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21. 未熟

 オペレーターから連絡があった複数の物流倉庫が立ち並ぶ一画に近づくにつれ、これまで聞いたこともないような破砕音が聞こえてくる。


 ――これが装骨格の戦場……!?


 物流倉庫が立ち並ぶ倉庫街に悠之歩と翔が到着すると、その現場は悠之歩の想像を遥かに超えて荒れ果てていた。


 コンクリートでできた物流倉庫の壁面は大きく抉られ、破片や瓦礫が散乱し、数台のトラックが炎上して夜闇の中で灯りを放っている。


 その中で突撃槍を持った装骨格が2機、前腕に直接供えられたブレードを持つ機体が一機、複数の物流倉庫を破壊しながら激闘を繰り広げていた。違法装骨格は三機とも銃火器を搭載していないようだ。


 ――ブースターがない……使ってる武器は、槍か剣……? ということは、第一世代ってやつか。


 交戦している3機の違法装骨格を見て、悠之歩は深和と燎から教わったことを思い出す。そして同時に、旧世代型であることが機体性能や強さをそのまま左右する訳ではないとも自分に言い聞かせる。


《こちらは涼羽SA! 稼働中の違法装骨格三機は直ちに機能を停止せよ! 従わなければ、特種警備業法に基づき、機体を破壊する! 生命の安全は保障できない! 繰り返す――》


 薙雲と荒風に搭載されたスピーカーから、涼羽SA管制室オペレーターのアナウンスが響くが、違法装骨格3機は戦闘を止めないばかりか、逃げる気配もない。


 突撃槍を持った2機は機種が同じようで、立ち回りからしても仲間なのだろう。ブレードを装備した、芥子からし色の導波動を帯びた機体は孤立していることになる。


「緑っぽいのからいきます……!」


 悠之歩は、緑系の導波動を纏い突撃槍を持つ違法装骨格に的を絞った。


 三つ巴の乱戦になっている内に2機ペアの片方を無力化すれば、数的優位をキープできる。


〈了解〉


 翔も悠之歩の意図を即座に理解したようで、一気に加速し薙雲を追い越した荒風が物流倉庫の壁面を蹴って空中に躍り上がった。悠之歩は盾を構えつつ左半身を前に出し、鳴気流の歩法で進路を左右に振りつつ、緑の導波動を帯びて突撃槍を持った違法装骨格に近づく。


 悠之歩と翔が組むことになったのは、最小限の回避幅で相手から極力離れないよう動く悠之歩と、高速かつ広範囲に動く翔のペアなら、衝突するリスクが低いからだ。悠之歩の領域を避けた上で翔の移動範囲も広く確保されるので、機動力を発揮できる。そして、翔は悠之歩が攻撃していない違法装骨格の背後を常に狙うことでプレッシャーをかけ、悠之歩が攻撃に晒されるリスクが下がる。


 オペレーターの警告アナウンスで悠之歩たちの接近に気づいてはいたのだろう。緑の導波動の機体は薙雲の方を向いて槍を突き出してきた。


 単調かつ甘い一撃だ。


 燎の槍捌きとは雲泥の差と言っていい。


 悠之歩は歩法と共に盾で突撃槍を逸らし、刀で違法装骨格の腕を斬りつけるが、違法装骨格の右前腕に浅い切り傷がつくだけだ。


 装骨格同士の戦闘においては、決壊量という要素が重要となる。


 導波動を帯びた緋導鋼の装甲を破壊するには、その導波動の波形を乱しつつ運動エネルギーを加えねばならない。つまり、波形を乱すのに必要な量の導波動を帯びた緋導鋼を強くぶつける必要がある。


 導波動を帯びた徹甲弾を撃つ場合は、弾が装骨格、引いてはパイロットである骨格者から離れた時点で減衰するため、短時間で連続してより多くの弾を命中させねばならない。その点、刀や槍は常に導波動が供給されるため導波動量が多いが、装骨格がただ腕を振るだけでは運動エネルギーが足りない。機体の全重を乗せて、武器を構えて時速数十キロで突撃するか、あるいは超音速で武器を振って初めて決壊量に届く。


 ――音斬になってない……!


 悠之歩はさらに違法装骨格に肉薄し、左足を踏み出しながら盾で殴りつける。


 命が懸かった戦場で、悠之歩はどこか慌ただしく、がむしゃらに動く。


 歩法はもはや無意識まで沁みついているが、柔法を高精度で行えるほどの落ち着きはなく、剛法のみの安易な当身ばかりになってしまう。


 悠之歩は幾度となく緑の導波動の機体の死角に入り込みながら相手の腕や脚に向けて刀を振るが、どれも音斬にならず、四肢の装甲に浅い傷をつけるばかりだ。


 だが、鋼同士がぶつかる音や斬られた衝撃などでパイロットが精神的に追い詰められたのだろう。違法装骨格はバック走行や方向転換などで逃れようとするが、徐々に薙雲の動きについてこれなくなり、やがて脚がもつれてバランスを崩した。


 悠之歩が歩法で相手を崩したのではなく、装骨格という兵器の操縦技術の拙さくるミスに過ぎない。


 それでも千載一遇のチャンスであり、悠之歩はさらに踏み出した左足を軸に、腰を落としながら、右半身を下げる動きと共に右手に持った刀を振った。


 その一撃は音速を超え、衝撃波と共に相手の右膝を斬り砕いた。


 ――やっとか……!


 相手を倒した達成感より、苛立ちが優る。


 禄に柔法もできず、剛法に呼吸を合わせることすらできていない。


 ――実戦でできなきゃ、何のための稽古だ……!


 ぎりっ、と歯軋りしつつ悠之歩が次の標的を定めようと身を翻した時だった。


 ブレードを装備した、芥子色の導波動を帯びた違法装骨格が、悠之歩に向かってその刃を振りかぶる姿がディスプレイに映し出された。

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