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おじ戦士道  作者: 伝統わがし
第三章 おじ戦士の先導者編

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第75話 おじ戦士、夜戦に挑む

 月が出ているのは不幸中の幸いであった。

 舗装された石畳が月明かりに照らされることで、薄らとではあるがそこに街道があると分かる。松明の灯りがあるとはいえ、進む先が直に見えているのといないのとでは、走る速度は全然違ってくる。

 街に近づくにつれて、吹き抜ける夜風に乗って聞こえていた戦いの音が、直接耳に届くようになった。

 同時に、ある程度の状況も見えてきた。

 門前にいた旅人たちが、謎の武装集団の襲撃を受けている。

 暗くて襲撃者の姿がはっきりとは分からないが、すべて人間であることは予想がついた。一匹でも魔物が混じると、戦場はもっと異質な空気が漂うものだ。


「散らばりすぎてるな」


 一旦、足を止めて呼吸を整えると、ラルフは険しい声で呟く。

 襲撃を受けている範囲が思った以上に広く、一つ一つの場所が遠い。

 旅人たちは大きく三組の集団に分かれて野営をしていたようだが、それらの設営場所が三つとも同時に襲われていた。

 奥の二組は、それぞれ十数人規模の隊商キャラバンだ。さすがに隊商なだけあって、護衛に雇われた戦士たちが襲撃者相手に果敢に立ち向かっている。

 手前の一組は、それ以外の旅人や行商人たち数人程度の集まりのようだった。彼らは隊商のように護衛の戦士を連れていないため、自衛のために自然と集まり合ったに違いない。とはいえ、隊商と比べればその戦力はあまりにも脆弱だ。


「――おじさん、だから毎回、一人で、突っ込みすぎぃ!」


 背後から息が上がった声で呼びかけられる。

 状況把握のために一時的に足を止めたことで、後続のミアたちが追いついたのだ。ラルフは左手の盾を掲げ、背後に停止の合図を送る。

 その間も忙しく視線を動かし、わずかな灯りを頼りに戦況を見極めようとする。


「一番手前で襲われてる集団、まずあそこに加勢するぞ」


 右手の松明を振って、そちらを指し示す。

 襲われているのは、行商人たちを中心とした寄せ集めの一団だ。

 襲撃者の大半は奥の隊商を狙っているようで、手前の集団を攻めているのは四人ほどしかいない。

 そのわずか四人に、行商人たちは一方的に追い詰められている。

 一応、彼らも自衛の武器で応戦はしているものの、専門の護衛がいないため明らかに劣勢を強いられていた。このまま放っておくと、確実に全滅するだろう。


「一体、何が起きているのでしょうか?」

「分からん。だが、おそらくは野盗の類だ。こんな街のそばに現れるとは予想外だが……とにかく、助けられそうなところから順に助けていく。二人は後方から支援してくれ」

「分かりました」

「了解、任せといて」


 戦闘前の短い打ち合わせだけ済ませると、ラルフは移動を再開した。

 行商人を襲っている連中の背後を取ろうと、右から回り込むように走る。

 すると、目標まであと十数歩ほどに迫ったところで、周囲の喧騒がピタリとやみ、完全な静寂に包まれた。ラルフが発する呼吸音や足音、身に着けている金属鎧の音まで、一切の音が消え失せる。

 それがミアの唱えた静寂サイレンスの呪文の効果だということに、ラルフはすぐに気づいた。移動する際の音をかき消して、不意打ちの手助けをしてくれているのだ。

 それでも接近の気配を察したのか、四人いる襲撃者のうちの一人がいち早くラルフに気づいた。商人への攻撃の手を緩めて後ろを振り返る。


(武器は偃月刀ファルシオンと弓矢。それに鎧は……鱗片鎧スケイルメイルか?)


 敵の武装に違和感を覚えつつも、ラルフは戦いに意識を集中させる。

 距離を詰めながら、振り返った敵を目がけて松明を投げつける。相手が怯んだ隙に剣を抜き、ぶつけた松明が地面に落ちるよりも早く、そのままの勢いで切りつけた。その抜き打ちは正確に防御の隙間を縫い、相手の胴を捉えた。

 鎧ごと腹部を断ち切られた相手が、獣のような叫びを上げて仰向けに転がる――音が聞こえる。どうやら、静寂の呪文の効果範囲を抜けたらしい。

 その叫び声で、残りの三人も背後から別の脅威が迫っていることにようやく気づいた。しかし、前方の戦いに気を取られ、中途半端に背中を向けたままのやつがまだ一人いる。この距離では、そのわずかな判断の遅れが命取りだった。

 ラルフは背中を晒している敵に狙いを定め、隙だらけの頭部に剣を叩きつける。頭を割られたそいつは、血と脳漿をぶちまけながら地面に崩れ落ちた。


「味方だ! 加勢する!」


 倒した敵と対峙していた行商人たちに向かって、早口でそう伝える。

 商人たちは一様に驚いた顔を浮かべたが、すぐさま我に返って後退をはじめる。一人、後退できずにその場でがくりと膝を落とす者がいた。体力の限界を迎えたのだろう。かなり負傷しているようで全身が血塗れだった。

 残る二人の敵も、行商人たちを攻める手を一旦止めて距離を取る。どうやら彼らは、突然斬り込んできたラルフをまず先に倒すことに決めたらしい。

 敵は左右からラルフを挟み込む位置に移動し、それぞれ手に持った曲刀で連携攻撃を仕掛けてくる。

 だが、二人くらいなら同時に相手をするのはラルフは慣れていた。

 盾を使って最初の連携攻撃を捌くと、素早い連撃で相手の防御を切り崩し、数合切り結んだだけで片方を切って捨てた。


「~~~! ~~~~!!」


 最後に残った一人が慌てた様子で、奇妙な叫び声を上げた。

 ラルフの知らない言葉だった。

 言葉の意味は分からないが、この状況下では命乞いか、他に助けを求めているのは明白だ。増援を阻止せんと、間を置かずに切りかかる。

 相手はその一撃を武器で受け止めるのがやっとで、完全に体勢が崩れる。その隙を逃さず、ラルフは二撃目をみまう。喉に剣を突き立て、最後の一人も絶命させた。

 すべての敵を倒し終え、その場の制圧が完了した。

 ……と思ったのだが、まだ早かった。


「ほう」


 まだ斬りかかってこようとしている者がいることに気づく。

 最初に腹を切り裂いて倒した相手だ。片手に偃月刀ファルシオンを持ち、切られた腹を反対の手で押さえているが、傷ははらわたまで届いてしまっている。

 どう見ても致命傷だ。

 それなのに、まだ戦う意思を捨てていない。

 ラルフは剣を正眼に構え直す。


「悪いが、後がつかえてるんでな」


 感情を込めず呟くと、躊躇なく剣を振りきった。


 ※ ※ ※


 剣をぶんと振り、血を払う。

 それだけで刃は鏡のような光沢を取り戻す。さすがはオズワルドが魔力付与エンチャントした魔法の剣だ。実戦における使い勝手は申し分なかった。


「決着まで早かったね」


 背後から声をかけられる。

 その場の危険が無くなったことを察知して、ミアとセーラがすぐそばまで近づいてきていた。


「おじさん、相変わらずつっよいね。一応、魔法で援護してみたんだけど、必要なかった?」

「いや、最初の不意打ちが上手くいったのは魔法の助けがあったおかげだ。良い判断だったぞ、ミア」


 ミアの状況判断を誉めつつ、ラルフは剣を鞘に納める。

 正直なところ、かなり際どいタイミングではあった。二人目までを始末するのにあれ以上手間取ったら、犠牲者がもう一人増えていたかもしれない。


「どこも怪我はありませんか?」

「ああ、俺は大丈夫だ。それより、襲われてた者たちを診てやってくれ。せめて重症者だけでも魔法で癒しておいたほうがいい」


 自身の治療が不要であることをセーラに告げると、ラルフは先ほど投げ捨てた松明を拾い上げ、助けた行商人たちを照らした。

 彼らは、ほぼ全員が体のどこかに傷を負っていた。

 特に、助けに入った途端に崩れ落ちてしまったやつはかなりの重症だ。あいつは回復魔法をかけてやらないと助からないだろう。

 セーラは頷くと、すぐに負傷者たちの治療に動いた。

 回復魔法を使っている間はセーラが無防備になるため、ラルフも彼女を護れる位置へと移動する。


「ミア、使い魔が外壁まで辿り着いたら、向こうで続いている戦いの様子を上空から見てくれ。戦況が不利なほうの加勢に行きたい」

「分かったわ」


 ラルフにくっつくように移動してきたミアが元気よく返事をする。

 この状況下で、使い魔を使って偵察できるのは大きい。まだ奥の隊商は戦いを続けている。それらの戦況次第では、すぐにでも次の行動に移らねばならないからだ。

 一方のラルフはというと、地面に転がる遺体を順に観察していった。

 行商人たちも全員が助かったわけではなく、駆けつけた時点ですでに地に伏して動かなくなっている者もいた。それらの亡骸なきがらを確認すると、刀傷だけでなく、いくつもの矢傷を負っていることが分かった。

 そのまま視線を横に動かし、今度は襲撃者のしかばねを見やる。

 当初は野盗の類かと思っていたが、その考えが間違いであったことはすでに認めている。切り捨てた四人は、全員が弓と矢筒を背負っている。先ほどは即座に接近戦に持ち込めたため矢を射かけられることはなかったが、剣だけでなく弓矢を駆使して襲撃してくるなど、野盗にしては技量が高すぎる。

 第一、武装も奇妙だ。

 全員が鱗片鎧スケイルメイルを身につけ、武器は偃月刀ファルシオン新月刀シミターを使っていた。

 それらの武器防具は、この国ではかなり珍しい装備品だ。探せば手に入らないこともないが、少なくとも一般的に流通している品ではない。

 それこそ、南国出身の傭兵でもない限り、好んでは使おうとしない代物だ。


「ややや、よく見ればあなたは先ほどの旦那じゃありませんか!」


 セーラが回復魔法で負傷者を順に治療をしていくと、その中に見覚えのある人物が混じっていた。

 トレスタの門前に辿り着いた直後、閉門の理由について説明してくれたあの小太りの行商人だ。


「いやいやいや助かりました! まさかこれほどお強い戦士殿だったとは。なんとお礼を申し上げたら良いのやら」

「礼には及ばん。こういう時はお互い様だろ」


 他の商人たちは、戦いの疲労と恐怖、そして当面の命が助かったという安堵でへたり込んでいるが、この男だけは比較的余裕がありそうだった。

 丁度よいので、ラルフは襲撃時の状況について彼に聞いてみることにした。


「それより、こいつらが何者か分かるか? 襲われる際に、何か要求はあったのか?」

「いやー、それが皆目見当が付きません。向こうにいる隊商がやけに騒がしくなったなと思った途端、こちらもいきなり矢を射かけられて……その後のことはよく覚えておりません。手前どもも、切りかかってくる賊に抵抗するのに必死で、要求とか聞いてる場合ではありませんでしたわ」

「そうか」


 この場の安全確保を最優先に考え、襲撃者は四人ともとどめを刺したが、おかげで得られる情報がかなり限定されてしまった。

 それでも、襲撃者の正体については大筋の見当がついた。肝心の目的のほうはさっぱり分からないが……こうなると、まだ奥にいる残りの連中をどうにか生け捕りにするしかない。


「おじさん、右奥の隊商がかなり危なくなってきてる。護衛の戦士が次々に倒されてて、このままだと総崩れになりそう」


 使い魔の眼を通して戦況を確認していたミアが、切羽詰まった声を上げる。

 その口ぶりからして、状況はかなり芳しくないようだ。


「分かった、すぐそちらの応援に向かうぞ」


 ミアの報告にラルフは頷き返す。

 とはいえ、この場にいる負傷者たちを放り出しては行けない。


「俺たちはこれから他の助けに向かう。お前たちは、あちらに見える丘の上でしばらく身を潜めていてくれ。周囲の安全が確保できたら、誰かに呼びに行かせる」


 ラルフは、自分たちがやってきた方向を指し示し、商人たちにはそちらに避難するように促す。

 すると、行商人たちの間でざわめきが巻き起こる。


「このまま手前どもを守ってはくれないのですか?」


 先ほどの小太りの行商人が、皆を代表するように声を上げた。

 

「大丈夫だ。やつらの手勢ではここを攻めるだけで手一杯だ。あの丘まで追撃してくることはまずありえん。逆にこちらから攻撃して、禍根を断ってくる」


 ラルフは自信を込めた口調で言い含めて、どうにかその場は説き伏せた。

 治療はどこまで済んだのだろうかと視線を巡らせると、丁度、最後の負傷者に回復魔法をかけ終えたセーラと目が合った。

 彼女も先ほどのミアの話を聞いていたようで、すぐさま頷いて立ち上がる。


「今ので全員分の治癒を終えました。まだ魔法を使う余力はありますから、お供させてください。私、一緒に戦えます」

「――よし、一緒に来てくれ」


 セーラの言葉を受け、ラルフは再び首を縦に振った。

 回復魔法を使い過ぎてあまり余力が残っていないようなら、彼女には商人たちの誘導を任せようと考えていたが、どうやら杞憂だったようだ。


「敵集団の間合いに入ったら、さっきと同じ要領で斬り込んでいくからな」

「おっけー、そしたら、さっきのように後ろから援護すればいいのね」

「ああ、細かい動きは各自の判断に任せるが、くれぐれも俺より前には出るなよ」


 いつ戦闘に突入しても良いように事前の打ち合わせだけ済ませると、ラルフは再び先頭に立って走り出した。

 走り始めた途端、微かに口元が緩んだ。

 場違いなのは分かっているが、ふと懐かしい感覚に駆られたからだ。

 やはり良いものだな。

 前方に向ける視線は厳しいまま、胸の中だけで楽しげに呟く。

 共に戦いたいと言ってくれる仲間がいるのは。

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