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曖昧

深夜、駅から自転車に乗って帰る。

冷たい空気が顔に当たる。


息が白い。


やっと落ち着く。


でも、頭の中はずっとさっきのままだった。


瑞樹の顔が、やけに残っていた。


最初に会ったときより、


柔らかく見えた気がした。


気づいたら、

そのことを考えていた。


________________________________________



日曜日。

特にやることもなく、家にいた。


「大学どうするの?」


また母親に聞かれる。




「まだ考えてる」


そう答えたけど、

ちゃんと考えていたわけじゃなかった。


「考えてるだけじゃダメでしょ」

正論だった。



だからイラっとした。


「いいよ、働くから」

「結婚するし」



言い過ぎたと思った。


でも、引くのも違う気がして、そのままにした。



母親は何も言わなかった。



その空気が嫌で、部屋に戻った。


強く扉を閉めた。

________________________________________



最近、家にいるのがあまり好きじゃなかった。



前はそんなことなかったのに。


_______________________________________



夜。


電話。


いつも通りだった。


________________________________________



「気持ち聞かないの?」




「……いや」


「聞くのはさ」


言いかけて、止まる。



「聞けばいいじゃん」



少しだけ、笑った気がした。




「そういうことじゃないって」



思ったより強い声が出た。





「……答えてくれると思うよ」



さっきより、トーンが落ちていた。



「わかんないじゃんか」



うまく言えなかった。



「あれ」


「ごめん寝てた私」




「平気だよ」


「もう寝よっか。またあしたね」







________________________________________



曖昧だった。



不思議と気にならなかった。



_______________________________________


数日後。


遥が母親に紹介してくれた。


「今度の夜、お母さんが料理作ってくれるからさ」


なんか嬉しかった。


ちゃんとした服を着て、髪も整えて行った。

出てきたのは、想像していたより静かな人だった。



特に何も言われなかった。


食卓には、もう料理が並んでいた。


学校のこととか、部活のこととか、

当たり障りのない話。


変に踏み込まれることもなかった。



「娘と仲良くしてあげてくださいね」


帰り際に、そう言われた。


見透かされてる気がして、

姿勢を直した。


「はい」


それだけ答えた。



_______________________________________


帰り道。


「ありがとう」


遥が言う。


「ちゃんと話してくれて」



「当たり前だよ」

「結婚とかも、考えてるからさ」


自然に出た言葉だった。


その時は、


ちゃんと考えているつもりだった。


一瞬だけ、遥の動きが止まる。

ほんのわずかだったけど、



遥は、小さくうなずいた。



その顔を、ちゃんと見なかった。


________________________________________


別れ際、軽くキスをした。


違う気がした。



唇が、冷たかった。


遥は何か言いかけて、やめた。


聞こうか迷って、やめた。

________________________________________


結婚。


考えていなかったわけじゃない。


ただ、


それを言えば、


うまくいく気がしていた。


それだけだった。


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