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4. 同級生

 矩場に続いて、翔もレジュメをリュックに押し込んでさっさと退室していくと、悠之歩もリュックを担いで立ち上がり、少し躊躇いつつ深和に話しかけた。


「えっと……二冬も呼ばれてたんだね」


 高校で深和は基本的にクラスの誰かとつるむことはなく、休憩時間もいつも参考書などを広げて勉強していた。そして悠之歩も、特に親しくもない上に、勉強やトレーニングにいそしむ深和の邪魔をしようとも思わなかったため、3年間同じクラスだったにも関わらず数えるほどしか話したことがない。


「私と春日先輩は、公認三社の合同インターンで声をかけられました」


 深和が相変わらず同期生相手にも丁寧語で答えた。


 合同インターンとは、高校生や大学生の骨格者が装骨格の操縦を訓練する、公認三社が合同で開催するインターンだ。これに参加した学生はインターン経験者として登録され、公認三社の新卒採用に応募する権利を得られる。


 深和が合同インターンに参加していることは、校内でも噂になっていた。


 何せ、学年トップの秀才が装骨格を使う訓練を受けているのだ。彼女の高い身体能力を考えれば当然と言う者がいれば、優れた頭脳を持つのだから医者や弁護士などになった方がいいと言う者もいた。


「あの人、先輩だったんだ? 第二高校にはいなかったよね」


 あの体躯であれば校内で目立っていたはずだ。見覚えがないということは、悠之歩と深和が通っていた第二高校にはいなかったのだろう。


「そうですね、少なくとも第二高校にはいませんでした。春日翔かける先輩といって、この大学の2年生だそうです。千秋くんはどういう経緯でここに?」


「涼羽精工は、解析科の研究室にも候補者探しを依頼してたんだって。それで、僕の波形も条件を満たしてたらしい」


「一緒に来たのは、その研究室の人だったんですね。深層筋の条件はかなり厳しいようですが、部活でスポーツか武道をやってましたか?」


「10年くらい前から、地元で鳴気なるき流合気柔術って武術を習ってて……今も自主稽古はしてるから、そのお陰だと思う」


「10年……」


 深和は少し驚いたように呟く。


「二冬は、何か特別なトレーニングとかしてた?」


「高校に入ってから、筋トレ全般やランニング、耐Gトレーニングをしていました。あとは、中学の頃に陸上をやっていたくらいです」


「たいじー……?」


「戦闘機のパイロットなどがする訓練です。腹圧を上げて呼吸したり、脚の筋肉で血流をコントロールしたりして、アクロバット飛行で失神するのを防げるようになります」


「装骨格の操縦にも役立つの?」


「いえ、装骨格に必須ではないと思います。体幹を鍛えたり、安定して呼吸を続けたりできる効果もありそうなので取り入れていましたが……こんな風に評価されるのは予想外でした」


 ――戦闘機ほど効果がないなら、装骨格のパイロットはやらないか……もししてたら、深層筋の条件を満たせる人はもっといただろうに。


「二冬なりに試行錯誤して努力したお陰ってことだよね。すごいな」


 悠之歩は二重に納得し、感心して言った。


「千秋くんは、テストパイロットを引き受けるんですか?」


「考えてる途中だけど……内容自体には賛成だよ」


「違法装骨格のパイロットを捕まえることに?」


「いや、銃火器を使わないこと。流れ弾で無関係の人が巻き込まれにくくなるなら、それだけでやる価値があると思う……どうかした?」


 悠之歩は、自分の顔をまじまじと見つめる深和に尋ねた。


「……何でもありません。千秋くんはそういう考え方をするんですね」


「二冬は? 引き受けるの?」


「はい」


 深和ははっきりと言い切った。


「もし非殺傷の装骨格が完成すれば、警察が装骨格を配備できる可能性が出てきますから」


「警察……逮捕能力があるから?」


「そうです。警察の装骨格運用に反対されている理由の1つが、高過ぎる致死率なので」


「矩場さんも言ってたね。死亡率5割って」


「でも非殺傷の機体が実現すれば、風向きが変わるかもしれません。もちろん、財源など他の問題もありますが……」


「……もしそうなったら、二冬は警察で違法装骨格と戦いたい?」


「選択肢には入ります。社会的に意義のある仕事なので」


「……そっか」


 ――耐G訓練や合同インターンに参加してるんだし、装骨格で戦う意志はあるよな。


 となると、その結果として深和が死ぬか大怪我をしたと知った時、自分がどれくらい悲しみ、苦しむことになるのかわからない。


 悠之歩は、それが怖い。


 かといって、深和の家族でも恋人でも、ましてや友人ですらない悠之歩は彼女を黙って見送るしかなく、引き留めるなど言語道断、その安否に気を揉むことすら失礼だろう。


 ――僕が納得できれば済むだけの話だ。僕が勝手に二冬を応援してるだけなんだから。


 悠之歩は、深和が具体的にどんな鍛錬を積んできたかも知らない。実際に装骨格で戦って生き残れるだけの力があるかも、今の悠之歩には判断がつかない。


 ――そうだ。二冬の力と試作機の性能を、身を以って思い知ればいい。そうすれば、二冬を信じられない弱い僕を殺せる。


 鬼の声が言う。


 狩った獲物の死肉を獣が喰らうように、悠之歩を倒した経験を糧にしてくれるなら、それでもいい。


 ――それで二冬が望む道も切り拓けるなら、何よりじゃないか。


「――僕も参加するよ。試作機を完成させる役には立てるなら」

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