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8. 鬼火

 流火の鬼のような顔を深和が見失った直後、金属のひしゃげる剣呑な音と、周囲の大気を打ち鳴らしたかのような音と共に、ディスプレイの視界が二転三転した。


 シートベルトと導波動の磁気が粘性の高い液体のように深和を衝撃から守るが、機体が転がることによる三半規管へのダメージは打ち消せず、深和は何が起きたかわからないまま歯を食い縛って耐えた。そして地面を転がっていた氾火が止まり、ディスプレイの映像が灰色の空に定まる。どうやら氾火は仰向けに倒れたらしい。


 それから一拍遅れ、驚愕と危機感に理性が追いつく。


 すぐ立ち上がって逃げねば――そう思い、深和は肋骨の下で爆発を繰り返すような心臓の拍動に吐き気を覚えながら、訓練で習った通りの動きで氾火を立ち上がらせようとするが、それより先に豊永の鋭い声がヘッドホンから響いた。


《――そこまでだ!》


 そこまで。


 終わり。


 どうして。


 訳がわからないながら左のディスプレイを見ると、土砂を撒き散らして急停止する流火の向こうに、見覚えのあるものが転がっていた。


 氾火の左腕だ。


 氷の爪のように寒気が背筋を掻き毟るのを感じながら深和が確かめると、氾火の左肘から先がなくなっており、雨に濡れた装甲から泥が血のように滴り落ちていた。


 殺される――


 そんな考えが、滝の水のように深和の意識に落ちてきた。


 たかが「鬼ごっこ」で覚えるはずのない危機感だ。


 ゆったりと佇む流火からは、害意も殺気も感じられない。最後に見た悠之歩の表情や言動も、人畜無害そのものだった。なのに、悠之歩に殺されるという予感がと深和の薄皮の下を蝕むように這い回る。


 どういうことだ。


 わからない。


 気持ち悪い。


 不気味だ。


 怖い。


 まるで人の形をした別の何かだと一瞬思い、すぐに思い直す。


 目の前にいる悠之歩の姿はそもそも人のものではないではないか。


 あれは鬼だ。


 竜胆色の鬼火を纏った幽鬼。


 人間とは異なる摂理の中で動く魔物。


 そんな鬼と眼が合ったその時、深和は海のような匂いを嗅いだ。

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