自覚
「元気出てきた?」
「うん、だいぶ」
昨日よりは明るかった。
でも、前みたいに自然に笑っている感じではなかった。
「なんでも言ってな」
「うん、ありがとう」
会話は普通だった。
でも、どこかズレていた。
遥と話しているはずなのに、
頭のどこかで、別のことを考えていた。
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しばらくして、遥から会いたいと連絡があった。
寒かったが、天気はよく、出かけるにはちょうどよかった。
いつものショッピングモール。
付き合い始めた頃から、何度も来ている場所。
その日は、見慣れているはずなのに、違って見えた。
人の流れも、音も、どこか遠い。
ファミレスに入った。
向かい合って座る。
温かい飲み物を頼む。
来るまでの間が、やけに長く感じた。
店員の態度がやけに明るくて嫌だった。
遥が、口を開いた。
「みずき」
時間が止まった気がした。
周りの音が遠のく。
「みずきのことわかるよね?」
何も言えなかった。
隠すべきか、正直に言うべきか、その判断すらできなかった。
ただ、否定できなかった。
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遥は、ゆっくりと話してくれた。
記憶が途切れることがあること。
自分の中に、もう一人いるという事実。
そして、
みずきが出ている間、自分は意識がないこと。
記憶も残らないこと。
それを聞いたとき、背中が冷えた。
現実味のない話のはずなのに。
目の前の遥の声だけが、現実だった。
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「話してくれてありがとう」
「……大丈夫なんとなるさ」
何か言わないといけない気がしたのに、
うまく言葉が出なかった。
遥は、少しだけ表情を緩めていた。
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一つだけ、引っかかっていた。
遥は、覚えていない。
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散歩して帰ることにした。
ショッピングモールのエスカレーター。
ゆっくり降りていく。
さっきの会話の余韻が、まだ残っていた。
遥は、隣にいる。
でも、どこか違う気がした。
理由はないが、
それでも、そう思った。
「遥?」
返事がなかった。
「……瑞樹?」
「なに?」
顔は見ようとしなかった。
「……聞いてたの?」
「聞いてた」
当たり前のように返ってくる。
「どうしたらいいのかな」
自分でも情けないと思う質問だった。
でも誰かに聞いて欲しかった。
「駿が決めれば」
それだけだった。
名前を呼ばれたことが、
どこかに残った。
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間を置いてから、駿は口を開いた。
「……遥に、代わってもらえる?」
強く言ったつもりはなかった。
確認するような言い方だった。
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瑞樹は、一瞬だけ黙った。
その沈黙が、ほんのわずかに長く感じた。
「……気にしてるんだ」




