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おじ戦士道  作者: 伝統わがし
第一章 おじ戦士の戦士道編

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第2話 おじ戦士、打ち上げに参加する

 俺が大物を仕留めたことで、戦いの趨勢すうせいは決した。

 あれがゴブリンどもの親玉だったのか用心棒だったのかは知らない。だが、トロールが倒れたことで残ったゴブリンは完全に浮足立ち、新人冒険者たちがそれらの残党をすべて片付けるまでに、そう時間はかからなかった。

 掃討戦を終え、周囲に他の脅威が潜んでいないか念のため確認した後、俺たちは街へと帰還した。

 依頼主から約束の報酬を受け取り、ようやく今回の冒険に幕を下ろした。


「それでは、冒険の成功と勝利に! カンパーイ!」

「「「「乾杯!」」」」


 冒険者の酒場に戻り、空いているテーブルを陣取ると、さっそく祝いの酒盛りが始まった。

 乾杯の音頭を取ったのは、なぜかあの魔術師の嬢ちゃんだ。

 普通そういうのは戦士の男がするもんだと思うのだが、俺の向かいの席に座っているそいつは黙々と酒杯を傾けるばかりで愛想がない。こういう役割には全く向いてないのだそうだ。


 まったく最近の若いもんは。

 とはいえ、こいつらは最近の冒険者にしてはノリがいいほうだ。

 冒険の成功を祝って酒盛りしたりするのを、そもそもやらない主義だという連中も今では多い。

 やれ、仕事だけの付き合いだの、オンとオフの切替が大事だの、中身のない御託を並べてくる。中には、お金が勿体ないとはっきり言い切ったやつもいたが、それはもういっそ清々しくて逆に好感が持てる。


 まったく最近の若いもんは……みんなそんな風に好きに生きればいいと思うぞ!

 冒険者が何かに縛られて生きるほど馬鹿らしいことは無いからな。


「あれあれぇ? おじさん、もう酔ってるのー? 宴は始まったばかりなのに飲みすぎなんじゃなーい?」

「ちょっとミア、おじさんなんて失礼よ。あら、でもほんと……ラルフさん、顔が真っ赤ですよ」


 独りごちながら黙々と酒杯を空けていた俺に、魔術師のミアが絡んできた。

 常識人である僧侶のセーラにくだけた口調を注意されているものの、特に気にした様子もなくケラケラと笑っている。


「酔ってないぞ」


 飲むペースが早いせいで少しばかり酒が回っているだけだ。

 勘違いしちゃいけない。これは別に酔っているわけではない。本当だぞ?

 だが、若い嬢ちゃんたちに囲まれて飲む酒は、なんだかいつもより格段に美味い気がする。どれ、こいつもさっさと空けて、もう一杯おかわりするとしよう。


「いやー、いい飲みっぷりじゃないか! 酒が強くて腕っぷしもいいなんて、人間にしておくのが勿体ないくらいだよ」


 一気に麦酒エールを飲み干す俺を見て、ドワーフの戦士ドマが豪快に笑う。

 出会った当初は気づかなかったのだが、実はこのドワーフ、こう見えて女だった。鎧を着て兜まで被っていると、人間にはドワーフの性別など判別できないものなのだ。どうか許してほしい。

 あと、申し訳ないが俺もドワーフは守備範囲外だ。すまんな。


「確かになー、腕っぷしって意味ではラルフの旦那がいてくれなかったら正直ヤバかったぜ。大体なんだよ、あの化け物は。ゴブリン退治の依頼じゃなかったのかよ?」

「もう、またその話ですか、チップ。依頼主の方も予想外のことだったと謝罪していたではありませんか。報酬もその分多めに頂いたことですし、もう蒸し返すのはよしましょう」


 僧侶の嬢ちゃんが少しうんざりした様子で、斥候の小僧をたしなめる。

 この小僧は、単なるゴブリン退治のはずがトロールと戦う羽目になったのがよほど不本意だったのか、帰り道でもしきりに不満を口にしていた。


「セーラはそう言うけどよ、そんなのは結果論だろ? 身の丈に合った依頼を選んだつもりなのに、こんな騙し討ちみたいな目に遭っていたら、命がいくつあっても足りねぇよ」


 不貞腐れたようにそう吐き捨てると、チップは手にした酒杯を呷った。

 ここで言っても仕方のないことだと分かっていても、酒が入れば愚痴の一つも零したくなるだろう。


「そういう偶然もありますよ。今回のことも良い経験になったではありませんか」


 僧侶のセーラは、あくまで物事を前向きに捉えている。


「偶然とも言い切れないぞ」


 その前向きな姿勢に水を差すようで気が引けるが、これだけは伝えておく必要があることなので、俺は話を切り出した。


「魔物の正体があやふやでよく分からないときは、とりあえず『ゴブリン退治』で討伐依頼を出すのはよくあることだ」

「どういうことー?」


 魔術師のミアが不思議そうに首を傾げる。


「要するにだ。今回の件を初めからトロール退治として頼めば、依頼する側もそれ相応に高額の報酬を用意しなければならなくなる。だが、ゴブリン退治なら最低限の金額で済む。連中は割とどこにでも住み着いているから、そういう名目で討伐依頼を出しても嘘にはならないというわけだ」

「えっ、もしかして今回みたいな予想外の展開ってよくあるの?」

「そうだな。俺の経験上の話になるが、『ゴブリン退治』の依頼は十回に七回は、ゴブリン以外の魔物が出てくると思ったほうがいい」

「うっそ! そんなに!?」


 ミアは驚きで目を丸くし、セーラは絶句したまま、まさに開いた口が塞がらないといった表情を浮かべていた。


「すると何かい? あたいらは最初から、ゴブリン以上の魔物が出るのが分かりきっている依頼を、安い報酬で受けさせられたのかい?」

「見方によっては、そうなるな」

「畜生! 馬鹿にしやがって!」


 ドマとチップは、もはや隠そうともせずに怒りを露わにした。


「まあそう言うなよ。この手の依頼を受けてしまった当人たちに怒るなとは言えないが、依頼の性質上こうなるのはある程度やむを得ないところもあるんだ。集落の付近で魔物の気配がしたからといって、正体や数がはっきり分かるところまで近づいたら、その魔物に食われちまうかもしれない」

「というより、一般人は魔物を見たところで、その正体が何なのかなんて分からないよねー」

「そうだな。俺たち冒険者が魔物退治の専門家だからこそ、今回のような件には腹も立つだろうが、一般人からすれば全部込々で対処してほしいというのが本音だろう。最終的に報酬を水増ししてくれたのは、その辺りも暗黙の了解だからだ。――そうそう、俺がここで話したことも含めて『暗黙の了解』だから、他言は無用だぞ」

「……なんか釈然としねー。これじゃ新入りは騙されて死にに行くようなものじゃねぇか」

「だから俺みたいなのが一緒についていくんだ」


 そう、それこそが、俺のようなおっさん戦士がわざわざ新入りのこいつらに同行した理由だ。

 素性が怪しい依頼や、詳細が不明な依頼を新米冒険者が受けた場合、ベテランが同行する。この仕組みができてから、王都における冒険者の死亡率は大きく減少した。

 裏を返せば、それまではどれほど冒険者の命が軽く扱われていたかって話だ。……畜生め。

 俺の話を聞いても全員が完全に納得したわけではなさそうだが、少なくともこれ以上の不満の声を上げる者はいなかった。


「ラルフさん、一つ聞きたいことがある」


 それまで無言だった男戦士のダニエルが、ここにきてようやく重い口を開いた。


「なんだ?」

「今回、あんたがいなくて、代わりに俺がトロールと戦ってたら……勝てたと思うか?」

「お前が一人でトロールを引き受けていたらか?」

「そうだ」

「無理だろうな」


 ここで言葉を選んでも仕方がない。俺はダニエルの目を見据え、はっきりと言い切った。


「お前では、まだ力不足だ」


 おそらく予想していた答えであっただろうが、にべもない返事を突きつけられ、ダニエルは酒杯を持つ手に力を込めたまま俯く。

 純然たる事実として分かってはいても、屈辱だろう。


「けれど、お前たちだけでもトロールは倒せたかもしれない」


 その言葉に、ダニエルを除く四人が揃って呆けた顔を返してきた。

 「ん?」とチップが首を傾げ、セーラは「えっ?」ときょとんとしている。

 「はぁん?」とドマが気の抜けた声を漏らす横で、ミアに至っては、飲んでいた酒が変なところに入ったのか激しくむせていた。

 ……タイミングが悪かったのだろうか。なんかごめん。


「別に魔物相手にタイマンを張る必要はないだろ? ドマと二人で立ち向かえばいいし、後衛から魔法の援護を受ければ、戦いはぐっと楽になる。お前たち全員が力を尽くせば、もしかしたら自力で倒せたかもしれない。……すまんな、それを試す機会を奪ってしまって」


 最後の部分は、おじさんなりに場を和ますジョークだ。

 多少寒くても大目に見てほしい。


「まぁ……そうだねぇ」

「あぁ……」

「俺らはパーティなんだもんな……」

「困難な時こそ力を合わせ、立ち向かわねばなりませんね」


 新米たちは真摯に俺の言葉を受け止めてくれているようだ。

 よしよし、これで本当の意味で引率は終了だな。お疲れさまでした、俺。


「ほんとだよー、おじさんの目立ちたがり屋!」


 さっきまでむせていて会話に入り損ねたミアだけは、俺の滑ったジョークを救い上げてくれた。

 そこを完全スルーされても、それはそれで、おじさん悲しくなっちゃうからな……ありがとよ。

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