家族
倒れてから3日が経った。
今日から祖父が魔法を教えてくれることになっていた。
「よいかハルキ。まずは消費したエネルギー、魔力を完全に回復させるのじゃ。そうじゃのう、3日後から始めるとしよう。それまでは決して魔法を使用してはならんぞ。わかったな?」
僕は祖父の部屋の扉を叩いた。
「ハルキです」
するとすぐに扉が開いて、祖父が出てきた。
「おお、ハルキ!よう来たな。ちゃんと約束は守っておったか?まあいいとりあえず入りなさい」
祖父は優しく部屋に招き入れてくれた。
僕は椅子に座るように促され、祖父と対面するような形でソファーに腰掛けた。
「うむ、魔法を教える前ひとつハルキに言いたいことがあるのじゃ。ハルキよ、ワシらに敬語など使わなくてよいのじゃぞ?ハルキは頭が良いからもう立派に話すことが出来る。じゃがな、ワシらは家族じゃ。孫とおじいちゃんなのじゃ。遠慮せずにワシのことはおじいちゃんと呼んでいいのじゃぞ」
いきなりそんな事を言われて、僕はとても驚いた。
まるで養子に連れて来られた孤児に対して言うような台詞だ。
僕は、考える。
そうなのだ。
僕は転生してからずっと、祖父母はおろか、両親のこともちゃんと呼べていなかった。
親というものは、初めて『パパ』『ママ』と言われてとても喜ぶものである。
僕は両親の第一子だった。
にもかかわらず、僕はそんな小さな喜びすらもあげられずにこの世界の知識集めと友人探しのことばかり考えていた。
いくらステータスなんてものが見えるからと言って、ここはゲームの世界ではない。
彼らがNPCであるわけでもない。
彼らは元の世界の人たちと同じ、血の通った人間なのだ。
僕の第一声は何だったろうか。
ある程度言葉が理解できるようになるまで無口を貫いていたから、何を最初に話したかも覚えていない。
きっとくだらない質問だったに違いない。
転生者とはいえ彼らは僕を産み、育ててくれている家族だ。
それなのに僕は、壁を作ってよそよそしくしていた。
彼らの気持ちを考えると、胸がたまらなく熱くなった。
僕は自分の死を本当の意味で受け止められていなかったのかもしれない。
記憶を持って生まれ変わったせいで、『前の生活に戻れるかも』とどこかで思って、繋がりを作るのを避けていたのかもしれない。
これではただ、彼らを利用しているだけではないか。
僕は転生したのだ。
この世界にハルキとして生まれてきたのだ。
本当は、転生したと分かったときに、春樹ではなくハルキとして、しっかりとこの世界で生きていく覚悟を持たなければいけなかったのはないだろうか。
祖父、いやおじいちゃんは僕が転生者だと分かっていてこんなことを言ったのではないだろう。
他の人から見れば何でもないごく普通の会話だが、僕にはこの一言がとても強く胸に響いた。
気がづいたら目から涙が出ていた。
思えば死んでから一度も泣いていなかった。
前の世界での繋がりを惜しむ気持ちと、転生してからの僕の家族への態度を思い、僕は涙が止まらなくなった。
「ごめんなさい」
僕は一言そう呟いて、そのあとひたすら泣いた。
啼いた。
哭いた。
おじいちゃんは困った顔をしてから、ずっと無言で僕を抱きしめてくれた。
この時の老人特有の少しカビ臭い匂いを、僕は一生忘れることはないだろう。
結局この日は魔法の練習はしなかった。
ただ、魔法よりもずっと大切なものを得られたことを僕は疑わない。
そして翌日。
ついに僕とおじいちゃんの魔法練習が始まった。
おじいちゃん子に育ちそう(笑)
配役間違えたかな。。