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心がすこーし軽くなるお話

文化祭

今日は文化祭当日!私のクラス、3年1組は「白雪姫」の劇をやることになり、私は主役である白雪姫を任された。まあ、任されたというより、面倒なことを押し付けられただけだろうけど。

私は今日のために部活に行く時間も削って、2週間みっちり練習してきた。理由は何であれ、高校生活最後の文化祭で主人公を演じられることが嬉しかった。クラスで初めてリハーサルしたときも、クラスのみんなが私の演技を褒めてくれた。

「山田、すごいな!セリフ全部暗記してる!」

「さすが山田ちゃん!いつも自主練してるからだよね、えらすぎ!」

しかし、クラスのみんなと私の熱量には差があった。やる気満々な人間は私以外いなかった。みんなとの心の距離感が広がってしまった気がして私は悲しかった。

自主練を始めてから5日目のこと。いつも通り、誰もいない教室で台本を広げると、「おい!」と声をかけられた。私は驚いて台本を床に落としてしまった。声の持ち主は王子役でかつ3年間ずっと同じクラスの中村だった。彼も面倒なことを押し付けられやすいタイプの優しい人である。

「あ…中村。どうしたの?部長なのに、陸上部は行かなくて大丈夫なの?」

私が台本を拾いながら聞くと、彼は荷物を机の上に置いてうなずいた。

「大丈夫。もう2年が主体になってやってるし。それにしても…ここで毎日劇の自主練してるのか?」

彼がリュックから台本を出しながら私を見たので、私は何だか恥ずかしくなった。

「山田ってそういうところいつも真面目にやるよな。尊敬するよ。」

その一言で、彼との心の距離を感じて私はうつむいた。

「そんなことないよ。真面目だから…みんなにバカにされてるんだよ。」

「え?どこのどいつが山田のこと、バカにしてきたのか?そんなの俺が許さない!」

彼がいきなりムキになったので、私はあわてて首を横に振った。

「別に誰も言葉では言ってきてないよ?でも…いつもいつも山田は真面目で、えらくて、すごい人だって言われて、私すごく悲しくなるの。みんなとの心の距離を感じてしまって。変だよね…みんな褒めてくれてるのに。」

「ごめん、山田。」

中村が90度背中をまげて謝ったものだから、私は目を丸くした。

「なんで中村が謝るの?」

「だって俺、今真面目で尊敬するって言っちゃったから。でも…でも俺は!」

彼の大きな声に私はハッとして顔をあげた。

「俺は…その、山田の何事にもまっすぐな姿が…すごくかっこいいと思う。俺は山田のこといい友達だって、心から思ってるんだ。」

「中村…。」

すると彼は私が持っている台本を勝手に取り上げた。私は「ちょっとやめてよ!」と奪い返そうとするが、背の高い彼には敵わない。彼は楽しそうに笑いながら台本を見た。

「こんなに書き込みして女優さんみたいだ。”声を弾ませて”とか”最高の笑顔で”とか、細かく書いてあって分かりやすい!あ、俺の台本にも一緒に書いてもらっていいか?」

ようやく台本を奪い返すと、彼は自分の台本を私に突き出してきた。

「山田の字書いてあったら、俺もっと頑張れるからさ!」

彼が明るく言うので私は頬を赤らめながら仕方なく台本に文字を書いてやった。書き終わると、彼は嬉しそうに飛び上がって何度もお礼を言ってきた。その日から、私は彼と2人で練習をするようになった。

ステージの舞台袖、王子の衣装に着替えた彼がドレス姿で緊張している私に声をかけてきた。

「山田、何事も結果じゃなくて過程が大事なんだ。俺たち、一生懸命頑張ってきたからきっと大丈夫。俺は山田のことも俺自身のことも信じてる。」

「中村…。本当にありがとう。」

私は彼を見つめてニコッと笑った。彼も微笑んで力強くうなずいてくれた。

会場が一気に暗くなって、大きなブザーの音が鳴った。いよいよ劇のスタートだ。



「なんか私、浮いてない…?」

集団の中にいてこんなことを感じちゃうときありませんか?

自分だけが頑張っていて周りは全然付いてきてなかったり、真剣に取り組んでいるのにどうせ評価をあげたいだけだと心外な言葉をかけられたり…。

私はまず、真面目に物事に取り組んでいる人に悪いところなど1つもないと心から伝えたいです。そしてその真面目な性格を無理して変えないでほしいです。あなたはあなたのままでいい。むしろ、あの人は馬鹿だと思われるより、あの人は真面目だと思われる方が良いと思うんです。本当の自分を受け入れてくれて、本当の自分を尊重してくれて、本当の自分を愛してくれる。そういう人たちだけと一緒にいればそれでいいんですよ。誰が何と言おうとあなたらしさを大切にしてほしい、私は心からそう願っています。

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