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26. 天狗と鬼と死神と

 翌週、悠之歩と翔が定期点検を完了した流火2機を工房から涼羽SAの拠点に移送し、今度は違法装骨格の戦闘に出くわすこともなく、また四機でのデータ収集に戻った。


 据え斬りでの音斬のデータ収集と実戦想定の訓練を兼ね、予備警備員登録の訓練から何度か繰り返してきた、翔・悠之歩ペアと深和・燎ペアで模擬戦をする。


 この組み合わせの模擬戦だと、基本的には悠之歩と燎が斬り合うのだが、翔はその周囲を高速で飛び回り、燎が悠之歩との間合いを確保するためバックステップする瞬間を狙う。2対2の模擬戦は実戦想定なので、疑似音斬でも当てれば勝利判定となるため、これによって翔が燎を倒すというパターンが最も多い。また、燎が翔に気を取られた隙に悠之歩が音斬を当てて勝った回も一度あった。そして燎が倒されてしまうと、残った深和は悠之歩と翔のコンビネーションを前に為す術がなく、そのまま負ける。


 逆に、翔が燎を倒すより先に悠之歩が燎の音斬で倒されてしまった場合は、その後で深和が翔に倒された時は翔と燎が互いを倒せないまま引き分け、深和が残った時は燎・深和ペアの勝ちとなっている。


 今のところ勝ち越しているのは、悠之歩・翔ペアだ。


 この日の模擬戦では、翔が燎の頭上を飛び越えると見せかけ、空中で方向転換する際の急転換を利用して、疑似音斬で燎の流火の頭部を打つという離れ業を見せつけた。


 これによって燎が敗退し、深和は近づいてくる悠之歩にチャフスモーク弾を撃つがすべて外れ、その隙に肉薄してきた翔を躱した。しかしその直後、間合いに入ってきた悠之歩の足捌きに翻弄され転倒し、介錯されるかのように音斬で止めを刺されたのだ。


《――模擬戦終了だ。最後、春日の疑似音斬は有効打だった。今日の訓練は終わりだ》


 豊永のアナウンスを受け、深和はうつ伏せに倒れていた流火を立ち上がらせながら、唇を噛んだ。


 予備警備員登録の際の最終試験では、深和は豊永たち正規パイロットにチャフスモーク弾を当て、燎が敵に近づくための隙を作れた。ペイント弾を撃たれても、盾を構えながらタイヤとブースターを使って軽快に動き、撃破されることもなかった。


 だが、悠之歩や翔、燎が使う流火を相手にすると、深和は何も為せない。


 超人的な身体能力で誰より流火の機動力を引き出す翔。


 独特の術理と身のこなしを使いこなす悠之歩。


 巧みな立ち回りと圧倒的な手数で一方的に敵を封殺する燎。


 複雑ないしは高速で動き回る他2人にチャフスモーク弾を当てられず、音斬も撃てない深和は、勝敗を左右しない存在となってしまっている。


 深和が悠之歩と組んで翔と燎のペアを相手に模擬戦をする時に至っては、悠之歩と深和のペアは一度も勝てたことがない。悠之歩が燎と相性が悪い上、深和が悠之歩の援護をしようにも効果はないため、悠之歩が倒されれば深和もそのまますぐ燎に無刀音斬を当てられてしまうのだ。


 流火を使えば使うほど、深和にはどんどん惨めな思いが蓄積していく。それと同時に、千秋悠之歩というかつての同級生のことがわからなくなってくる。


 深和が一向に勝てない悠之歩は、燎に一度も勝てていない。では悠之歩は明確に劣っているのかというと、そうとも言い難い。燎に勝ち越している翔だが、燎相手なら攻撃をしかけるであろうタイミングでも、悠之歩のカウンターを異様に警戒しているようなのだ。悠之歩が身を翻すと、翔は不吉な何かを直感するのか、すぐ離脱してしまう。そのため悠之歩と翔は完全に引き分けているのだ。


 学校ではうだつが上がらず、静かで大人しかっただけの男子生徒。そんな彼は、いざ流火を使うと鬼か魔物のように異質な強さを発揮する。


 装骨格の操縦経験では深和に一日の長があるはずなのに、悠之歩がどう流火を操縦しているかもわからない。隔絶した才能を持つ翔とも渡り合っている。


 挙句の果てには、悠之歩は流火で実戦まで経験し、生還するばかりか音斬で違法装骨格を無力化するという実績まで打ち立てた。


 かと思えば、そんな悠之歩をも超越する天才的な戦闘センスを持った燎までいる。


 悠之歩が活躍しても負けても、悠之歩に負けた自分が矮小で、無力で、何の取柄もない人間に思えてしまう。


 格納庫に戻った深和は、悠之歩本人はおろか悠之歩が使った流火すら直視するのを憚られ、自分の流火を下りてから目を伏せて更衣室に向かった。

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