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中編


 ソファーに腰かけ、優雅にハーブティーをすすり、クッキーを頬張る竜王カズミと火竜サーヤ。


「お口に合いましたでしょうか?」

「本当においしいですわ! クッキーがお茶にすごく合いますの!」

「また腕を上げたねリノアン」

「いえ、書記官として当然のことをしたまでで御座います」


 そして、これらのお茶菓子を用意してくれたのが、氷竜のリノアン。サーヤとは対照的に、全体的に落ち着いた雰囲気のローブをまとった、物静かな竜だ。竜の中では比較的若いが、その才能を買われて竜王専属の書記官をしている。


「そうだ、せっかくだからリノアンもいっしょに話を聞いて行かないかな」

「それがとっても不思議な話ですの!」

「……は、私でよければ」


 そう言ってリノアンが話に加わったところで、カズミは前回の続きについて話し始めた。


「さて、前回は


1.赤,緑,青の3つの色のリボンがついた箱があり、当たりが1つ、ハズレが2つ用意されている。


2.サーヤは箱を1つ選択する※(この時点では開けない)。

3.『カズミは正解の箱を把握』しており、残された2つのうちハズレの箱を1つ開ける(2つともハズレの場合はランダム)。なお、これについてはサーヤの回答に関わらず必ず行われ、そのことは予めサーヤも理解している。

4.カズミは「今なら選択を変更して構わない」とサーヤに問いかける。サーヤは望むならこの時点で箱を再び選ぶことができる。


以上の条件の時に、箱を変更するかどうか、だったね」

「なるほど…………あまり違いはないと私も思いますが」


 おさらいも含めてリノアンに説明すると、彼女もまたあたりを引く確率は変わらないと答えた。


「でもね、実はこれ箱を変えたほうが二倍くらい当たりやすいんだよ」

「まあ! それは不思議です」

「わたくしも、さっきからいろいろ考えてみましたが、やっぱりわかりませんでしたわ……」

「よし、じゃあまずは簡単に種明かしをしよう」


 そう言ってカズミは、以前と同じように、三色のリボンが付いた箱を机に並べる。


「たとえば、この緑の箱がアタリとしよう。中には青のクッションがあるね。問題を出題するほうは、あらかじめどの箱が正解かわかってる、ここまではイイね?」

『あっはい』


 火竜と氷竜が同時に頷く。


「ここで、回答者が選ぶわけなんだけど、この時点で回答者がアタリを選ぶ確率はどれくらいかな?」

「当然1/3ですわ」

「間違いなく1/3かと」

「そうだね。三つのうちから一つ選ぶんだから、1/3だ。じゃあここで、回答者が緑の箱を選んだとしよう。この場合は後で変えた方がいいかな、どうかな?」

「緑を選んだのであれば、残る赤青どちらかの箱が除外される…………ですが、どちらも結局はハズレですから、変えないほうがよろしいかと」

「その通り。青と赤どっちを選んでも結局はハズレだから、変えないほうがいいよね。じゃあ、もし回答者が青を選んだら、どうなる?」

「そうなりますと、選んでいないのは緑と青の二つですわ。このうちどちらかが除外されると……」

「お待ちくださいサーヤ様、司会者はあくまで「ハズレの箱」のみ開けられるのですから、必然的に赤しか開けられません」

「おっと、そうでしたわね。正解を教えては意味がありませんわ」


 さて、勘のいい読者の方はこの時点で何か気が付くことがあるはず。

 緑の箱を選んだ時と青の箱を選んだ時、何が違いますか?


「じゃあ赤は除外だね。そうなると、青と緑の二択になるんだけど、この時アタリを引くには……」

「選択を変えるしかありませんわ」

「そう、ここは変えるが正解だね。じゃあ、最後に初めに赤を選んだ場合は?」

「その逆でしょう。司会者は二つあるハズレのうち、青しか開けることができません」

「やっぱり選択を変えるしかありませんわね」

「その通り。さてさて、今の話をまとめると…………こうなる」


仮に緑が正解だった場合


・緑を選択 → 変えないほうがいい

・青を選択 → 変えたほうがいい

・赤を選択 → 変えたほうがいい


『あっ』

「二人とも分かったかな?」


 つまり、結果だけ見れば箱を選ぶ選択肢は3通りあるけれど、そのうち変えないほうが正解のパターンが1通りに対して、変えたほうが必ず正解できるパターンが2通りあるのである。


「な、なるほど……これなら確かに、単純計算すれば選択肢を変えたほうが二倍当たりやすいですわ!」

「…………ええと、はじめは三分の一で、次の選択肢はアタリかハズレかの二択……でも、やっぱり変えたほうが当たる確率が一つ多くて……あらら?」


 どうやら火竜サーヤは根が単純だからか、すぐに理解できたみたいだが、いっぽうでいつも真面目で思慮深い氷竜リノアンは、いろいろと因果関係を考えるうちに混乱してしまっているようだ。


「おーけー、それじゃあ別の考え方をしてみよう。まずはじめにさっきと同じ条件で、今度は赤の箱を選んだとしよう。この時点では正解を選ぶ確率はどう考えても1/3だね」


 ここでカズミは、赤の箱を緑と青の箱より間を開けて置く。


 赤  青緑  ←こんな感じ


「赤いリボンの箱が、選んだ箱。青と緑が選ばなかった箱。じゃあ、この時アタリが入ってる可能性が高いのは、赤い箱と青の箱と緑の箱の「グループ」、どっち?」

「これはっ……!」


 ここでようやっとリノアンも、心から納得できた。


「ああ、なんということ…………初めに選んだ赤いリボンの箱が正解の確率は、ずっと1/3で変わりません! しかし、青緑の方にあたりがある確率は2/3で……しかもその後、どちらかが正解に絞られる! そのため、選んでいなかった方に変えたほうがアタリがある確率が高い、ということですね」

「さすがリノアン、完璧な答えだね。そう、1/2っていうのはあくまで見かけ上の確率にすぎなくて、実際は「グループ」を選んでいるから、数が多ければそれだけ当たりやすいのは当然なんだよね」


 さあ、読者の方々はここまでの説明で納得して頂けたかな? もしかしたら納得いかない人の方がまだ多いかもしれない。

 実はこの質問、とある天才が何回も証明しても、圧倒的多数の人が理解できずにいたくらいだから、こんな下手な解説で分からないのは当然でしょう。では、もっと極端な例を挙げて説明しましょう。


「さて、なんでこの問題がこんなにややこしくてわかりにくいかっていうと、実は三個のうちから……っていう条件がどんなパターンよりも「差」が小さいから、直感的に間違えやすくなっているからなんだよね」

「では、箱が増えたほうが分かりやすいのですか?」

「まあね、多ければ多いほどいい。そうだね、もう面倒だから、仮に箱が100個あって、あたりはその中の一つとするよ」

「100個…………」


 サーヤとリノアンは、頭の中で100個の箱が山積みになっている風景を想像する。


「でも、司会者は箱が100個あってもきちんと正解の箱がどれかわかってるとしよう」

「地竜並みの凄まじい記憶力ですわね」

「で、この100個のなかから一個を選んで正解を当てる確率は1/100……よっぽど運がいい人じゃないと当たんないね」

「絶対当たらないとは言い切れませんが……まず当たりませんね」

「じゃあ、この後司会者が、初めに選んだ箱以外の99個から1個残るまでハズレを全部取り除くよ。さあ、これでもまだ残った二つの箱であたりを引く確率は1/2と言えるかな?」

「ここまで露骨にやられれば、嫌でも分かりますわ…………」

「選択肢を変えないというのは…………初めの選択肢で自分が正しいと思い込むのと同義なのですね」

「まあ、そんなとこかな」


 一通り説明して、竜王カズミはカップのお茶を飲み干した。


「リノアン、おかわり」

「はいただいま」


 お茶のおかわりを命じられたリノアンは、即座にティーポットからカズミのカップにお茶を注ぎ、ついでに少なくなっていたサーヤのカップにも追加のお茶を注ぎ、最後に自分のカップにもお茶を足した。


「ねぇサーヤ、リノアン」

「はい竜王様」

「いかがされましたか」

「いまのお話……二人は結構あっさりわかってくれたけど、それは僕の解説が分かりやすかったから? それとも僕が竜王だから?」

『?』


 カズミの意味不明の質問に、二人は一瞬何か裏があるのかと考えた。


「わたくしは竜王様の説明が分かりやすかったから、普通に合点がいきましたわ」

「サーヤ様に同じく、竜王様の解説は丁寧で分かりやすかったと思います」

「なるほど。じゃあ……僕が今した解説を、雷竜族長のレーダーがしたら、二人はきちんと理解できた?」

『え……?』


 二人はまたしても悩んだ。理知的で尊敬できる竜王様に比べて、自分勝手で見た目頭悪そうな雷竜族長(※実は雷竜族長は確かに頭は若干悪いが、計算能力なら電卓にすら勝る)では、同じような解説ができるとも思えないが……


「じゃあ、次は二人に『どうしてこの問題は、間違えやすいのか』を説明していこう。実は、今の問題の存在意義は、すべてここに集約していると言っても過言ではないからね」


 そう言ってカズミは、クッキーを手に取ると、まるでコイントスのように上に跳ね上げ、落下したクッキーを口で受け止める。それを見た二人は、おもわず「すごい」と目を見開いて驚いた。

続きはまた明日


数学的な証明は不毛すぎるのでしません。

それに作者はガチガチの文系だし

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