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17. 抵抗放射

 深和の言葉に、燎が「やっぱり?」と手を打って言う。


「距離感バグった気はしたんだよね。カウンター当てるつもりで動いたのに、当たったのは槍の柄だったしさ。カメラのラグかと思ってたけど、違ったんだ?」


「ラグのせいもありそうだが……」


 矩場が映像を巻き戻す。


 すると、翔の流火が燎の流火に向けて突撃して燎がそれを躱そうと横に跳んだ瞬間、深和と燎の言った通り、まるでぶれ球のように翔の流火の位置が燎の方に寄っていた。目に見えない引力が働いたか、空間が歪んだかのような、直感に反する軌道だ。


「うわ、マジでぶれてる……動ききっしょ」


 燎が呟いた。


「よくわかったな」


 矩場に言われ、深和が答える。


「春日先輩の動きが予想と違っていたので……私も、夏目くんのカウンターは命中すると思いましたから」


「翔先輩が刀を振りかぶる時、少し機体が傾いてますけど……それにしても不自然に真横に曲がってますね。ブースターを動かしたんですか?」


 悠之歩が翔に訊くが、翔本人も困惑したように首を傾げる。


「いや、ブースターはいじらなかった」


「あー……これは多分、流火――っつーか、装骨格自体の仕様だ」


 矩場がこめかみを掻きながら言った。


「装骨格の装甲は導波動を放出してるだろ? で、導波動を使って熱や空気抵抗、被弾の衝撃やらを受け流してる訳だ。これを抵抗ていこう放射ほうしゃって言うんだが――」


 矩場は何度か映像のコマ送りを操作して、翔の流火が模擬刀を右に大きく振りかぶろうとして、微かに機体正面が燎の流火に向いた場面を映した。


「春日の流火が手足を振った時、抵抗放射の向きも変わったんだろ。春日は動きが速い分、空気抵抗の放射量も多い。これが推進力になって、軌道に影響したんだ」


「方向転換は丹田に負荷がかかるし、導式加速筋の稼働率も上がりそうですね」


 悠之歩が言うと、燎が顎を撫でながら言った。


「でもそれ、空中だとパイロットも予測してない動きをするかもってことでしょ? マズくない?」


「問題が起きたことはねぇよ」


 燎が言うと矩場がムキになって言い返した。


「そもそも装骨格ってのは、地面を走るもんだ。射撃する時も、剣とか槍持って突っ込む時も、基本腕を振り回さない。だから、空中の抵抗放射で軌道が変わることはまずないんだよ」


「でも俺は空中を飛ぶぞ」


「氾火壊れた時みたいに、前提が違っちゃってんじゃん」


 ――この二人、遠慮も容赦ないな……。


 翔と燎の指摘に、悠之歩は軽く引いた。


「あぁあああああ、わかったよ! 抵抗放射については対処する! ただ現状、春日しか影響出てないから後回し! 多分、抵抗放射の向きをワンスイッチで切り替えるとかそんな感じになる!」


 やけくそ気味に矩場がまくし立てた。


 悠之歩が素手の音斬で機体を破損させ、翔が音斬以外の仕様の不備を指摘し、中間管理職としては悲鳴を上げるしかないのだろう。


「音斬を撃った時の抵抗放射はどうなっているんですか?」


 深和が挙手して質問した。


「あぁ、音斬の時は、全方向に自動で抵抗放射してる。だから千秋も夏目も、音斬の衝撃波で転んだりしてないだろ」


「ということは、春日先輩にように飛び回らなければいいんですね」


「意識的に使えば便利な仕様かもしれんぞ」


「翔先輩以外に誰ができるのかって話ですけど……」


「ある意味テストパイロットらしいじゃん」


 深和、翔、悠之歩、燎が思い思いに言う。


 ――結局、翔先輩の戦い方は参考にならなかったな……あんなスピードで動いたら、僕じゃ周りが見えないし。


 周囲の風景が映像として処理されてディスプレイに表示されるまでには、若干のタイムラグがあり、高速で動くほど映像は不鮮明になる。そのため高速戦闘を行うには、急旋回や急制動によって速度を落とすことで映像処理の時間を稼ぎ、そこから急加速するまでの一瞬でディスプレイの映像を見極め、その記憶と空間把握能力を頼りに動く必要がある。


 つまりパイロットが機体から引き出せる最高速度とは、瞬時に周囲を把握できる動体視力、素早く適切な動作を実行できる反射神経、高速機動時のGに耐える筋力と持久力、視覚に頼らず記憶を頼りに位置関係や距離を直感できる空間把握能力、そして常に冷静な判断を下して技術を実行できる精神力によって左右されるのだ。


 そのすべてが常人離れしているからこそ、翔の機動力は「戦いの主導権を握り状況を支配する力」の域に達し、「単なる移動速度」とは隔絶した要素となっている。悠之歩では真似できない。


「とりあえず、千秋と夏目は音斬を安定して撃てるってのはわかった。それじゃ、実戦について話すか」


 実戦。


 その言葉に、悠之歩たちの緊張の糸が締まった。


「音斬を撃てたことで、流火自体は実戦に耐えうる機体だと実証された。ここから先、希望者には予備警備員に登録してもらう。つっても、警備業務に積極的に参加してもらうことはない」


 予備警備員とは、登録された骨格者を公認三社が臨時のパイロットとして業務に参加させられる制度だ。パイロットが人手不足であるため制定された制度だが、公認三社が年間に予備警備員を使える時間と回数は限られている。


「というのも、流火に限らず装骨格は、定期的に総点検オーバーホールしててな。専用の工場に運ばなきゃならん。これに正規パイロットを充てると、割と業務の負担が大きくなる。そこで、流火の移送くらいは流火のテストパイロットでできるようにしたいって訳だ。そのために予備警備員登録して欲しいってことだな。裏を返すと、氾火みたいな普通の機体を使う場面でお前らを呼ぶ気はない。別途訓練が必要になるし」


 身も蓋もない言い分である。


「こういう装骨格の移送にももちろん、違法装骨格と戦うリスクがある。うち以外の警備会社を含めても、精々一パーセントくらいの確率だけどな。ただ、実際に確認された装骨格犯罪の方から見ると、十パーセントがこの移送中に巻き込まれたもんだ」


 ここ一年で警察などが把握している装骨格犯罪は、およそ一二〇件ほど。月に一〇件前後ある装骨格犯罪の内、一件は移送中に発生したものということだ。


「だから、登録は完全に任意だ。テストは予備警備員じゃなくてもできるから、給料も変わらん。給料をもらえるタイミングが増える、って感じだな。命懸けの仕事にはなるから、よく考えて、登録するなら来週書類を提出してくれ」

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