目をしている。


 別に潔癖症ではないつもりだが、気分が悪い。


 ベリルには今日はまだ会っていない。

 同じクラスのシリウスはなぜか今日は学園を休んでいる。

 なんでもシリウスについてきていた隣国の使用人の一人が暴漢に襲われて命を落としたらしいので、その対応に追われているのかもしれない。



--------------------

 朝は平気だったのに、授業を受けているとだんだん体がつらくなってきた。

 体調が悪いのはポーズのはずだったのに、なんでこんなに息苦しいんだ。

 気持ち悪い。

 実際に吐き気まで込み上げてくる。


 お昼休みになったが、とても何か口に入れられる状況じゃない。

 ブルーノを探してみたが、体を動かしに運動場の方へ行っているのか校舎内には見当たらなかった。


 とにかくどこかで休みたい。

 条件反射のようにベリルを探してしまうが、今はだめだ。

 この間からあれだけベリルを振り回しておいて、さらに都合の悪い時だけ頼るのはベリルにも悪い。


 そうやってベリルと会わなくていい理由を探して、対峙する覚悟ができていない自分を擁護するように言い訳をする。


 ふらふらと一人で保健室に足を向けるが、途中で気分が悪くなって開いた窓にもたれるようにしながら外の新鮮な空気を吸う。

 深呼吸しようにも、胸をつぶす為につけている特殊なコルセットが肺まで圧迫しているような感じがして浅くしか息ができない。


 窓の桟に両手をかけたまま思わずその場にしゃがみこみそうになった時、視界の端にピンクが映る。


「どうかなさいましたか?」


 その声に霞みそうになる目を向けると、少し心配そうにこちらを覗き込むジルがいた。


「なんでもないよ」

「って、ひどい顔色ですよ! ほら捕まって下さい」


 そう言って私の腕をとり自分の肩に回したと思ったら、半ば引きずるように私をすぐ傍の保健室まで連れて行く。


「先生! ベッドお借りしますね」

「ああ、って王太子殿下!? じゃなくてアレク、どうしましたか?」


 学園内では王太子であろうとも他生徒と同列で扱うことになっているので、私に対する呼び名も王太子ではなく単なるアレクだが、あからさまに具合が悪そうな私を見て先生も少し動揺したらしい。


「大したことありませんが少し横にならせてもらいますね」


 そう言って奥のベッドのカーテンを閉めてジルと先生から自分の体を隠すようにして、制服の上着と白いシャツを脱ぎ捨ててさらにコルセットを留めている紐をむしるように外す。


「……っ、はぁ…」


 押さえ込んでいた体に新鮮な空気が入って少し楽になったが、まだ完全には治っていないのでまだしばらくは楽な格好でいた方がいい。

 外したコルセットをベッドの下に投げ込み、剥き出しの胸を隠す為とりあえず白いシャツをボタン1つ2つ外した状態で着る。

 コルセットを付けずにシャツだけ着ると、最近また膨らんできた胸がシャツを内側から押し上げるようにして、女であることが一目で判ってしまう。

 固い生地で出来ている上着を着ればなんとかごまかすことはできるだろうが、少し横になりたいので上着は脱いでおいた方がいいだろう。


 とりあえず今は上着で体を隠す代わりに、ベッドに横になってフラットシーツと薄手のブランケットを胸元まで手繰り寄せて隠す。

 まだカーテンの向こうに先生とジルがいることに気付いて「どうぞ」と声をかけると、ジルがおそるおそるという風にカーテンを開けてくる。


「アレク様、もしかしてどこかお体の具合が悪いのですか……?」

「いや、ちょっと寝不足なだけだ。昨夜のデビュタントで少し疲れも溜まっていたようでね。ジルも昨夜は社交界デビューおめでとう。一緒に踊れなくてすまなかったね」


 側に居ることの多いジルがアレクに扮したベリルと踊ると、さすがにばれてしまう可能性が高いのでジルとだけは踊っていないはずだ。

 そう口にする私の、胸元を覆っているシーツからはみ出している開いたシャツを見て、かーっとジルの顔が赤くなる。


「……み、見て下さっていたんですか!?」

「もちろんだよ。白いドレスとても良く似合っていたよ」

「はわわあ……」


 ジルはそう言って、顔を赤くしたまま陶酔したような笑みをこぼしている。

 今は、この世間知らずな子供っぽい所が癒される。


「先生も、私なら大丈夫ですのでどうぞ気になさらず。少し休んだら出て行きますので」

「王宮へ連絡しておきましょうか?」


 今日はもうコルセットをつけたくないし、ベッドの下に転がした物を持って変える為にせめて包むものが必要だ。


「……そうですね、私の侍女へ連絡をお願いします」

「わかりました」


 先生はそう言って、学園へ配備されている使用人へ言伝を頼みに保健室から出て行こうとするが、ジルは保健室内に置いてあった椅子をベッドの傍まで引きずってきてそこへ座ってしまった。


「ジル? 君ももう戻らないと、授業が始まるんじゃないか」

「いいえ! 私はアレク様のお側についています。こんなエロ……、具合の悪そうなアレク様をお一人でベベ、ベッドの上に放置なんてできません!」

「ありがとう」


 実際保健室に一人きりだと、他の生徒が入ってきた時に間違ってシーツを剥ぎ取られたらそれで一貫の終わりなのでありがたい。


 少しほっとして弱い笑顔でジルにそう言うと、ジルが座っていた椅子から腰を上げてぼうっとしたようにふらふらと近づいてくる。


「……ジル?」

「何この色気……いえ! 熱がないか確かめさせていただきますね」


 この世界には正確に計れる体温計が無いため、触診が主になる。

 王太子に触れること自体に緊張しているのか、少し震えているジルの手が額に触れたので軽く目を閉じる。


 柔らかい、女の子の手。

 男よりも幾分冷たくて細い指。

私と同じくらいの体温で、まるで馴染んだように違和感が無くて心地いい。


 人の体温は好きだ。

 寄り添いあうと感じるその暖かさに安心できる。

 それは誰に対しても同じだったのに、あれから男に触れられるのが怖くてたまらない。


 怯えている自分が不甲斐なくて腹立たしくて、目を瞑って歯を食いしばる。


「アレク様……」


 思いのほか近い距離から掛けられたジルの声に薄目を開けると、横になった私の頭の両脇に手をついたジルが、潤んで水銀のようにとろりと煌めく瞳でこちらを見ていた。


「ジル?」

「やっぱり少し調子が悪そうですよ。こちらでも熱を測りますね」


 寝ている私に伸し掛かるようなそのポーズのせいで、胸同士が触れ合いそうな程近づいているのに気付いて、自分の胸がジルの体に当たってばれないようにシーツの下で両手で胸を押さえつけるようにガードする。


「本当……これは道を踏み外すのも判るわ―――」


 ジルが何か呟きながら少し上気した顔で、私の開いたシャツの襟元から手を差し入れて喉を辿り耳の後ろ辺りにぴたりと手を添わせるようにする。


「……っん」


 耳の後ろ辺りの薄い皮膚をゆっくりとなぞる細い指先がくすぐったくて、思わず声が漏れそうになる。

 両手は胸を押さえているので、代わりに自由になる首を少し回して身を竦ませるようにするが、逆に首と肩でジルの手をきゅっと挟むような形になってしまう。


「……じっとしてて下さいね」


 猫を撫でるような女の子の優しい声が耳に吹き込まれて、言われるまま力を抜いて見上げるとジルがすぐそこにいた。

 胸を押さえている両手の上に、ジルの胸がつぶされるように乗っかっているのが判る。


「……ジル?」


 その時、誰かから話を聞いたのかベリルが飛び込んできた。


「アレク、大丈夫か!?」








サイズの合わない(きつい)ブラしてると気持ち悪くなりますよね。


タグにR15と残酷な表現があります をつけました。

これでいつキーボードが滑っても大丈夫!




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