冗談告白タイム:横
「ごめん、私、ロクヨン世代だから。世代が合わないと無理だと思う。」
「いやオレと同い年ですよね?へぇ、ゲームやるんだ。意外。」
「…。
…と、まぁそういうことで、お話も合わないと存じますし、お引き取り下さい。」
クラスの中で比較的目立つグループの一員、『縦野 望』から告白を受けたとなれば、普通の女子なら「どぉしよっかな~」ぐらいは悩むだろう。
けれど、私は知っている。これは『罰ゲーム』だと言うことを。
こっちだってテメーなんか趣味じゃないんだよっ!と言ってやりたいけど、『冗談なのにムキになった』だの『勘違いしてる』だの言われたくない。こーゆー輩はそーゆー事を、おもしろおかしく吹聴するのが大好きだからだ。
相手のプライドは傷つけずに、しかし、とりつく島のない言い方で…ええい!考えるのも面倒くさい。どーでもいいや、適当に思いついたこと言おうっと。と、思ったのに…
「存じますって…いや、オレ結構ゲーム好きよ?話せる口だと思うけど?」
…なんで食いついてくるんだキミは。今ので適当に断ったっていうのがわからんのかね。
まいったなぁ。そっちはゲーム好きでも、私は別に興味ないんだよ。64なんて従兄が持ってたのを思い出しただけだし…
いや、まてよ?縦野って、サッカーばっかりしてるアウトドア派だよね?部活してるし。
ゲームなんかするの?そんな暇ないよね、そうだそうだ。口から出任せに違いないよ。
「…じゃあ、何か話してみてよ。」
「えっ?!」
「話せる口なんでしょ?どーぞ?」
「ゼルダので「あぁ、ごめんなさい。私、用事があったんだった。」
本当に話し始めたので、慌てて言葉を遮った。危ねー。
何か縦野が言っていたが、無視して帰ることにした。そもそも、この縦野って奴は女子人気が高い。
この2人っきりの状況を誰かに見られでもしたら…女って怖いからなぁ。
「じゃぁ、また明日。」
翌日
「今ね、そう、クラシックにはまってるんだ。そういう系の話、したいから、あなたとは合わないと思う。」
また来たよ、この人…。
今時の若者が手を出せそうな話題は危ないと判断して、一番取っつきにくいクラシックにハマっていることにした。だって、ねぇ。吹奏楽でもやってない限りそんな、クラシックの話なんか普通できないでしょ。私だって、音楽室に飾ってあるベートーベンくらいしかわかんないもん。
「いやいや、オレだってクラシック聞くよ?題名や作者は覚えられないけど…ほら、あいつら名前変わってるじゃん。そこがちょっと苦手なんだよなー。でも曲は良いと思うぜ。」
…コイツ、そのセリフどこまで本気なのだ?
「へー、どんな曲好きなの?」
「特に特定のはなく、色々と。」
「……。」
えええ、まさか本当に、それなりに聞いてる人?!幅広く聴きあさっていて、どれか一つなんて選べない~みたいな?なんなんだこの人!
どうしよう、なんて返せばいいかな…。これはへたに話せないぞ。
「…。」
「…。」
「ベートーベンとか、ジヤジヤジヤジャ~ンみたいなの。かっこよくね?」
がくっ…よかった。知識レベルは私と同じようだ。ていうか、ソレの曲名ぐらい覚えてなさいよ。
「人間にはどうしても、合う合わないはあるんですよね。まぁ、それも運命のようなものなんだけど。それじゃ。」
「あ、おーい、ちょっと!まだ話が…」
なんとなくキレイにまとめて、私は家に帰った。これで、あの悪ふざけの生け贄から解放されるとありがたいんだけれど。
「あの~、3度目だけど言いますけど。私とは話、合いませんからアナタ。いい加減ほっといてくれません?」
イライラ
さすがにその次の日も告白タイムがくるとは思わず、まったくなんの対策も考えてこなかった…男子にとって、メンツとかプライドって重大なモノなのかもしれない。
だからって、付き合わされるこちらの身にもなって欲しいんだけど。
「具体的に!どこが!ゲームもクラシックも、ついでに最新CDランキングからドラマ、山ガールに歴女、鉄子、スィーツ、アロマ、歌舞伎、手芸、落語、英語、イタリア語…等々、目につくもん一通り調べてきたぞっ。さー、何が合わないのか教えてもらおうか。」
うわぁ、ずいぶん調べたなぁ。何?山ガールって…山姥の海外バージョン?
話が合う合わない以前の問題なんだが…こうなったら…
「大いなる宇宙の神が、こいつに付き合うとろくな事がない、と申しております。」
ちょっと厳かに言ってやると、縦野はがくりと肩を落とした。
まさにとりつく島のない完璧な答え!よしよし、これで平和な日々が…
「…悪かった。そこまで嫌か。」
ぶちん。
わ か っ て ねー な、 コ イ ツ は !!
「当たり前でしょ。大体ねー、悪ふざけのネタに人を使うってなんなの。巻き込むなってーの。こっちは静かに生活しているのに、何の権利があって穏やかな日々をぶち壊そうとする?従うと思ったか?この諸悪の根源が。滅びろ、このまぬけ、トーヘンボク、バーカバーカバーカ。」
「ひでぇ…。結構言うなお前。―てアレ?罰ゲームの事知ってたのか?なんで?」
縦野のキョトンとした顔に、どっと力が抜けた。
「なんでって…あの罰ゲームだかなんだかの時、マックで騒いでたでしょ。」
その時、横の席に座っていたのですよ、私は。通路を挟んで真横の席にね。
聞きたくもないアンタらのバカ話もばっちり響き渡ってましたよ。
よくもまぁ人を散々ネタ扱いして楽しんでくれましたねぇ…何が「お前が死んでも横井しか泣く奴はいねー」だ。よくこれで笑えるモンだ。そうなったら祝砲上げてやるわ、ばーか。アイツもあいつもコイツの時にもな!
「……いらっしゃったのですか。」
「…いらっしゃったのです。」
気付いてなかったのかいっ!!!…はぁ、もぉいいや。
てっきり当てつけかと思って怒っていたんだけど、バカみたいじゃん。はぁーぁ。
「…オレが悪かった!マジで申し訳ありませんでした。」
「ま、アンタだけが悪い訳でもないし…。」
「お前の気持ちの考えずに調子乗ってました。ホントごめん。」
…。
…へぇ。しっかり謝ることのできる奴って、結構好きだな。人間的に。この人案外…
「ふむ、まぁ、いいでしょう。そこまで反省しなくてもいいよ。それにしても縦野って意外と我慢強いねぇ。普通だったら一番最初の時点でキレてるとこなのに。」
「いや?キレてたぞ、内心。まー、それを外に出さないのがオレの良いとこだけど。」
「ははは。自分でいうかー普通ー。」
授業中もうるさくてクラスでも目立っているような奴って、こちらを見下している気がしてなんとなく好きじゃなかったんだけれど、意外と良い奴もいるのかもしれないなぁ。
縦野だって、女子に人気があるんだもん。よく話したら取っつきやすい人なのかもしれない。
「で、横井。」
「何?」
「日曜日、一緒にどっかに行ってくれない?」
「…はああ?」
おおいっ!まだ、罰ゲームあきらめてなかったのか!どこまで人を舐めているんだろう。
だから、さらし者になるのが嫌なんだってーの!!!
「いや、別に付き合い前提というわけでなく、罰ゲームもなんとかしたいし…じゃなくて、なん…いてぇ!!!」
うっせえ!!
思いっきり奴の足を踏んづけて、さっさとその場を離れた。見直して損した。
けど…明日もまた茶番告白しにやってくるのだろうか?
はぁ…日曜日まであと2日か。それまで相手することになりそうだな。
お読みくださりありがとうございます。
横井視点。言葉遣いが…どんどん悪くなってしまいました。