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22. 遁走戦略

〈黄色っぽいのがそっち行くぞ〉


「了解です!」


 翔に返事するのと同時に、悠之歩は盾を構えながら、自分に向かって突撃してきた芥子色の導波動の違法装骨格を躱す。


 ――この状況で攻撃……? 逃げないのか? それとも、実は三機ともグル……?


 訝しんでから、悠之歩は気づく。


 この芥子色の導波動の違法装骨格は、翔がもう1機の違法装骨格にプレッシャーをかけるタイミングを見極めて悠之歩に攻撃を仕掛けてきたのだ。しかも、翔の超人的な機動力と、何度も相手を斬ったのに決壊量に届いたのは最後の一撃だけという悠之歩の方が御しやすいと判断したに違いない。


 抜け目なく視野の広い相手だと感じつつ、悠之歩は芥子色の導波動の違法装骨格と間合いを詰めようとする。それに対し相手は、その場で急転回して、可能な限りスピードを出しながら右腕のブレードを横倒しに構えて薙雲をすれ違いざまに斬ろうとし、悠之歩は相手の左側に入身して躱す。


 違法装骨格の戦法は、翔の戦い方と似た一撃離脱タイプだ。決壊量に届くよう、機体の全重を活かして攻撃してくる上、方向転換や位置取りも巧い。悠之歩は相手とすれ違いながら刀を振るが、相手もカーブしたりすることで回避する。しかも、芥子色の導波動の違法装骨格は常に動き回るため、悠之歩も加速や旋回を繰り返し、その際に深層筋を圧迫してしまうため、音斬を撃つ直前に必要な脱力をできず、音斬を撃てない。


 ――ベテランっぽいというか、やりにくい……!


 悠之歩は焦りながら違法装骨格を追うが決定打を与えられないでいるが、そんな攻防を繰り返す中、違法装骨格が急旋回の際にバランスを崩し、足が止まる。


 それを好機と思い悠之歩は飛び込むが、次の瞬間、違法装骨格はその場でスピンし、ブレードで回転斬りを放ってきた。


 悠之歩は咄嗟に盾を構えつつ、前に出した左足を軸に右足を下げる動きで受け流すが、衝撃で薙雲が硬直する。


 ――誘われた……!


 危うくカウンターを食らいかねなかった悠之歩は冷や汗をかきつつ、相手の回転が止まったタイミングで再度接近しようとした。


 しかしそれより先に、違法装骨格はその場から急発進し、近くの物流倉庫に向かって全速力で突っ込み、壁を破壊して真っ暗な倉庫内に入った。


 ――操縦ミス……? いや、人質を取るつもりか!? 突入して一般人がいたら……!


 悠之歩が困惑していると、翔が鋭く言った。


〈薙雲、こっちの奴からやれ。あっちのは俺が見とく〉


「は、はい!」


 悠之歩は翔の指示に応じ、翔が足止めしていた機体へと向かう。


 そして翔が物流倉庫内の違法装骨格が飛び出てこないか警戒しつつ、青系の導波動を帯びた違法装骨格の周囲を高速で動き回って攪乱し、動きが鈍った相手に悠之歩が肉薄する。音斬を撃つまでにまた数度の入身や斬撃を繰り返してから、悠之歩は相手の左側に入身しつつ、違法装骨格の左肩に向けて刀を振った。


 それが衝撃波を伴う音斬となり、斬り砕かれた左腕が破片を撒き散らしながら斬り飛ばされ、その衝撃で違法装骨格が転倒する。


 片脚を破壊されて立ち上がることすらできない機体と、片腕を失ってすぐに復帰できない機体。


 眼前の違法装骨格はひとまず無力化し、翔が管制室に確認を取る。


〈最後の標的が倉庫内に突入した。追っていいか?〉


 翔が管制官に通信を入れる。すると、それまでの女性オペレーターとは異なり、責任者らしき男の声が応じた。


《いや、突入はするな。一般人を巻き込む危険性や、待ち伏せのリスクがある。荒風と薙雲は外から警戒してろ。あとは警察の役目だ》


 その指示に従い、薙雲と荒風は倒した2機が再び立ち上がらないよう注意しながら、3機目がまた倉庫から出て来た時に備えつつ待機する。


 すると、5分とかからない内に警察の導式軽装甲車が到着した。


 導式軽装甲車は、導波動によって稼働する一人乗りの装甲車輛で、運転手の全身を緋導鋼の装甲で覆った四輪バギーのような形状をしている。サイズや警察法などの制約で高威力の武装を搭載できず、装骨格を撃破・無力化する能力はないが、防御力は通常車両より遥かに高いため、要人警護や装骨格犯罪現場の封鎖に用いられる。


 芥子色の導波動を帯びた装骨格が突入した倉庫を流火2機と導式軽装甲車で包囲し、警察が小型ドローンで倉庫内を偵察すると、コクピットが開き放棄された装骨格が確認された。どうやらパイロットは逃げたようだ。


『荒風、薙雲。3機目の違法装骨格の無力化を確認した。戦闘終了だ。警察が、倒した2機のパイロットを逮捕する。他の敵が出てこないか、倒した敵がまた立ち上がらないか、警戒しろ』


〈了解〉「了解」


 翔と悠之歩は管制室の指示に従う。


《違法装骨格のパイロットは、直ちに機体を放棄して投降せよ! 投降しない場合は機体解体のため再度攻撃する! その際の生命の保証はない!》


 薙雲と荒風のスピーカーからの音声に従い、無力化された2機の背面装甲が開き、それぞれの機体から男が出て来た。その二人に向けて生身の警察官たちが走り寄り、すぐさま両手に手錠をかけ、パトカーへと連行する。


 ――これ、流火のコンセプト通りにパイロットを逮捕できたってことか……?


 未知の光景のためまだ実感が追いつかないながら、悠之歩はぼんやりとディスプレイに映し出された現実を噛み締める。


 それから警察から連絡を受けたらしい管制室から戦闘終了を告げられ、悠之歩と翔はトレーラーに再度流火を載せ、機体を待機モードにした。


 トレーラーでの移送が再開されるが、流火の中で悠之歩は、命懸けの実戦のパニックや動悸、混乱がまだ治まりきらないのを感じる。


 ――禄に音斬を撃てなかった……それに、3機目を取り逃がした。今回は機体が棄てられたみたいだけど、あのまま違法装骨格が市街地に逃げた可能性もある。そうなったら、プロメテウスの再犯みたいに、たくさんの人が死んだかもしれない。


 その可能性に思い至り、悠之歩は、下腹部をひんやりした手で鷲掴みにされたような心地を覚え、ぶるりと震えた。


 ――やっぱりだ。やっぱり弱い。


 鬼の声が、実績を下に悠之歩に事実を突きつける。


 ――弱いから、他人を巻き込みかねない。このままじゃ、誰も救えないままだ。


 そんな声を押し殺そうと、悠之歩は両手で顔を覆いながら肋骨を開くように胸を張り、肺を無理やり広げて呼吸した。


 ――わかってる。僕は弱い。足りないものだらけで、いつ誰かを守り切れず、傷つけかねず、死なせかねない。


 粗くなりそうな呼吸のリズムを強制的に押さえつける。


 ――稽古しないと……鍛えて、鍛えて、鍛えて……それで、こんな戦いに二冬が出るかもしれないってことを、受け入れないと。


 どこかから聞こえるけたたましいバイクのエンジン音が、悠之歩の耳にやけに残った。

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