邂逅
「やーーっ!」
肉の潰れたような音とともに大きな衝撃が地面に響く。
「だいぶ戦い慣れてきましたね。これならもうハルキだけに仕事を任すことも出来そうですね、ふふっ」
「えーまだそれは怖いよ。しかもそれお父さんがサボりたいだけじゃないの?」
剣の修行のために森守の仕事を手伝いはじめて2週間、冗談を交えながら森の巡回が出来るくらいには慣れてきている。
今まで倒した魔物は21匹、内訳はイノシシ型が7匹、オオカミ型が12匹とクマ型が2匹だ。
最初こそ苦戦したものの、回数を重ねるごとに頭の中で相手との戦い方・立ち回りの正確なシュミレーションが出来るようになり、今では30秒かからずに倒せるようになっている。
「さあ、ではさっさと終わらせてしまいましょうか、あまり遅くなるとミリアに怒られてしまいますからね」
3時半に帰宅した僕はシャワーを浴びて自室に戻る。
シャワーと言っても冷たい水を浴びるだけであって、当然シャンプーなどはなく、代わりにハーブのような匂いのする葉っぱを擦ったものを使う。
これがスースーして意外と気持ちがいいのだ。
でもお風呂が恋しい、今度作ってみようかな。
部屋に入ると母先生が待っていた。
「お疲れ様、今日は社会を進めようね! 稽古ばかりしてると中等部にはいれなくなっちゃうからね」
そう言ってクスっと笑う母先生今日も可愛いです。
森守の仕事に慣れて夕方には帰ってこれるようになったため、3日前から母学校が再開したのだ。
疲れた身体に響く母先生の良い匂いと綺麗な声は、どんな回復魔法よりも僕を癒やしてくれた。
まあ、その度に子として生まれてきてしまった運命を心の中で嘆いているのだが……羨ましいぞ、レオナルド!
勉強が終わり夕食の席で、またお父さんが信じられないことを言い始めた。
「あ、そうでした。明日魔石をギルドに持って行こうと思っていたのですが、明日の巡回、ハルキ一人でやらせてみたいのですがどうでしょうか?」
「はい!?」
僕は思わず語尾が裏返ってしまう。
「レオ君、それはちとまだはやいのではないか? はじめてまだ2週間じゃろう?」
「でもお義父さん、ハルキの伸びは異常です。実戦慣れさせるためには一人で戦う緊張感も必要だと思うんです。明日においては魔法も解禁にしようと思っています。ハルキ、どうでしょう?」
僕は考える。
まさか本当に一人でやらせようとは。
確かに1体なら剣でも十分に圧倒できるまでにはなっている。
複数だと怪しいが、2週間やった限りでは群れて出てくることはまずないと思われる。
ルートに関しては目印もあるし大丈夫だと思う。
魔法を使っていいというのもちょっと嬉しい。
どのくらい魔法の威力が上がっているのかも試してみたいし。
大丈夫そうかもしれない。
「うん、やってみるよ」
「本当に大丈夫なのかい?」
「うん、魔法も使っていいんなら心配ないと思うんだ」
「じゃあ行かせてみようかのう」
おじいちゃんが肯定すると、皆もうんと頷いた。
「それじゃあ明日の勉強はお休みかしらね」
うぐ、そこは盲点だった。
「早く帰ってこれたらやろうかな」
こうして僕は明日一人で仕事に行くことになった。
街に行くために途中までは父も同行するので、出発は一緒にすることになった。
−−−−−−−−−−
「お弁当は持った?」
「うん、持ったよ!」
「気をつけるのよ、行ってらっしゃい」
お母さんに見送られて僕たちは出発した。
「じゃあハルキ、無理はせずに気をつけるのですよ」
「うん、じゃあ行ってくるね」
途中でお父さんと分かれて僕は本格的に走り始めた。
索敵はまだ苦手なのでいつも以上に集中して周囲を警戒する。
すると3周目が終わる頃、1匹のオオカミ型と遭遇した。
ここに封印されているのが神狼のせいか、オオカミ型の魔族が圧倒的に多い。
「グルル……ガァッ!」
大口を開けて突っ込んできたオオカミを剣で横にいなす。
せっかく魔法が解禁されているから魔法を使おうかな。
「次元魔法 空間把握!」
僕は10m半径の空間把握を発動させる。
熟練度が上がって距離が大幅に伸びたのだ。
おお、目で追うよりずっと正確にオオカミの動きが把握できる。
次元魔法と剣術の相性は抜群かもしれない。
だけど今回は剣は使わない。
僕は再度突っ込んで来たオオカミをいなすと、ロングソードを左手に持ち替えた。
オオカミの座標を認識しながら右手を前に突き出す。
パチンっ!
「火属性魔法 大爆発!」
派手な爆風とともに、周りの小鳥たちが一斉に飛び立ちそうな轟音と黒煙が押し寄せる。
爆発した3m円の木々は吹き飛んで、その周りの木々はうっすら焼き焦げている。
少し抑えめに撃ったつもりだったがオーバーキルだったらしい、光の粒となることもなく吹き飛んでしまったようで、後には魔結晶だけが残っていた。
「やっぱり凄い威力だな……」
僕は魔結晶を拾ってルートに戻った。
遺跡の中でお昼でも食べてみようかなと思い走っていると、遺跡のすぐ近くに瘴気の群れが見えた。
──ま、まさか……。
遺跡の入口に6匹のオオカミ型の魔族が体当たりをしていた。
今までこんなことはなかったのに、どうして今日に限って……。
しかもあそこには神狼が封印されているらしい、もし解き放たれでもしたら一大事である。
応援を呼ぶか?
家からは結構な距離がある、あの勢いで体当たりをし続けたら間に合わないかもしれない。
よし、やるか。
僕は空間把握を最大まで発動させ、左手にロングソードを構えてゆっくりと近づく。
残り15mくらいまで近づいた時に、一匹のオオカミが耳をピクリとさせた。
するとオオカミ達が一斉に振り返り、僕を視界に捉えた。
「ハオーーーンっ!」
とひと吠えするやいなや、オオカミたちは散開してそれぞれ僕をじっとりと観察しながらじわりじわりと距離を詰めてきた。
この時僕はまだ知らなかったのだ、オオカミの真の怖さを。
オオカミは群れで行動するときにその真の強さを発揮する。
チームプレイに強いのだ。
それぞれが自分の役割をしっかりと理解し、慎重に、正確に獲物を追い詰めていく。
ジリジリと距離を詰められ、全オオカミが同じタイミングで僕の空間把握に入る。
いつでも攻撃に移れる大勢で、一歩ずつ確実に僕を包囲していく。
これはまずい。
剣だと無理なのは言うまでもないが、魔法でも全方向同時攻撃のものは持っていない。
オオカミ型は攻撃をくらうと肉を根こそぎ持って行かれるため、一発でもくらうと勝ち目は無いだろう。
こうなればもう、ここら一帯を爆心地自分で爆発させるしかないか。
力加減を間違えると遺跡までふっ飛ばし兼ねないが、もう迷ってる時間はないようだ、奴らは一斉に走り始めた。
「ええい、もうやけだ! 火属性魔法 超爆発っ!!」
自分を中心に凄まじい爆風が吹き渡り、僕は思わず目を閉じた。
ん!? これはやり過ぎたかもしれない。
思った以上に焦って力みすぎてしまった……。
抉れた地面に着地して、恐る恐る目を開ける。
「あーー、どうしよう。これ怒られるよな……」
案の定遺跡は吹っ飛んで、僕を中心に隕石でも当たったかのような大きなクレーターが出来ていた。
僕は砂煙の舞う中、遺跡のあった場所に近づく。
「本当に跡形もないな……」
そう呟いたあと、僕は目を疑った。
動く影があるのだ。
つまりこの爆発に耐えた者がいるということなのだ、あり得ない。
ロングソードを両手で構えて一歩後ずさる。
砂煙がどんどん引いていくにつれて、小さめの影だということがわかってくる。
まさか、オオカミの生き残りが!?
そう思いながら影を凝視していると、信じられないものが僕の目に映った。
そこには、キツネのような耳をはやした、全裸の幼女が手を舐めながら座っていたのだった。
「……はりゃ?」




