魔法-2
あの日以来僕は魔法の練習を始めた。
理由は2つ。
魔法が思っていた以上に使えると分かったから。
そして、身体を鍛えるにはあまりにも小さすぎるから。
分かれた2人を探すには旅が必須となる。
魔族のことを知ってから、最低限の強さはほしいと思っていた。
そんな僕にとって今、魔法はとても都合の良いものだったのだ。
祖父の話によればまず、魔法を使うには体内のエネルギーの流れを感じ取り、制御出来るようになる必要がある。
魔法使いを夢見る大抵の人間はこれが出来ず、魔法を諦めるらしい。
要は某人気漫画に出てくるチャクラのようなものだろう。
僕は目を瞑り、身体の内側に神経を集中させる。
転生してから違和感はあった。
血液とは別の何かが体中を駆け巡っている感じ。
魔法のない世界から転生した僕だからこそわかる感覚だろう。
恐らくこれがエネルギーの流れだ。
制御ということは、この流れを自由自在に操れれば良いということだろう。
僕はまず体の一点にエネルギーを集めてみることにした。
確か祖父は右手から火を出していた。
よし、最初は右手にしよう。
もし出来そうならそれで火をつけてみよう。
体中のエネルギーを右手に集めるイメージをしてみる。
足の先から徐々に膝、太もも、お腹、胸へ。
肩を通って肘、手首、そして、手のひら。
右手以外の部分の温度が下がっていくのを感じる。
恐らくこれで制御出来ているのだろう。
次は火にしてみよう。
熱くなった右手に全神経を総動員して、このエネルギーを火に変えるイメージを膨らませる。
祖父は、実現させるイメージを持つことも大切だと言っていた。
ならばこれを発火しやすい物質に変えるイメージをしてみよう。
そうだな。黄リンにする。
この黄リンを大気中に出せば少しの衝撃で自然発火するだろう。
僕は右手に集めたエネルギー、もとい黄リンをゆっくりと手のひらの上へと放出するイメージを作る。
さぁ出来た。
後は少しきっかけを与えれば発火するだろう。
スピッ!
小さな指を擦り合わせて指パッチンまがいの事をする。
ボォッ!
──バタン。
僕は倒れた。
目が回る。体に力が入らない。吐き気がする。
薄れゆく意識の中、ステータス表示が赤くなっていることに気づいた。
MP 0/16
右手に灯った小さな火種のような弱々しい火が消えていくのを見ながら、目を閉じた。
目が覚めると僕はベットにいた。
周りには安堵の表情を浮かべた両親と祖父母がいた。
「良かった。ほんとに良かった。このまま目を覚まさなかったらどうしようかと」
母親が父親にもたれ掛かりながらその場に崩れる。
「ほら、ワシの言うた通りすぐに目を覚ましたじゃろ?魔力欠乏の典型的な症状なんじゃ。ワシも昔よくやったのう」
「貴方は何を言ってるんですか!こんなに小さい子が倒れたんですよ!そもそも貴方がハルトの前で調子に乗って魔法なんか使うからいけないんですよ」
「別にいいじゃろう!現にちゃんと目を覚ましたではないか!それにワシは魔族も撃退し、ハルトの魔法の才も掘り起こした。一体何が不満なのじゃ!」
「その態度ですよ!それにハルトはまだ1歳じゃありませんか」
「魔法を始めるのは、早いに越したことないわっ!」
「まぁまぁ、お二人共、ハルトの前ですし。それにハルトが目覚めてくれたんだ。本当に良かった」
父が祖父母の仲裁に入る。
「分かった。ワシがハルトに魔法を教える。一度使えば無理に止めても無駄じゃ。ワシらに隠れてまた使うじゃろう。ならばワシの監視のもとで魔法の才を伸ばしてやろうじゃないか。もしも万が一、何か起こればその時はワシが全責任をとろう。決して無理はさせない。それなら良かろう?ハルトもそれで良いか?」
初めて聞く祖父の凄みの乗った声に少し気圧されながらも、僕は確かに、そして小さく頷いた。
祖母は口を動かしてなにか言いたげだったが、結局何も言えず、皆無言で祖父の提案を了承した。
僕は祖父に魔法を教わることになった。