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第一話 弓使いなのに先端恐怖症ってマ?

「すみませーん! 仲間を集めたいんですけど」


 ギルドの酒場の受付さんに大きな声で話す青年がいた。名はアレトスと言う。

 急いで酒場の2階にある受付に向かった。


「……勇者様、ですよね? 噂は聞いていますが本当だったとは」


 受付嬢さんが驚いた。アレトスが勇者である事は周知の事実だが、そこではない。


「えーえと、もう一度聞きますけど。勇者様は仲間が1人も出来ず、魔王城近くにある聖剣を取りに行った後、最初の町であるここに仲間を集めに戻って来たと」


「お恥ずかしながら」


 へへっとアレトスは笑った。それでも腰に下げてある聖剣を見ると彼が勇者であるのは不可避の現実だと理解させられる。

 アレトスが受付嬢に質問する。


「弓使いとかいます? 空飛ぶ魔物とかが面倒でして……」


 もう何も言えんわ、はちゃめちゃだわこいつ。そんな顔を受付嬢はしていた。

 それでも業務ではあるのか、パーティーの求人を出せそうな冒険者を探していた。


「最近は魔王軍幹部の残党が人里に降りてきて冒険者が基本的にいないんですよねー。誰かさんのせいで」


「そうなのか。とても大変な中すまない」


「それで弓使いですね。今空いてる人が1人いますよ。

……腕前は凄い子なんですけど、その癖が強いと言うか、矢が苦手と言うか」


 受付嬢は小声で続けた。

 アレトスは「誰かさん」が何者の事かわかっていなかった。ただ純粋に仲間に出来そうな人がいる事に歓喜している。


「ちょうどここ、ギルドの酒場に居ますね。端っこの方に座ってる銀髪の女の子です」


「ありがとう! それじゃあ」


 アレトスは受付嬢に手を振って走っていった。その際、階段の存在を忘れていた彼が滑り落ちていったのは言うまでもない。

 5メートルの高さから落ちたところで勿論無傷だが。


 アレトスは酒場の中の銀髪の人全員に声をかけていった。それはなんともナンパの様な、全くもって勇者とは考え難い形で。


「おーい! 銀髪の君!」


「はい?」


「今空いてる弓使いの子?」


 その子は辺りをキョロキョロ見渡した。その後、小さく頷いた。

 正解だ。アレトスは声掛け6人目でお目当ての弓使いを当てられたのだ。


「多分、私です」


 よく見ると足元には彼女の背丈より大きい弓が置いてあった。彼女こそ身長が高いわけではないが、それでも充分なサイズ感だ。


「名前は?」


「フリードです。えと、16歳です……」


 フリードも、アレトスの行動がナンパにしか取れなかったのだろう。人生経験の少ない彼女にとってその恐怖は計り知れない。


 フリードは気絶してしまった。



ーー1時間後ーー


「……ん、ここは?」


「ここは宿屋だよ。大丈夫? 急に倒れちゃったから心配で」


 フリードの目の前には自分の気絶した原因である男が顔を覗かせている。

 彼女はすぐに布団の中に逃げ込んだ。


「ごめんごめん。自己紹介をしていなかったね。僕の名前はアレトス。勇者をやっているのさ!」


 部屋がしんと静まり返った。

 フリードが顔だけひょこんと出した。その表情は感動と驚きが混ざった複雑なものであった。


「でさでさ! 一度弓を射てもらいたい」


 アレトスが矢をフリードに向ける。その瞬間、彼女は白目を剥いた。


「ぎ、ぎゃ。ぎゃゃゃぁぁぁァァァァ!!」


「フリードどうしたんだ?」


「それ、それをしまってぇぇぇぇぇぇぇ。その矢、いやぁぁぁぁぁぁ」


 フリードは腰を抜かして後ろに下がる。そのままベッドから落ち床に頭から衝突した。


「大丈夫かー」


 本日2度目の気絶をかましたフリードであった。


「おーい」


 アレトスは顔をぺちぺちしながらフリードを起こす。

 彼女からしたら勇者はカッコいいという憧れが消え失せていた。これも幻想と思いたいが、聖剣を下げている変え難い証拠がある。


「フリード、色々と騒がしてしまって済まない。それでも今の僕には仲間が必要だ。君の実力を見せて欲しい」


「え、いきなり勇者っぽい」


「なに言ってるんだ。ほら聖剣あるだろ! 凄いだろ〜」


 やっぱりアレトスを勇者とは認めたくない。そんな気持ちのフリードであった。

 それでも勇者の仲間になれる可能性がある誘いは捨て難い。


「わかった。勇者様?でいいよね。実力を見せてあげるから場所を変えましょ」


「勇者様じゃなくてアレトスってよんでちょ」


「行くよ、勇者様。それと矢を渡すときは後ろからお願いね。絶対だぞ、頼むから」


 フリードは少し泣き顔になっている。


 街の近くにある森に2人で向かった。

 今回(まと)になってもらうのは近辺の弱い魔物たちだ。


「そこのバンダナとって」


 アレトスは真っ黒なバンダナを手渡した。髪が邪魔にならない様につけるのかと思ったが、フリードは目隠しとしてつけている。


「見えてんのか?」


「まぁ、お楽しみに。勇者様はそこで寝てな。

……その前に矢を取ってくれない? どこにあるかわからなくて」


 フリードに矢を3本握らせた。

 その後、本当にアレトスは眠ってしまったのだ。言葉のあやって奴だね。

 待つこと10分。2人を囲む様に4匹の魔物が現れた。緑の肌に短い背格好、ゴブリンだ。


「魔物が()ってきたよ勇者様」


 アレトスは眠そうに腕を振った。彼は少し心配していた。魔物が4匹に対して矢は3本。

 最悪自分の睡眠が妨げられてしまう。これが勇者の姿であって良いのだろうか。


 フリードは全ての矢を同時に放った。

 その背中はまさしく歴戦の戦士そのものの風貌を(かも)し出している。


 矢は瞬く間に2匹のゴブリンの頭を射抜いた。

 そして最後の矢は残りのゴブリンを貫通し、同時に倒してしまったのだ。

 アレトスは上機嫌に跳ね上がった。

 目隠しのバンダナを取る。


「よしっ! 仲間になってくれ」


 アレトスは勇者らしく握手を顔の前に差し出す。指先はフリードの視線を完璧に捉えていた。


「はい! よろし……あぶぁ。あぶぶぶぶ」


 恐怖のあまり泡を吹いて倒れたのは語るほどのことではない。指先は天敵でしたね。


 次の日、フリードが目を覚ました時には勝手に勇者パーティーに入れられていましたとさ。

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