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過信


時間に余裕ができた頃だった。



その日、ふたりは東京の港区に出てきていた。


冬の空気は冷たくなっていた。


駅を出た瞬間、人の多さに圧倒された。


クリスマスが近いからだと思う。



派手なイルミネーションや、流れている音楽。

どこを見ても似たような光景だった。


テーマパークやお台場に行くことも考えたけれど、


人混みが苦手で、東京タワーにした。


遥が足を止めて、見上げる。


大きなツリーが、光の中に立っていた。



「すごいね」



遥が笑う。


駿も同じように見上げて、


「だな」


と返した。


それで足りていた。



_______________________________________


展望台に上がると、街の光が一面に広がっていた。


ガラス越しの景色は、どこか現実感が薄い。




「ここからだと駿の家って見れる?」


「見えるわけないじゃんか」


駿が笑って返す。


「そっか」


遥も笑って返した。




「そろそろ行く?」


「写真だけ撮りたい」


シャッター音が、小さく響いた。

________________________________________


地元に戻ると、空気が軽くなる。


見慣れた駅、見慣れた道。

人も少なくて、歩きやすかった。


「やっぱこっちの方がいいね」


駿が言うと、遥は小さくうなずいた。


「そうだね」


その声が、

ちょっと浮いていた気がする。

________________________________________


久しぶりにいつものカフェに入った。


見慣れた席に座って、紅茶を頼んだ。


店内は静かで、さっきまでの音が嘘みたいだった。



「急に静かになったね」


遥が言う。



「そうだね」


駿はそう返して、カップに手を伸ばした。


湯気が、ゆっくりと上がっていく。



________________________________________



「そうだ、年越しどうする?」


駿が軽く言う。



「んー……どうしよっか」



「初詣、行く?」

「行きたい」


とすぐに遥が答えた。


「近くの神社でいいから、初日の出も見たい」


「じゃあオールかな」


そう言うと、


遥は楽しそうに話していた。


________________________________________


夜。


「もしもし」


「もしもし」




いつもと同じ声。


バイトのこととか、音楽の話とか。


同じようなやり取りを、繰り返していた。


昨日も話した気がするのに、

また同じ話をしていた。


ただ、それでもよかった。



話していたかった。



沈黙が、怖かった。



何か話さなきゃと思って、

つい、聞いてしまった。



「遥さ」



「なに?」



「昔のこと、聞いていい?」




言ったあとで、遅かったがした。




「ごめん。あまり話したくないかな」




そうだよな、と思った。




「……そっか」



「なんかできないかなって俺にも」




沈黙が落ちる。




「遥?」

軽く聞く。




「大丈夫」

「でも、ごめん」

「ありがとう」



でも、そのあとに続く言葉はなかった。




「ねえ」



「なに」




「軽いよ」

「全部」



「……そっか」



「ごめんな」



「あたしに言わないでよ」


________________________________________



少しだけ、


何もない時間が続いた。



「寝よっかもう」


駿が言った。



「またあした」



「またあしたね」




携帯を閉じた。





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