街と剣
「氷柱!」
高さ1mほどの綺麗な細長い円錐が出来上がる。
氷柱を練習し始めてから2週間が経ち、ようやく綺麗な円錐が作れるようになってきたのだが、一回の発動で出せる氷柱は1本が限界で、さらに発動に3秒以上かかってしまう。
これでは素早い魔族には余裕で回避されてしまうだろう。
明らかに今までで一番手強い魔法だ、まだまだ要練習である。
母学校の方はというと、理科算数はほぼ6年分終わってしまった。
こちらの世界の理科は特に酷い。
原子や分子が解明されておらず、自然現象をただ陳列していくのみであり、どうやって起こるのかすらそのほとんどが曖昧である。
国語と社会は少しずつ頑張ることにする。
決して思っていたより大変だったなんてことない。
21歳が小学校教育で躓くなんてあってはいけないではないか。
断じてないのだ。
……断じてないのだぞ。
母先生には相変わらずムラムラしっぱなしである。
悟られないように毎日大変だ。
特に質問した時に髪をかきあげて顔を近づけるとき。
どんな禁術魔法よりも強力に違いない。
僕の理性先輩には頑張ってもらうしかないだろう。
頑張れ、理性先輩!
負けるな、理性先輩!
「のう、ハルキ。おぬし剣術に興味はあるか?」
いつものように一緒にランニングをしているとおじいちゃんは唐突に切り出した。
「突然どうしたの? まあ、あるといえばある、むしろやってみたいとは思っていたけど」
「いやのう、ハルキの父、レオ君が剣術の使い手であることは知っておろう? それでな、もしハルキがもし習いたいのであればいえば教えてくれると思うぞ。あやつもハルキに剣術を教えたがってたからのう」
「え、それは嬉しいけど、お父さん仕事が忙しそうだからそんな暇ないんじゃないの?」
「カッカッ! それは心配しなくて良い。レオ君の仕事ならワシと婆さんで十分肩代わりできる。ワシらかてまだまだ現役じゃ、そのくらいなら造作もないわい。どうする、習ってみるか?」
「うん! そういうことなら是非」
そう答えるとおじいちゃんはカッカッと笑い、ペースを上げた。
横顔が少し寂しそうに見えたのは気のせいだろうか。
次の日からお父さんが剣術を教えてくれることになった。
仕事には両親に変わり祖父母が行っているようだった。
「ではハルキ。今日から僕が剣術を教えていきますが、あなたには大切なものがまだありません。そうです、剣です。今日は街まで出てあなたの剣を買いましょう」
僕は父と街に行くことになった。
森の中を2時間ほど歩き、その後森を出てから1時間ほど田園風景の中を行くと大きな塀に囲まれた街についた。
街の中央には立派なお城も見えて、前世の童話の挿絵に出てきそうな街だった。
「凄い……」
「ハルキは街に来るのは初めてでしたね。凄いでしょう。ここには60万人以上の人が暮らしているんですよ」
門に近づくと長槍を持ったいかにも門番風の兵士2人が近寄ってきた。
「どうも、レオナルド・フォスターです。今日は武具を見に来たのですが」
「ああ!これはこれはレオナルドさん。遠くからご苦労様です。そちらは息子さんですかい?」
「ええ、息子のハルキです」
僕は小さく会釈する。
「これはまた可愛い息子さんで。賢そうで羨ましいですなあ。おい、門を開けろ!」
男がそう叫ぶと中から「あいよ」と声がして、門が大きな軋むような音を立てて開いた。
「ありがとうございます」
「レオナルドさん、行ってらっしゃい。今度稽古でもつけてくださいね」
「はは、隊長さんに怒られちゃいますよ。では」
そう言って僕達は街の中に入った。
街というだけあってとても活気づいていた。
通りには溢れんばかりの人と、いい匂いのする露店群が立ち並んでいる。
店主たちの威勢のいい声と、人々の話し声でとても賑やかである。
そういえば転生してから家族以外の人を見るのは初めてかもしれない。
はぐれないようにとお父さんは僕の手をぎゅっと握りしめた。
見た目は優男なのにお父さんの手はゴツゴツしていてとてもたくましかった。
少し歩くと僕たちはメイン通りを右に曲がって小さな路地に入った。
そしてよくある『盾の上に双剣が交わっている絵』の旗の前で止まった。
「ここだ」
重たい音のするドアを開けると、鉄臭い臭いの少し広めのコンビニくらいの大きさの武具屋だった。
「いらっしゃい! お、フォスターさんとこの」
「どうも、ガルフさんお久しぶりです」
「久しぶりだな、半年ぶりくらいか? もっと顔出してくれたっていいんだぜ? ハッハッハ! お? そっちのガキはあんたの息子かい?」
「はは、そうです。息子のハルキです」
僕はまた小さく会釈した。
「おーおー! こんなにでかかったのか! それで、今日はどうしたんだ? 修理か? 新しい大剣か?」
「いえ、今日はこの子の剣を買いに来ましてね。 これから剣術を教えようと思っているんです。」
「おお! そうなのか! ボウズも幸せもんだなあ、剣聖様にマンツーマンとは。うちの国の兵士どもなら喉から手が出そうなくらいだろうよ。」
男は僕の背中をバンバン叩きながら言う。
痛いんですけど。そんな視線を向けながら実は凄い人だったらしい父にちょっと尊敬の念を抱く。
確かに門番の人も憧れの目で見ていたなあ。
ただの優男だと思っていたけど、本当は凄い人だったのか。
「で、何をお求めだい? 片手剣か? 大剣か? 双剣、というのはまだ無いか」
「そうですね、いろいろ見せてみてこの子の気に入ったのを教えようかなと思っているのですが、手頃なサイズのものを一通り見せてもらえますか?」
「はいよ、ちょっと待ってな」
しばらくすると男は5本の剣をカウンターに並べた。
「まずは片手剣だ。こいつは『ブロードソード』、幅の広い剣だな。突くよりも切る方に優れている。盾と一緒に使う奴が多いな。
お次は『ロングソード』だ。こいつは刀身も持ち手も長い。大剣と比べると軽いが、一応両手で持って戦うこともできる。
そしてこれは『レイピア』。とにかく細いが意外と重い。一応刃は付いているがこいつは突く専門だ。何分細いからな、硬いものを切ったら簡単に刃が折れちまう。
次は大剣だ。両手で持って扱う。お前の親父はこれを使うな。
最後は短剣だ。刀身が短く小回りがきく。ただ、リーチが短いからこいつだけで戦うのはちと厳しい。レイピアと一緒に使うのが妥当だろう。
僕はひとつずつ手に軽く振ってみる、と言っても振り方が分からないから出鱈目だが。
「おいおい、振ってもいいが周りには気をつけてくれよ。他の商品に当たりでもしたらお前の親父が泣きを見るぞハハっ」
「おやおや、それは困りますねえ」
お父さんは頭を掻きながら「当てたらミリアに起こられちゃいますね」と笑いかけてきた。
僕は顔を赤くしながら小さく振った。
「これにする」
僕は、ロングソードを選んだ。
「ほう、ロングソードか。ボウズ、これでいいんだな?」
「うん」
「なるほど、ハルキは魔法も使えるしロングソードが最適化もしれませんね」
「え! なにこのボウズ魔法使えるのかよ」
男はびっくりした目で僕を見ている。
やはり魔法は稀有なものらしい。
「ふむ、では良さ気なロングソード1式、それと木刀をこさえてもらえますか?」
「おう、任せときな」
「毎度!またきてくれよ」
剣を受け取って僕達はメイン通りに戻った。途中の露店でお母さんから頼まれていた食材と、『おやき』みたいなものを買ってもらい家路に就く。
あんこに似た甘い餡の入ったおやきは、長道で疲れた身体に染み渡ったのだった。




