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31. 咆哮(前編)

 深和が小学6年生になった頃からだろうか。


 両親は、彼らの職場や近隣住人、深和の同級生とその家族、著名人などが骨格者かどうかについて随分と関心を持ち、口にする機会が増えた。骨格者や導波動についての様々な憶測や噂、関心は、小学生たちの間ですら広まっており、二冬家自体が特に反応過敏だったという訳ではない。


 そう、深和の両親はさして特別でもなかったのだろう。


 しかし深和は、食卓で頻繁に交わされるようになる骨格者や警備特区についての話題から、ある気配を察知した。


 両親は、自分たちか深和が骨格者であることを望んでいるのではないか、と。


 もし骨格者でなければ、両親は自分に落胆するだろうか? 自分は見棄てられてしまうのだろうか?


 第二次性徴期になって骨格者の体質を発現する者の割合は、500人に1人。しかも、骨格者かどうかは先天的に決まっているのか、後天的に骨格者になる条件があるのかどうかも未だ定かではない。


 あまりに不確実な要素が多く、両親からの愛情までも確信できるものではなくなったように思えた深和は、骨格者でなくとも両親が誇れる娘であろうとした。


 勉学に励み、身体を鍛え、ルールを守り、部活で活躍し、正しい努力と正しい行いをするようになった。


 両親だけでなく教師や同級生、後輩たちまでもがそんな深和を褒め、評価し、尊重してくれるようになった。


 だが、深和が抱えていた懸念が的中する日が訪れる。


 深和が中学3年生に進級した数日後、両親は警備特区への転居申請に深和を連れて行ったのだ。


 プロメテウスの再犯後、警備特区開設の法案は半年ほどで可決され、日本全国で条件を満たした6つの町に警備特区誘致が決まった。そして四年ほどで、交通網の集約と遮断、公認三社との警備契約、研究機関や既存大学の移転、そして導波動発電所建設など、核となる機能を確保。その他の機能は随時拡張・整備する形で、警備特区の運用が開始されていた。


 警備特区への転居方法は大きく分けて二種類ある。就労転居と保護転居だ。


 就労転居は、警備特区内の職場に既に就労している者や、そこへの転職の内定を受けた者が警備特区内の物件に入居するため枠だ。こちらは転居できることがが確定している。一方で保護転居は、世帯の中に骨格者がいれば申請でき、抽選になる。


 家族3人で保護転居申請前の検査を受け、深和の両親は非骨格者であり、深和は骨格者だと判明した。


 その時の両親の喜び様を、深和は忘れられない。


 彼らが歓喜した理由は、深和にもよくわかっていた。


 警備特区には、厳重な警備体制や、導波動発電による安価な電力、特区限定の会計や税制における優遇措置などを必要とする、手堅く高所得でエリートが勤める職場が集まっている。導波動発電所や導波動関連研究機関、緋導鋼の加工工場以外では、製薬会社、データセンター、金融クリアリング機構、重要文化財保管施設、造幣局などだ。


 そんな警備特区内の職場は、セキュリティーの観点から、職員や社員に警備特区居住を求める。そのため、保護転居による居住確定の既成事実があれば、転職活動で多少なりとも有利に働くと両親は踏んだのだろう。


 自力での花形企業への転職に失敗していた彼らは、社会的ステータスを上げるために深和の体質と保護転居に縋ったのだ。


 図らずも骨格者だと判明し、深和は両親に落胆されなかったが、深和は彼らに「みっともない」という感想を抱き、日に日に軽蔑、蔑視へと変容していった。


 保護転居申請の抽選に落選したと知った時は、「特区内企業への転職内定を勝ち取るだけの実力も実績もなかったのが悪い」と思った。


 奈笠第二高校を受験しようと決めたのも、その時だ。


 警備特区内の高校や大学の入学試験には、骨格者枠がある。入試の際に健康診断も兼ねた身体測定があり、学力試験で一般の合格枠に届かなくとも、骨格者であれば特別枠に滑り込めるという仕組みだ。警備特区の目的が導波動関連技術の研究推進と骨格者保護であるため、そのような制度が設けられている。一方で、骨格者か否かという重大な個人情報を秘密にしたい者は、検査拒否を選択することも可能だ。


 深和は検査を拒否して純粋に学力だけで試験に合格したことで、両親が実力でも運でも入れなかった警備特区に純粋な学力で入れたと溜飲が下がった。さらに警備特区内で寮に入れば、学費だけでなく生活費までも彼らの庇護から抜け出すことができる。


 あんな両親など頼るまい。


 彼らのようにはなりたくない。


 正しい努力。正しい行い。


 それさえあれば認めてもらえる。


 それだけが認められればいい。


 高校進学後、次にすべき正しい行いは何だろうかと考えた時、深和は違法装骨格の犯罪件数が継続的に増加しているという報道を思い出した。


 自衛隊ないしは公認三社で装骨格パイロットとなって戦うのは、骨格者にしかできない、つまり、骨格者がしなければならない仕事だ。違法装骨格と戦って人々を守ることは、間違いなく正しい。


 とはいえ、骨格者であればほぼ誰でもできる仕事に就くのでは、体質に甘んじた進路を選んだと思われる可能性もある。だから合同インターンに参加するのは、公認三社に就職する道筋を確保しつつ、社会に必要とされればいつでも戦えるという姿勢を見せるためだ。その上で大学でも勉学に励み、骨格者かどうかに依存しない職に就く準備をすればいい。


 そう考え、しかし妥協することなく、深和は装骨格の動画も観て、戦闘機パイロットや戦車操縦士についても調べ、装骨格操縦に役立つであろう努力を真摯に模索し実践した。


 結果、高校だけでなく合同インターンでも周囲より優れた成績を修めることができた。そればかりか、体幹トレーニングの一環程度の意識で取り入れていた耐G訓練が功を奏したのか、流火のテストパイロットにまで抜擢された。


 非殺傷で違法装骨格のパイロットを逮捕できる装骨格。


 深和が考えられる範囲で、最も理想的な「正しい行い」だ。


 そんな正しい行いに求められる、正しい努力をできていた。


 自分が選んだ道は正しかったのだと、心の底から思えた。


 千秋悠之歩という魔物と行き会うまでは。

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