過信
時間に余裕ができた頃だった。
その日、ふたりは東京の港区に出てきていた。
冬の空気は冷たくなっていた。
駅を出た瞬間、人の多さに圧倒された。
クリスマスが近いからだと思う。
派手なイルミネーションや、流れている音楽。
どこを見ても似たような光景だった。
テーマパークやお台場に行くことも考えたけれど、
人混みが苦手で、東京タワーにした。
遥が足を止めて、見上げる。
大きなツリーが、光の中に立っていた。
「すごいね」
遥が笑う。
駿も同じように見上げて、
「だな」
と返した。
それで足りていた。
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展望台に上がると、街の光が一面に広がっていた。
ガラス越しの景色は、どこか現実感が薄い。
「ここからだと駿の家って見れる?」
「見えるわけないじゃんか」
駿が笑って返す。
「そっか」
遥も笑って返した。
「そろそろ行く?」
「写真だけ撮りたい」
シャッター音が、小さく響いた。
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地元に戻ると、空気が軽くなる。
見慣れた駅、見慣れた道。
人も少なくて、歩きやすかった。
「やっぱこっちの方がいいね」
駿が言うと、遥は小さくうなずいた。
「そうだね」
その声が、
ちょっと浮いていた気がする。
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久しぶりにいつものカフェに入った。
見慣れた席に座って、紅茶を頼んだ。
店内は静かで、さっきまでの音が嘘みたいだった。
「急に静かになったね」
遥が言う。
「そうだね」
駿はそう返して、カップに手を伸ばした。
湯気が、ゆっくりと上がっていく。
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「そうだ、年越しどうする?」
駿が軽く言う。
「んー……どうしよっか」
「初詣、行く?」
「行きたい」
とすぐに遥が答えた。
「近くの神社でいいから、初日の出も見たい」
「じゃあオールかな」
そう言うと、
遥は楽しそうに話していた。
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夜。
「もしもし」
「もしもし」
いつもと同じ声。
バイトのこととか、音楽の話とか。
同じようなやり取りを、繰り返していた。
昨日も話した気がするのに、
また同じ話をしていた。
ただ、それでもよかった。
話していたかった。
沈黙が、怖かった。
何か話さなきゃと思って、
つい、聞いてしまった。
「遥さ」
「なに?」
「昔のこと、聞いていい?」
言ったあとで、遅かったがした。
「ごめん。あまり話したくないかな」
そうだよな、と思った。
「……そっか」
「なんかできないかなって俺にも」
沈黙が落ちる。
「遥?」
軽く聞く。
「大丈夫」
「でも、ごめん」
「ありがとう」
でも、そのあとに続く言葉はなかった。
「ねえ」
「なに」
「軽いよ」
「全部」
「……そっか」
「ごめんな」
「あたしに言わないでよ」
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少しだけ、
何もない時間が続いた。
「寝よっかもう」
駿が言った。
「またあした」
「またあしたね」
携帯を閉じた。




