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前編


 遠い遠い異世界に、アルムテンという国がありました。

 そこでは今日も、竜たちが好き勝手に過ごしています。


 いくつもの大きな国や正義の勇者たちが、こいつらをどうやって倒そうか、無い知恵絞って必死に考えているころ…………竜たちの頂点にして人類のラスボスである「竜王」は、今日も奇妙なたくらみに耽っていました。




「およびくださいましたか竜王様?」

「やあサーヤ、よく来てくれたね。今日は仕事じゃないからゆっくりしてってよ」

「そうですの。では、お言葉に甘えさせていただきますわ」


 この日、竜王カズミに呼ばれたのは、火竜たちの代表……火竜族長サーヤ。

 真っ赤な情熱的なドレスをまとった、火竜一の高飛車お嬢様である。


「実はね、最近サーヤは火竜たちの面倒をよく見てくれてるから、何かご褒美を上げようかと思ってね」

「まあ! 竜王様、どんな時にも周囲の者への気配りをお忘れにならないのですね! このご厚意、ありがたく頂戴しますわ!」


 ご褒美と聞いた瞬間、サーヤは目を輝かせて、自慢の強靭な火竜のしっぽをバンバン床に叩きつけて、体中で命一杯喜びを表現してきた。

 まるで犬のように、素直すぎる反応に竜王カズミも若干苦笑い。


「うんうん、何を上げるか聞く前にそんなに喜んでくれるなんて、僕もうれしいよ」

「あ、あらわたくしったら、つい……」

「ふふふ…………さて、ご褒美なんだけど、そのついでにちょっとしたゲームをしてみようか」

「ゲーム、ですの?」

「そう、ゲーム」


 そう言ってカズミは、三つの白くて平たい箱を机の上に並べた。

 箱はそれぞれ赤・緑・青のリボンで包まれている。


「さて、この三つの箱のうち、一つには伝説の金貨が入ってる。一枚で普通の金貨25600枚分の価値がある、文字通り伝説の金貨だ」

「まあ! そのようなものが!」

「しかし、残り二つの箱には、外れとして雷竜族長レーダーのブロマイドが入っている」

「うげっ……よりによってそんなものが…………」


 ちなみにイケイケドンドンの熱血火竜族とDQN集団の雷竜族は、昔から犬猿の仲である。

 当然族長同士の中も非常に悪い。


「じゃあサーヤ、この三つの箱の中のどれに伝説の金貨が入ってると思う? 触らないで選んでみて?」

「そんな…………あたりが一つで、残り二つが産業廃棄物ですなんて……」

「この世界のキャラの君がよくそんな言葉知ってるね……。まあ、とにかく勘で決めちゃってよ」

「そうですわね……では、せっかくですので、わたくしはこの赤い箱を選びますわ」


 サーヤは、赤いリボンがしてある箱を指差した。


「これね。じゃあ、これをプレゼント…………する前に、君の選ばなかったこの青リボンの箱と緑リボンの箱なんだけど、実はそのうちの緑のリボンは…………この通り」

「はずれですわね」


 カズミは緑のリボンをほどいて箱を開ける。すると中から、歪みない表情をした雷竜族長のブロマイドが現れた。それを見たサーヤは、ほっと溜息を一つ吐いた。


「ほっとした?」

「ええ、緑を選ばなくてよかったと人心地着いたところですわ。少なくともはずれの可能性は一つ減ったのですから」

「…………なるほど。じゃあ、ここからが本題。サーヤ、今ならサーヤが選んだ赤のリボンの箱、今なら青のリボンに変えることができるけど、変えてみる?」

「へ?」


 カズミの思いにもよらない問いに、サーヤはきょとんとして目が点になった。


「変えなくてはだめなのですか?」

「ううん、べつにそのままでいいなら、それでいいけど」

「そう言われますと、なんか不安になってきますわ…………で、ですが私はあえて変更は致しませんわ!」

「そう、なら………………」


 カズミは、サーヤが選んだ赤いリボンの箱を開ける。そこに入っていたのは……



「いやああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!11!!!!111!!!」


 竜王城に響き渡るサーヤの悲痛な叫び。

 なんということだろうか、箱の中身は、無慈悲にも雷竜族長のブロマイドだった……!

 くどいドヤ顔、野獣の眼光、実に憎たらしい…………最悪の一枚だった!


「こんなの…………こんなのって……」


 サーヤは膝から崩れ落ち、滂沱の涙を流した。

 むごい、むごすぎる!


「あ~……ごめんごめん、そこまで落ち込むとは思わなかったよ。可哀そうだから、もう一度チャンスをあげげよう」

「ほ、本当ですの……竜王様?」


 ところが、彼女にはまだ希望が残っていた!

 二回戦……開始!


「というわけで、ルールはさっきと同じ。この三つの箱の中に…………そういえばまだあたりを見せてなかったね。これが伝説の金貨なんだけど」

「まぁ……とっても綺麗ですわ!」


 カズミがまだ開けていなかった箱を開くと、そこには青のクッションの上に鎮座した、直径3センチほどの立派な金貨があった。おそらく何かの女神を模したとされる女性の横顔、ティアラを付けた額の部分には、とても小さいながらも曇り一つなく輝く青い宝石が埋め込まれていた。この伝説の金貨は、金含有率98%という凄まじい金貨で、一枚あるだけで大国の首都に豪邸が三つ立つくらいの値打ちがある。ただし、使い勝手の悪さもすさまじくて、通常両替商での換金がほぼ不可能なのがネック。


「きちんとアタリがあるってことも確認してもらわないとね。さあ、これをまた箱に入れて、見えないところでシャッフル………………あとは、また包むのも面倒だから箱の上に色のリボンを置くと」


 そうして、机の上に再び三つの白い箱が現れた。カズミが言った通り、箱の上にはリボンが先ほどの三種類……赤・緑・青と結んで載せてある。


「ここから、さっきと同じように、はじめにこの中から箱を一つ選んでもらう。選んだあと、僕はサーヤが選ばなかった二つのうち一つから、ハズレの箱を取り除こう。そうして、最後に選んだ箱のまま決めるか、選んだ箱を変えるか選択してもらう」

「わかりましたわ……。ですが、どうしてこのようなことを?」

「いいところに気が付いたね。でもまあ、教えるのは後でのお楽しみということで、とりあえず選んでみてよ」

「そうですわね…………」


 サーヤは、今度は緑のリボンの箱を指差した。


「これを選ぶんだね。じゃあ、残る二つ、青と赤……ハズレは、青!」


 カズミが青のリボンの箱を開けると、確かにそこには野獣の眼光(以下略)のブロマイドがある。


「サーヤ、君は自分の選択を貫くのもいいし、ここで変更するのも自由だ」

「むむむ…………どうしましょう」


 サーヤは非常に迷っていた。あくまで自分の意志を貫くべきか、はたまた変えるほうに賭けるか……

 ここで変更してそれがハズレだったらなんだか意志薄弱な気がするし、かといって変えないで外れたら、それはそれで自分の迂闊さを呪いかねない。


「ところでサーヤ」

「な、なんですの竜王様?」

「この二つのうち、どっちの方がアタリが入ってる可能性が高いと思う?」

「へ?」


 ここでカズミは、頓珍漢な質問をしていた。


「そんなの…………どっちも同じに決まってますわ」


 それはそうだろう。どっちかが当たる可能性があったら、サーヤはここで悩む必要なんてない。

 単純に考えて、たとえ目の前に箱が二個だろうと十個だろうと、当たる確率は同じだろう。


「そっか、サーヤもやっぱりそう思うよね。そんなわけで、変えるか変えないか決まった?」

「うっ…………そ、そうですわね………では、あえて変更いたしますわ」


 サーヤは今回は何となく箱を変えてみることにした。

 もしかしたらさっきの質問、あれはカズミが箱の中を何らかの方法で移し替えることができるか、はたまたそれに準ずる小細工があるのか…………ならば自分の意思はあまり関係ないのかもしれないとサーヤは考え、その上で先ほどは変えなかったので、今回は変えてみようと思い立った。


 すると結果は……


「おめでとう! 大当たりだよ!」

「やりましたわあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」


 サーヤが変えた後の箱……つまり赤いリボンのついた箱の中には、まぎれもなく本物の金貨が入っていた!


「こんどこそ正解出来たね、その金貨は今から君の物だ」

「ありがとう…………ございますわ……」


 感極まったサーヤは、今度は嬉し涙で視界がかすんでいったとさ。





「ところで竜王様」

「ん? なんだい?」

「先ほどの「どちらの方が当たる可能性が高い」とは、結局どういうことだったのですか?」

「そうそう、それを今から説明しなきゃね。実はね、さっき箱を変えるかどうか選んでもらったでしょ? あれって実は、変えたほうが二倍当たりやすいんだ」

「なんですって!?」


 カズミの話を聞いて、サーヤは目を丸くして驚いていた。


「いえいえ、そんな……ありえませんわ! 二つから選ぶ上に、中身がまだわからないなんて……」

「まあ信じられないのも無理はないよね。一応正確には、選んだのを変えなかった場合約33%で、変えた場合には約66%が正解する確率ってわけ。不思議でしょ、でもこれにはちゃんとした理由があるんだ」


 カズミは、さっき使っていた三つの箱を机の上に並べる。さっきまで金貨が入っていた箱には、もう商品は入っていないが、それでも敷物の青いクッションはまだある。


「さて、ここで重要なのは、ぼくがこのゲームを始めるときに言ったルールだ」

「ルール、ですの?」

「全部覚えてるかな?」

「確か…………


1.今ここには赤,緑,青の3つの箱があり、当たりが1つ、ハズレが2つ用意されている。

2.自分は箱を1つ選択する。

3.残された2つのうちハズレの箱を1つ開ける。

4.この時点で箱を再び選ぶことができる。


……だったと思いますわ」

「おおむね正しいね。でも重要な部分がいくつか抜けているから、訂正しよう」


2.自分は箱を1つ選択する※(この時点では開けない)。

3.『カズミは正解の箱を把握』しており、残された2つのうちハズレの箱を1つ開ける(2つともハズレの場合はランダム)。なお、これについてはサーヤの回答に関わらず必ず行われ、そのことは予めサーヤも理解している。

4.カズミは「今なら選択を変更して構いませんよ?」とサーヤに問いかける。サーヤは望むならこの時点で箱を再び選ぶことができる。


「細かいかもしれないけど、今回の問題ではとても大切なことだからね。じゃあ、試しにさっきのゲームを20回やってみよう。ただし、最初の10回は最後で選択肢を変えちゃダメ、後の10回は逆に必ず変更すること。いいね」

「わかりましたわ」


 で、実際にやってみると…………

・変えなかった場合 10回中2回正解

・変えた場合    10回中7回正解

という結果になった………   

※実際に参謀本部が機械でやってみた結果です


「ここまで差があるなんて…………」

「まあ、実験回数が少ないからだいたいこんなものかな。もっともっとそれこそ何百回何千回ってやれば、大体の確率が出るはずだ」

「ますます不思議ですわ。いったいどうしてこのようなことになってしまうのでしょう?」

「言っておくけど、箱には術も小細工もなしだ。けれどもやっぱり納得いかないよね」

「ええ、まあ…………」


 サーヤは複雑そうな表情をしているが、実際やってみた結果を突き付けられては、ますます混乱するばかりだ。


「よし、それじゃあどうしてこうなるのかをじっくり説明してあげよう。と、その前に…………サーヤ、考えすぎて少し頭痛くなってるでしょ?」

「い、いえ……そのようなことは………」

「くすっ、ここら辺でいったん休憩しようか。今リノアンがクッキー焼いてきてくれるから、来たら一緒にお茶にしよう。甘いものとると頭が冴えるからね」

「竜王様……何から何までありがとうございますわ」


 こうして二人は、いったん休憩のため、ソファーに深く腰掛けて一息入れた。

 サーヤはいまだに、箱をずっと眺めては、不思議そうに顔を傾けていたとさ。




続きはまた明日。

知らない人は、頭をひねって考えたり、自分で実験してみるといいかも。

せっかちな人は「モンティ・ホール問題」でググるべし!


これ知ってるしつまんねーよという人は「モンティ・パイソン」でも見とけ

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