入学試験-3
薄暗く幅の広い廊下に6人の男たちがたむろして何やら神妙な顔つきで立ち話をしている。
傍から見るとなんとも奇妙な光景である。
「そっちの組はどうだった?」
ドンが廊下の左側の3人に問いかけると、3人は顔を見合わせ、肩をすくめながら小さなため息をつく。
「んー、ダメだな。日頃から嫌になるくらい優秀な奴らを見ているだけあって、どうしてもあいつらと比べて見劣りしちまう。まともなのは一人かな」
「あー西外れの村娘だろ? 雷を使ってたんだがな、あの子はなかなかいいセンスだったとおもうぜ」
「そうだな~実技を見る限りだとこっちはあの子一人かな。そっちはどうだったんだよ。そこにやけにうなだれている奴がいるが、何かあったのか?」
男はカルロスを指差しながらケラケラと笑う。
「どうもこうも、な」
「ええ」
ドンとヒューイは座り込んだカルロスに視点を落としながら、ヒューイが躊躇い気味に話を続けた。
「こちらも一人なんですが、その一人というのがなんともヤバめでね」
「なんだよ、勿体ぶらずに教えろよ。まさかあのアーサーと同じくらいなんて言うんじゃないだろうな?」
痺れを切らした男一人が自嘲気味に笑い飛ばす。
「──あんなもんじゃねえよ」
今まで沈黙を貫いてきたカルロスが顔を膝の間に埋めたままポツリと言った。
「奴はペンドラゴラなんかと比べられないくらいの実力者だ。宮廷魔導師レベルかもな。俺は手も足も出なかったよ」
「はあ? 嘘だろ? どうせお前との相性が悪かったとか気を抜き過ぎたとかそんなもんだろ」
「いや。あいつは見たこともない魔法を使ってきた。視界が深い霧で覆われたと思ったら、魔法を発動する間もなく気づけば後ろにいた、首に剣を当てられていた。最初は従獣が何かしたのかと思ったが違うようだった。あいつは知らない魔法を使って、あり得ない速さで、気配もなく近づいて、俺の後ろをとったんだよ」
一言一言、ポツリポツリと呟くように、噛みしめるように、想い出すようにカルロスは語った。
「なんで魔法分野に暗殺者が混じってるんだよ。第一剣持ち込んだ時点で反則だろ」
「いえ、私が見た限りでは剣、その他の道具の持ち込みは確認できませんでしたよ。それに従獣は霧の外にいて一歩も動いていませんでしたし」
「じゃあどうやったって言うんだよ!」
「魔法だよ」
「は? 魔法で剣を作ったと? どうやって──」
「分からんっ!」
カルロスは大声を上げる。
「もう何がなんだか分からん。俺は自分にすっかり自身がなくなっちまった。教師はやめてしばらく修行の旅にでも出るよ」
そう言うとカルロスは立ち上がってトボトボと歩き去って行く。
「おい、正気か!?」
男の叫びもただ虚しく廊下に響き渡るだけであった。
「ちっ、何者なんだそいつは」
「フォスター家のやつ、レオナルドのガキだよ」
−−−−−−−−−−−−
僕は昨日と同じようにお父さんとフェンリルと貴族学院に来ていた。
面接試験のためだ。
この面接試験が終わると、今日の夕方にはもう合否が発表されるらしい。
要はこの面接は飾りだけのほとんど意味がないものなのだろう。
案の定、身分の高そうな御老人4人に当たり障りのない、志望動機や得意なこと等を聞かれただけで面接は終わってしまった。
あとは夕方の発表を待つだけだ。
「お疲れ様でした。夕方まで何をしていましょうか」
「うーん、フェンリルはどこか行きたいところはある?」
「城に行ってみたいぞ!」
フェンリルは間髪入れずに僕の問いかけに答える。
しかし王の住む城である、ネズミーランドのアトラクションとは分けが違うだろうが庶民は入れるのだろうか。
「城なんて入れるの?」
「入れますよ」
入れるようだ。
この国はそれで大丈夫なのだろうか、クーデターなんか平気で起こせちゃいそうだ。
「心配ありません、普通の人は入れませんよ。忘れましたか? フォスター家は一応帰属なのですよ?」
「あー、そっか。じゃあ行ってみようかな」
「うむ! では行こうぞ!」
僕はフェンリルに手を引かれながら目の前を覆い尽くすように建っている街の中心にしてシンボル、ミドルズ城へと向かった。
大き過ぎると距離を測りにくいということを痛感する。
割と目の前にあると思っていたミドルズ城は貴族学院からわりと離れていて、つく頃にはすっかりお昼時になっていた。
城の周りには高い高い白塀が鎮座していた。
回りこんで城の正門に着くと、純白の鎧に身を包んだ兵士が僕達の方へ歩み寄ってきた。
「どうも、レオナルド・フォスターです。この子たちと城の見学に来たのですが入ってもいいですか?」
「フォスター様、ようこそいらっしゃいました。こちらの入城証をお持ち頂き、お出になる時に門兵にお渡し下さい」
お父さんは入城証を受け取ると僕たちに中へ入るように促す。
凄い、顔パスだ。
ほんとにうちって貴族だったんだな。
城内は貴族学院なぞ比べ物にならないくらい豪華絢爛であった。
フェンリルと僕は馬鹿みたいに口を開きっぱなしにしながら、お父さんの後を金魚の糞のようにトテトテとついて回る。
言葉では表せないほどの物だった。
「お腹が空いてきましたね、食堂にでも行きましょうか」
城の説明をしてくれていたお父さんがふと足を止めて振り返る。
お城の食堂、どんな美味しいものが出てくるのだろうか。
食堂に向かっている途中突然廊下に人が湧き始め、焦燥とした雰囲気が漂い始めた。
「王様がいらっしゃいましたね、端によって頭を下げてください」
お父さんがそう言って僕達を壁へ押し退けると、僕らの進行方向から『ザ・王様』という感じの荘厳とした男が何人もの臣下を侍らせてこちらに歩いてくる。
そして僕達の前でふと立ち止まった。
「おぬし、レオナルドか?」
「はっ、ご無沙汰しておりました。レオナルド・フォスターにございます」
「おお、レオナルド、久方ぶりだな。顔をあげよ。その者達は?」
「はっ、私の愚息ハルキとその従獣にございます」
「おお、そうかそうか。その者たちも顔をあげよ。おぬしに似て聡明そうな顔立ちをしておる。もしや貴族学院の試験に来たのか?」
「とんでもございません、その通りにございます」
「そうかそうか! ハルキ、と言ったか? わしの息子も貴族学院に通っておるのだ、よろしく頼むぞ」
そう言って僕は王様に肩を叩かれる。
え、そんな急に振られてもなんて答えていいか分からないよ。
「お、お任せくださいっ!」
「はっはっは! 威勢がいいな、ではまたな」
ちらりと横を見ると冷や汗をかいたお父さんの横顔があった。
あの受け答えはまずかっただろうか。
気づけばすっかり僕の空腹はどこかへ行ってしまっていた。
「ふう、あのお方がミドルズの王、ユーサー・ペンドラゴン様です」
ユーサー・ペンドラゴン、凄いオーラだった。
あの人の子供も貴族学院にいるのか、強いのだろうか。
「さ、気を取り直して食堂に向かいましょうか」
食堂に向けて再び歩きはじめると、フェンリルに袖を引っ張られる。
「主様よ。あの王、かなりの手練じゃったな。何者じゃ?」
「そうなの? 知らないよ、初めて会ったんだから」
「うむ。主様といい、人族の評価を改めないといかぬかもしれんの」
「え、そんなに強かったの?」
「あまり正確なことは言えぬが、主様と互角くらいの力は持っておるかも知れぬ」
流石王。とでも言うべきか、フェンリルにここまで言わせるということは凄い人なのだろう。
その子供が貴族学院に──。
僕は少し学院へのモチベーションが上がった。
まあまだ受かってすらいないのだけれど。
王宮の食堂のご飯は流石に美味しかった。
お母さんの料理も相当美味しいけれど、それとはまた別系統の美味しさだ。
フェンリルもあまりの幸せに緩みきった顔をしていた。
そして夕方、僕は貴族学院に合格した。




