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11. 鳴気流合気柔術

 鬼ごっこで流火を使って音斬を暴発させ、氾火を損傷させた翌日、悠之歩は彩音に呼び出され、大学の体育館を訪れていた。


 流火のテストに参加する傍ら、悠之歩は2ヶ月前から週に一度の頻度で、彩音の卒業論文のためデータを提供している。


 彩音の研究は、運動とランナーズハイの相関関係と、ランナーズハイになった時の導波動波形の解析らしい。運動の種類や性質、運動以外に外部から加わるストレスの影響などを調査するのが目的とのことだ。


 データ提供の内容は、基本的に、悠之歩が普段自室で行っている一人稽古をするというものだ。しかし相違点が2つある。


 1つは、大学の体育館の中にある武道場は1回1時間しか借りられないこと。つまり、一度の実演では悠之歩が普段行っている稽古の半分しか実演できない。


 2つ目は、彩音が「妨害」してくることだ。それは英単語の暗記であったり、単純な四則計算だったり、映画を流したりと内容は回によって異なる。こういった外部刺激が悠之歩の集中力が上がるのを遅らせるのか、あるいは集中力が上がった後だと外部刺戟を受けてもパフォーマンスが下がらないかなど、分析は多岐に渡る。


「じゃ、今回は、技の内容とか実況・解説しながら稽古してくれるー?」


 体育館にある複数の武道場の内、45畳ほどと小さめの武道場の中央に立った悠之歩に彩音が言った。


 武道場の壁際には悠之歩を囲むように三脚に載せられたカメラやスマートフォンがあり、3方向から悠之歩の動画を撮影している。


 また、悠之歩の左手首には、第32研究室の備品であるロガーが巻かれている。ロガーには緋導鋼の小さなプレートが仕込まれており、これが悠之歩の生体磁気に触れて導波動を発生させ、感知機が波形データを彩音のパソコンにリアルタイムに送信しているのだ。


「話す順番とか、まとまってなくていいからー」


「わかりました」


 いつものように道着と袴を身につけた悠之歩は頷き、踵を薄紙一枚分だけ畳から浮かせ、少し腰を落として一歩踏み込みながら口を開く。


「えっと……鳴気流は、歩法ほほう柔法じゅうほう、あと剛法ごうほうでできてます」


 ――うっわ、やりにくっ。


 始めてすぐに悠之歩は怯んだ。


 普段は言葉など発せず呼吸と丹田を意識して稽古をしているので、話し続けながら動くのは難しい。単発で計算問題の答えを口に出すのとは段違いの難易度だ。


 それでも、肺の膨らみと共に肩が上がらないよう呼吸を支配し、自分の筋肉と骨、内臓、水分の重みすべてを丹田に載せるかのように上半身を脱力させながら動こうと努める。


「歩法は、文字通り歩き方……柔法は、脱力しながら自分の体重を活かして動く方法……剛法は、当身あてみとか関節技みたいな、最後の一押しとか牽制みたいなものです」


 歩法は、姿勢を乱さず、隙を作らず、重心や立ち位置をずらしながら移動する運足だ。


 柔法では、自分の身体に過度な力を入れず、自分の重さと動きをありのままに伝達させることで相手の姿勢を崩す。


 そして剛法は、体重を乗せた当身や関節技などで直接的かつ瞬間的に力を加える術だ。


「柔法とか剛法は、それぞれ単体で使っても、そこまで役に立ちません。だからどの技も、柔法と剛法が組み合わさってます」


 柔法の動き1つで相手を倒せることはまずないため、2つ3つと絶え間なく重ねなければならない。剛法にしても、それだけで体格差や筋力差を覆したり相手の防御や反撃に対応したりできない。


 だから相手の姿勢を投げたり倒したりするには、動こうとする相手の意識――気に合わせて臨機応変に柔法と剛法を連続・複合させる必要があり、個々の技には柔法と剛法が内包されている。そして、型稽古を通して柔法と剛法を修得するのだ。


「柔法と剛法が融合すると、刀で斬る技術に行き着くらしいです」


 丹田を中心とする回転で、ぶれない円軌道の太刀筋で刀を振ること。対象に刃が喰い込む瞬間に柄を絞るように握り、瞬間的なさらなる加速と刀の重さを活かすこと。これらは柔法と剛法に通じ、鳴気流の術理を修めていれば刀も使いこなせると師匠は言う。


「それと、歩法こそが基礎であり奥義、だそうです。技を使う時、必ず歩法もセットで……歩法の中にも、柔法と剛法の要素が含まれてるとか」


 つまり鳴気流は、歩けば斬れる術理によって崩し、打ち、投げる流派と言える。


「僕の稽古は、『歩法に合わせて刀の素振りする』ものです。刀の振り方は、技をベースにしてます。これなら、木刀とかなくてもいいし、静かで、家でできるから」


 そう言いながら、悠之歩は右半身を前に、両手で見えない刀を構えたような姿勢から動いていく。


 横薙ぎに刀を振るような動作と共に踏み込み、重心を切り返して背後を振り向きながら両腕を振り上げ、真っ直ぐ斬り下ろす技。歩法で入身しながら袈裟懸けに斬り捨て、全身を翻しながら返す刀で逆に斬り上げてすぐ真っ向斬りをする技。他にもいくつもの技を、すべて左右反転させた状態でも繰り返す。


 決して速い動きではない。


 しかし流れるように、重心の位置を絶えず変化させながら、一歩ごとに常に丹田を中心とした腰の回転と共に架空の刀で見えない相手を斬る。


 悠之歩は、実際の型の内容や、腰を落とす深さを段階的に変えていること、膝行でも型を再現していることなども説明しつつ、1時間弱の稽古を実演した。

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