【SF小噺】仏説百円均一ショップ
ワイドショーでやってた特集。百均で買える便利な掃除グッズ。必要か必要ではないかと訊かれると、きっと必要ではないのだろうけど。見ていて、なんだか欲しくなってくる。
だけど当日は忙しく、百均へ行けなかった。次の日、会社では例の掃除グッズの話題で持ちきりになっている。
「あれ良かったよー」
「一日で相当な人気らしいね」
こいつはいけない。帰宅時、家とは逆方向に少し歩いたところ。駅近の百均ショップへ飛び込む。だが遅かったようだ。掃除グッズコーナーの棚が、ごっそりカラになっていた。
私はがっくり肩を落とす。けど、せっかく来たというのに、諦めきれない。すぐそこへ棚出しをしている店員さんがいた。
「すみません、店員さーん」
「拙僧を呼ばわれましたかな」
振り向いた店員さんは、螺髪、福耳、半眼、手は印相を結び、足下では蓮の花が咲き乱れ、後光まで輝いている。
店員は仏様だった。
だが仏でも悪魔でも、今は関係ない。問題はテレビで紹介された掃除グッズだ。
「とぅるっと掃除モップ、ありませんか?」
仏様というか店員はしばらく考えてから、口を開いた。
「如是我聞……」
これ知ってる。仏教系高校に通ってたからな。お経の冒頭につく言葉だ。
「ない、とはどういうことなのか?」
いや、棚に商品がないから、ないんじゃ。
「確かに棚はあるが、そこに商品はない。だが川に水がなければ、それは川ではないというのか。水なき川に残るは谷ではないか。つまりこれは商品なき棚という名残」
「……は?」
困った、何を言いたいのか、さっぱり分からない。
「世とは色即是空であり空即是色。テレビ人気という業が因果となり、品切れを起こした。これも縁起の始末」
帰りの途中でコロッケでも買うかなー。
「つまり百均とは衆生の心を写す曼荼羅。最初から苦界は悟りに満たされている。ないと思うのは、迷いゆえ。棚に商品はなくとも、何もないわけではない。分かったか仏弟子よ」
誰が仏弟子だ。
だがなぜか、悟りのようなものが得られた気がした。棚に商品がないからと、商品の全てが存在しないわけではないのだ。
「で、もう在庫はないんですか?」
「そこになかったら、ないですね」
「注文は?」
「次回の入庫、いつになるか~」
なるほど。百均を出た私は帰路、途中のスーパーでコロッケを買った。ああ無駄足だったな。世の中本当に……
「神も仏もいやしねえ」