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スピンオフ 聖剣は苦悩していた!

本編では扱いが雑すぎた聖剣に焦点を当てたスピンオフです!

 長き時に渡って人に大切に使われてきた物には魂が宿る。そう、聖剣も例外ではない。

 勇敢なる人の使命と人々の希望。全てを悠久の時間受け続けてきた聖剣は、特段強い心が宿った。

 いずれ剣は人を選ぶ様になった。そうして選ばれていった者たちが勇者と呼ばれる。


(……はずなんだがな)


 聖剣は苦悩していた。勇者に台座から抜かれる時は心地よくスッと抜けるのに、今回の勇者は無理矢理だったのだ。


(こやつの名は、アレトスと言うのか。確かに実力はあるからなぁ)


 そう、目の前で聖剣を守っていた魔王軍の幹部が膝蹴り1撃でやられたのだ。

 聖剣は思い出すだけで胃がもたれる時間だった。


「んー、なんか地味だな」


 聖剣を見て勇者アレトスが呟く。歴代の勇者たちはこぞって嬉しそうに泣いたのに。


(本当に勇者なのか?)


 聖剣とアレトスの出会いはここからだった。

 そして聖剣はまだ知らない。今後どのような扱いを受けていくのかを……。


 アレトスは聖剣を1度国に持って帰った。鞘をこしらえる為らしい。


「鞘だけ国で管理って面倒だよなぁ。勇者は世界で1人しか選ばれないんだから普通に置いとけばいいのに」


(それは同感だ)


 本来、聖剣の声は勇者にだけ聞こえる。勘違いだと考えたいがアレトスには何度話しかけても無視されている。


(うーむ。どうしたこっちゃ)


 月日は流れた。

 アレトスは仲間を集めるらしい。


(今更すぎないか!?)


 ギルドの酒場に入っていった。人の作るものは移り変わっていく。1つ前の勇者の時はギルドなんて小さい子屋でしかなかったのに。

 聖剣はしみじみしていた。


「仲間を集めたいんですけど、ここであってます?」


 アレトスが受付嬢さんに問う。


「はい、あってますよ。ところで冒険者登録がまだですよね? 少しお金がかかってしまうのですが、ギルドで仕事を受けるには必要なんですよね」


 アレトスがこくこくと頷いた。そのまま流れで自分の持ち金を確認していた。

 刹那、アレトスの体が固まった。


(おいおい、金がねぇってのか?)


 アレトスはこの状況を打破すべく1つの結論に辿り着いた。


「聖剣を担保にするんで、登録料をツケにしてくれませんか?」


「え、まぁ良いですよ」


 この後、1週間以上放置され涙を出したい気持ちになった聖剣なのであった。


 ここから順調にアレトスは仲間を集めていった。

 特に弓使いフリードには同情してしまう。筋肉のリリーナについてはまぁ、ノーコメントで。


(次の依頼は薬草の採取か。あそこは自然が多くて空気が美味いからなぁ)


「よし! 依頼が決まったとなれば急ぐぞ!」


 アレトスが1人でに走っていった。リリーナも後を追う。フリードだけはポツンと地図を片手に立っていた。


(常識を捨てよう、私も)


 聖剣はもう諦めたのだった。

 わかりきった話だが、アレトスは道に迷った。リリーナは目的地の方向に行けていたから大丈夫だろう。


「あっ! 人だ」


 アレトスは嬉しそうに駆け寄った。草刈りに勤しむその人は農場を管理するおじさんだった。


「どうしたんじゃ?」


「道に迷ってしまいまして、この場所わかります?」


 アレトスはおじさんに依頼書を見せ、場所を指差した。


「そこならこの近くじゃよ。その道をまっすぐ行ってみい」


 おじさんが教えた道は正しい道だろう。聖剣の勘はずっと勇者を救ってきた。言葉が通じればアレトスに道案内ぐらい出来るのに。と、思う聖剣であった。


「ありがとなおっさん。お礼にこれ貸しておくぜ。草刈りしてたんだろ? 切れ味バツグンだから作業捗ると思う!」


 アレトスは聖剣をおじさんに渡してすぐにこの場を離れてしまった。


(はぁ、困ったもんだ)


 おじさんがキョロキョロとし始めた。


「幻聴を聞こえる歳かのぉ……」


 聖剣は今世紀最大といった具合に驚いていた。確かにこのおじさんの心には一切の曇りもない。そして声が届いている。


(おじさん、ここです!)


 おじさんは剣を見た。そして強く握った。鼓動が伝わってくる。ずっと農業に人生を捧げ続けて自然を愛してきた事が伝わる手だ。


「あんたが話しかけてくれたのかい?」


(はいっ!)


「嬉しいねぇ。歳をとると話し相手が欲しくてのぉ」


 そこからフリードが聖剣を返してもらいにくるまで、久方ぶりの会話を楽しんだ聖剣であった。

 アレトスの元に戻ると、バカデカ筋肉が1人増えていた。



ーー次の日ーー


 勇者アレトス?一行は魔王と相対(あいたい)していた。魔王城での最終決戦だ。

 聖剣は気持ちに整理をつけた。


(アレトスとは色々あったが、ここまで一緒に来たんだ。最後まで見守ってやるぞ)


 聖剣は旅を思い出していた。出会いからここまで……まともな出来事は1つもなかった。


「おりやぁ!」


(え?)


 聖剣は気づくと、投げられていた。アレトスは満足そうに笑っている。

 そのまま魔王城の壁を破り、近くの池に落っこちた。


(嘘嘘嘘、これで終わり? 聖剣投げられて……)


 結局アレトスは聖剣を回収しに来なかった。

 そのまま1ヶ月の月日が経った。水中でも錆びることすらない聖剣は、一生をここで費やすとなると地獄だ。


(誰か、誰かっ……)


 ざっざっ音を立てて、誰かが池の近くにやってきた。


「また幻聴かのぉ……。そろそろ病院にでも」


(おじさん!?)


「その声はあの時の剣か?」


(そうだよ!)


 聖剣は嬉しかった。世界が平和になった事より、今おじさんに拾われる日が。


 その後の聖剣は歴史の表舞台から姿を消した。

 ある村で神から与えられた最高の草刈り道具として崇められ始めたのは別のお話。

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