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38. 天狗の檻(前編)

 悠之歩と深和が即席の連携で不知火に肉薄しようとしていた頃、燎は、最初に出てきた不知火2機との戦いを続けていた。


 さすがに4機もの増援が来たことは予想外だが、こうして人手が分散して1人で戦えるようになったことはありがたい。燎の戦法は他者との連携を想定しておらず、特に翔や悠之歩のような格闘戦を行う僚機とは競合しがちだ。


 慣れた戦い方をできるようになったことで、燎の動きは鋭さと苛烈さを増す。


 射撃を躱しつつ敵に肉薄し、槍の間合いに入ったら踏み込みと共に突きや打ち下ろしの連撃を加え、サイドステップで敵の反撃を予防し、また接近して攻撃。この繰り返しだ。格闘戦を主軸とした悠之歩相手にはバックステップを使ったが、射撃戦主体の不知火は基本的に剥光から距離を取ろうと後退するので、サイドステップを使う。


「……やっぱ盾にしてんな」


 燎は呟いた。


 悠之歩と翔の報告から、前回の戦闘で逃走したプロメテウスの再犯の容疑者は、装骨格に芥子色の導波動を帯びさせると聞いている。まず間違いなく、目の前にいるこの不知火が今回の標的だ。しかしその不知火は、初めに燎たちが4機で分断しようとした時からずっと、鉄色の導波動を帯びた不知火から離れないよう立ち回っていた。今も要所要所で仲間の陰に隠れて燎の攻撃をやり過ごしている。


「そうやって10年逃げてきた訳か……恥知らずのドブネズミが」


 やはりこの不知火は、自分の逃げ道を確保する意識で動いている。攻撃に対する積極性はあるのだが、それは常に逃走経路の確保とセットだ。


 舌打ちと共に、燎は一際鋭い突きで、鉄色の導波動の不知火が右背面に背負う導式加速砲を貫いた。その機体が右手に持っていた導式加速砲も既に破壊している。この敵が持つ、装骨格相手に有効な武器はもうブレードだけだ。


「だったら、盾役剥いで引きずり出してやるよ……!」


 ここまでの攻撃で、燎の攻撃に対する鉄色の導波動の不知火が取る行動パターンは掴めた。


 燎の戦術の根幹は盤面の支配にある。


 敵に息つく暇も与えず攻撃し、敵の反撃を予防しつつ反射的な防御反応を引き出す。そして敵の癖を引き出す連撃の組み合わせが判明したら、そこに音斬を組み込むのだ。


 導波動波形の変化幅が音斬発動のトリガーになる以上、素早く動きながら音斬を撃とうとするのは燎の才能を持ってしても容易ではない。裏を返せば、素早い動きの中でも脱力のタイミングを確保できれば音斬を撃てる。


 芥子色の導波動の不知火が鉄色の導波動の不知火の死角に入った瞬間、燎は決着をつけにかかった。


 一気に突撃しながら十文字槍を突き出し、左肩に背負われた通常の機関砲を破壊する。敵は慌てて真後ろに下がろうとするが、燎はそれに合わせて持っていた槍を投げつけ、不知火の頭部のメインカメラに直撃した。これによって視界が翳った不知火は、右方向に回避しようとする。


 狙い通りだ。


 この不知火は想定外の攻撃を受けた時に右に動く癖があることは把握している。それを引き出した上で止めを刺すという着地点から逆算して、先ほどの投擲を行ったのだ。


 燎は間合いを詰めながら、右背面の鞘を展開して刀の柄に手をかける。


 通常、居合は使い手の利き手に関わらず右手での抜刀の稽古をする。燎も生身での居合は左腰に帯刀し、右手を主として刀を扱う稽古だけをしてきた。


 だが、装骨格の操縦において求められるのは感覚だ。脳内での漠然とした視覚的イメージなどではなく、筋肉や皮膚、神経に刻み込まれた触覚的感覚の再現に他ならない。


 燎は、骨身に沁みた臍下丹田を中心とする回転の感覚を鏡写しに完璧に想起し、左手で握った刀を音速で抜刀した。


 その一閃は狙いを過たず不知火の左膝を直撃し、不知火は地面に倒れ伏す。


「――逃がさねーよ」


 燎はすぐさま、地面に穂先が突き刺さった十文字槍を拾い上げつつ、既に剥光に背を向けて逃走している芥子色の導波動の不知火を追った。

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