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18. 世代分け

「予備警備員登録のために、特別な訓練とかあんの?」


 燎が尋ねた。


「より実戦を想定した訓練をする。一番わかりやすいところだと、ペアでの戦闘訓練だな。音斬を撃てる千秋と夏目に、それぞれ相方をつけるって形でやる。それと、二冬には射撃支援の検証を頼みたい」


「射撃? でも流火は……」


 深和が困惑した表情を浮かべ、矩場は言葉を付け足した。


「流火の支援装備として、チャフスモーク弾を検討しててな。要は、敵に目眩ましして射撃の妨害や足止めする武器だ」


「俺はやんなくていいのか」


 翔が言った。


「春日は爆速で飛び回るから、ペアに誤射するかもしれんだろ。かといって、地べたに縛りつけるのも勿体ないからな。しばらくは勝手に飛んでろ」


「安心した」


「それと並行して、流火同士での一対一の模擬戦も続ける。そっちは音斬のデータ収集だから、春日も二冬も音斬を目指してけ。ペアの訓練は、最終的には正規職員相手でも組んでくからな。じゃ、解散!」


 矩場に告げられ、悠之歩たちは視聴覚室を出た。


「……てっきり、流火は第二世代だと思っていました」


 更衣室に向かう道中、誰に言うともなしに深和が呟いた。


「ん? あー、援護射撃の話か」


 燎が言った。


「チャフスモークって言ってたし、C回路は要らないんじゃない? それなた第二世代でも撃てるでしょ」


「なるほど……」


 深和は納得したように頷くが、悠之歩には聞き慣れない単語ばかりだ。


「第二世代とかC回路って何?」


「装骨格の世代は、導波動を流す回路の種類で決まります。A回路だけなのが第一世代、それに加えてB回路があるのが第二世代、C回路もあるのが第三世代です。それぞれ装甲アーマー用、ブースター用、銃火器キャノン用という意味です」


 深和が教えた。


「今自衛隊とか公認三社が使ってる機体は、ほとんど全部第三世代ね。導波動を帯びた徹甲弾を撃てる。逆にC回路がないと、装骨格に効く弾を撃てない。ちなみに、刀とか槍は装甲の延長だからA回路で導波動を供給する」


 燎も補足した。


「じゃあ、流火は最新の機体なのに旧世代ってこと?」


「世代が古いから弱いってことにはなんないよ。ブースターとかカメラは結構良いの使ってるらしいだし。コスト抑えるためにC回路抜くのは、まぁアリなんじゃない?」


「へぇ……燎も装骨格に詳しいね」


「男の子はみんなメカが好きだろ? ね、翔さん」


 燎が唐突かつ雑に話題を振ると、翔は思いの外あっさり頷く。


「そうだな」


「あれ、ノッてくれるとは思わなかった」


「翔先輩も機械とか好きなんですか?」


「あぁ、戦闘機とかF-1とかな。元々戦闘機のパイロットになりたかった」


 翔がさらりと言った、「元々」という言葉に、悠之歩の胃がざわつく。


 装骨格をかなり使いこなせているらしい翔がパイロットになれないということは、持病でもあるのだろうか。それとも、家庭や金銭の事情だろうか。


 夢が断たれた者の無念に触れるのが恐ろしく、悠之歩が耳を塞ぎたい衝動に駆られる一方、燎はあっさりと言った。


「もしかして身長のせい?」


 ――こいつ怖いものなしか?


 悠之歩は軽く引くが、当の翔はあっさりと頷いた。


「ああ。背が高過ぎるんだと。二メートル弱あると、コクピットが狭いとかでな」


「男には珍しい悩みだなー」


「戦闘機って、背が高過ぎても乗れないんですか?」


 翔の反応がそれほど深刻そうでもないことに少し胸を撫で下ろし、悠之歩は聞いた。


「大体190センチが上限だ。デカ過ぎると、狭いコクピットで操縦ミスるからな」


「もしかして翔先輩、戦闘機の耐G訓練とかしてました?」


 深和がしてきた訓練を思い出し、悠之歩は言った。


「やってた。パイロットを夢見てた時からな。習慣になってるから、今もやってる」


「装骨格に身長制限はあったっけ? あっちも中が狭いけど」


 燎が言った。


「装骨格の上限は2メートルくらいです。地に足をつけてますし、操作も少ないので」


「他の飛行機には興味なかったんですか?」


 悠之歩は翔に質問した。


「装骨格の方が面白そうだと思ったからな。ただ、氾火は使っててつまらなかった。その点、流火は動きやすくていい」


「そんなに違う?」


 燎が尋ねる。


「流火は多分、膝や足首のモーターも特別だと思います。バネが強いというか、脚力がありますね」


 合同インターンで氾火を使ったことがあるからか、深和も言った。


「アレじゃない? 導式加速筋の副産物とか」


「あり得ますね」


「そうなんだ……人間の武術を割と再現できるのは、そのお陰かな」


「それはそれとして、翔さんみたく飛び回るのは、矩場さんたちも想定外だろうね」


「二冬と燎だったら飛べそう?」


 悠之歩は二人に尋ねた。


「それ自体を目的に練習すれば、ある程度できるかもしれませんが……」


「着地ミスったり、変なとこに突っ込んだりしそうだよなー。戦ってる時にリスク犯してまでやろうとは思わないね」


 やはり、深和や燎でも、高速で動きながらブースターの角度をコントロールするのは難しいようだ。しかもディスプレイに表示される周囲の映像にはラグもあるため、視覚に頼らない空間認識能力や、映像記憶力も高水準で要求されるのだろう。


「新体操やサーカスの身のこなしに近いかもしれませんね」


「あー、サーカスか! なるほどね」


「そう言われると、翔先輩の動きが芸術的に思えてきた」


「俺が芸術? 正気か?」


「はははは! 確かにイメージないけど、なくはないかもよ?」


 ――どちらにしろ、翔先輩の動きはそのまま取り込めないな……燎や翔先輩みたいな相手と戦うには、何ができるかな……。


 翔たちと談笑しながら、悠之歩は彼らの倒し方に思いを馳せた。

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