始まりの音
ゴーン ゴーン
「また、この音か…」
この音が響く時 それは 世界が終わる時。
_______________________________________
キーン コーン カーン コーン
聞き慣れたチャイムの音。私は目を覚ます。
「オハヨ、メイ!あんたずっと寝てたね」
「うそ、私そんなに寝てた?」
「だいたい50分くらい寝てたんじゃないの?」
「それって授業のほとんどじゃん!起こしてよ〜!」
「なんでアタシが起こさなきゃならんのよ。しかも寝過ぎで涙でてるわよ。なんか変な夢でも見た?」
「…あれ、ほんとだ。なんで涙が…。うーん、あんまよく思い出せん」
「そ。あ、次体育あるし、はよ着替えいこ!」
「え、あ、待って〜!!」
私の何気ない日常。けれど、今日は少し違う。私が泣いていた理由。それを、私は知っている。あの音が響いていたからだ。耳の奥で、私にしか聞こえない"響き"。
生まれつき、私には左耳がない。日常生活は右耳だけでも意外と過ごせる。誰かが私を呼ぶ声だって、チャイムの音だって、聞こえないことはない。そして、左耳も全く何も聞こえないということはない。左耳がないのにおかしいけれど、でも聞こえる。響きだ。私の左耳は、ゴーン、という響きを聞くことができる。ただ、それだけ。なのに、この響きを聞くと哀しい気持ちと喪失感でいっぱいになる。その理由は分からないけれど。
「…イ。…忘メイ。……神忘鳴!!」
「…はっ、はい!!」
「名前を呼ばれたらすぐ返事をしてください!!」
「す、すみません…」
「ねぇ、あんた大丈夫?今日少し変だよ。体調悪いなら保健室行く?」
「ありがとう、雫。うん…、ちょっと保健室に行ってくる。私一人で大丈夫だよ」
「そう?まあ、なんかあったら言ってよね。いつでも話聞くからさ」
「うん、ありがとう」
手綱雫。いつも一緒にいる私の友達。いつも元気で、強気で、でも優しくて、私の自慢の友達だ。
「雫になら、響きのこと、打ち明けてもいいのかな…」
保健室。ベッドの中で呟く。きっとこのことは誰にも理解されない。親にだって理解されることはなかった。きっと、雫にも理解されることはないだろうな。この不安を誰かに打ち明けたい。理解してもらいたい。そもそも、この音は、響きは、一体…。
いろんなことを考えているうちに、私は眠りに落ちていた。
ゴーン ゴーン
聞き慣れた音。目を覚ます。
世界が終わる瞬間を、わたしは観ていた。
人々は逃げ惑っている。多くの人が耳を塞ぎながら。もう間も無くこの世界が終わるというのに、どうして耳を塞いでいるのだろう。何を聞きたくないんだろう。何が、聞こえているんだろう。
その瞬間、世界は終わった。
キーン コーン カーン コーン
聞き慣れたチャイムの音。私は目を覚ます。
私の目からは涙がこぼれ落ちる。
「…世界が…終わる…音」
ふと、そんなことを呟いていた。