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Norse Cosmology   作者: 宵闇蛍
第二章 -少年期編-
23/28

強すぎる力

「ごめんよ、悪かったって」


「主様は鬼畜じゃ。もうしばらく口は聞かぬっ!」


 お座りのまま一夜放置させてしまったフェンリルをなだめていると、なにやら外が騒がしいようだった。


「なんだろう、ちょっと外を見てくるよ。フェンリルも来るかい?」


「…………」


 フェンリルは僕をちらっと一瞥して、プイとしてしまった。

 どうやら相当怒っているらしい。


「じゃあ僕一人で行ってくるから、待っててね」


「…………わらわも行く。主様、主様ーー!」


 後からテチテチ走ってくるフェンリルを引き連れて、僕は一階に降り、家の中に誰もいないことを確認する。


「どうしたんだろう」


「……おそらくわらわのせいじゃ」


 耳を垂らしてフェンリルは所在なさ気にポツリと呟く。


「それってどういう……」


「外に出れば分かろう」




 言われたとおりに何も聞かず僕は外に出ると、そこには信じられない光景が広がっていた。

 家から大体15m円より外に、無数の魔族が群がっていたのだ。

 多分狼の襲撃以降家の周りに敷いたと言っていた魔族除けの結界のせいで入ってこれていないのだろう。

 よく見ると結界の内側から皆が懸命に魔族を討伐していた。


「お爺さん、魔法で一気に吹き飛ばせないのかいっ!」


「こんな広範囲の、しかもこの数じゃ、無理に決まっておろう!魔力も火力も全然足らんわいっ」


 それぞれが物凄い勢いで倒していっているのだが、魔族が数で圧倒していて倒しても倒してもその勢いが止まることはなさそうだった。


「わらわの魔力に引き寄せられて下級魔族が一気に押し寄せたのじゃろう。今までは封印のお陰で漏れ出す魔力は限られていたが、わらわが外に出たことで多くの魔族に気づかれてしまったのじゃろう。わらわが原因じゃ、ケジメはわらわがつける。主様よ、少し魔力を貰うことになるかもしれんが良いか?」


「なるほどね。だけどさ、こんな事になった理由には納得したけれど、君が責任を取るというのはちょっと違うんじゃないのか? 封印を解いたのは僕なのだし。何よりも従者の責任は主が取るものだと昔から相場が決まっているんだ、覚えておくんだよ」


「……主様?」


 僕は手でフェンリルを遮ってそこに居るように言うと、皆が戦っている近くに向かう。


「おお、ハルキ──」


「みんな、ごめんなさい。これは僕がフェンリルの封印を解いたかららしい。ちょっと下がっててもらえませんか?」


 そう言って僕が頭を下げると、皆は驚いた顔をして手を止めた。


「頭を上げなさい。事情はよくわかりませんが、どうするつもりですか?ハルキ」


「僕が全部倒すよ。責任を取りたいんだ。だからちょっと下がって見ていて欲しい」


「ハルキ、あなたにそんな……」


 お父さんはお母さんを止める。


「分かりました、やってみなさい。無理そうならすぐに言うのですよ」


「うん、ありがとうお父さん」


 皆が下がったのを見て僕は魔法の準備をする。

 広範囲魔法は空間把握エリアの中でしか基本使わないが、決して使えない訳ではない。

 青白炎撃アッシェンフレアが良い例だが、使えないのではなく制御できなくなるのだ。

 だが今回はかなり広範囲に魔族が広がっているので、威力を制御する必要がない、だから普段なら絶対使えないような広範囲魔法も使えるというわけだ。

 責任を取りたいのももちろんあるけれど、何よりこんなシチュエーション滅多にお目にかかれない。

 フェンリルや皆には悪いけれど、正直試したくて仕方がなかった魔法を試せる機会が出来て、僕は果てしなくわくわくしていた。


 僕はまず家と家族が入るように空間把握エリアを発動し、その周りを覆うように火属性魔法を発動させる。


火属性魔法ブレイズマジック 火炎障壁ファイヤーウォール


 周りが火の壁で覆われたのを確認して、僕は左手を構えてエリア外を意識し、制御出来ないが故に実験段階で没にした恐らく僕の使えそうな魔法の中で最凶最悪の魔法を発動させる。

 なんとこの魔法、オリジナルの詠唱付きである。



「冷気が世界を覆い、生きとし生ける物はその営みを止める。全てが原点ゼロに還り、時はその宿命さだめから放たれる。凍てつき、己の儚さを知れ。 氷属性魔法アイスマジック 絶対零度アブソリュートゼロ




 魔法が発動すると同時に辺り一帯が青白い光に包まれる。

 さっきまでの魔族たちの地鳴りのような雄叫び声が嘘のようにピタリと止み、視界に動くものは一切映らなくなる。

 火炎障壁ファイヤーウォールの外は全て白銀の世界と化し、鉄のイアールンヴィズは樹氷林へと姿を変えていた。


「何が起こったんじゃ……」


 皆はただ唖然として言葉を失い、化物でも見るような目でハルキを見つめた。

 ただ一人、フェンリルを除いて。

 正直いくらハルキが天才だからといってこの数万にも及びそうな魔物を一人で倒すのは無理だ、誰もがそう思っていた。

 しかし彼はそれを一撃で、それも一瞬でやってのけたのだ、殺って退けたのだ。



 フェンリルは興奮していた。

 絶頂にも似た興奮をしていた。

 火属性魔法特化の魔法使いだと思っていたのに氷属性魔法を使って見せたのだ、それも紅炎龍舞プロミネンスと同等、いやそれを上回る威力の魔法を。

 彼女の知る限り複数属性の魔法を使えるものは少ない、使えたとしてもどちらかに偏りが生じるものであった。

 私の選択に間違いはなかった、この主は最強にも届き得る力を持っている、もしかするとオーディンをも超える力を。




「や、やり過ぎたかな?」


 火炎障壁ファイヤーウォールを解いて一面白銀に染まった世界を見て僕は少し反省をする。

 制御し切れていない魔法を使うのはとても怖いものであると。

 振り返ると家族が怯えた目で僕を見ている。

 どうやら僕は強くなり過ぎたらしい。

 あっ、でもフェンリルはそうでもな……発情してないか? あれ。



 その日街では初めて雪が降った。

 雪を見たことがない街の人々は大騒ぎし、世界の終わりだと言い出す者もいたそうだ。

 それはあながち間違いではないのだが、今はまだ世界の終わりへとも続く長い長い物語のほんの序章にしか過ぎないのである。

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