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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

時間を止めると誰かが行方不明になる

作者: 雄太

 

『時間が止まれば良いのにな〜』


 神谷は教室の陽の当たる窓際、最後方に陣を取る。

 古典の新田先生のぶつぶつ音読を全く聞かずに窓の上に巣を作って雛鳥達に餌を運んでくる燕を見ていた。


「お前達は呑気だな〜人間は授業だなんだで1日中拘束されてるのにな、お前達は大空を羽ばたいてる、まあー危険と隣り合わせだけどな、自由な危険と拘束された退屈、どっちが良いのか………」


 ふと、何かに押されるように顔を上げると先ほどの燕が空で静止している。


「はぁ?」


 目を擦り、再度燕を見るが止まっている。


 新田が黒板に何か書こうとしたのかチョーク持ち上げ、

 左前の女の子が筆箱を落とし空中で止まっている、

 早番大臣こと、野球部の篠田が教科書の裏で弁当箱を広げている。


 時間が停止した。


 そのことに気づいた神谷は周囲に視線を向け、現状を把握しようとしているが隣に座る学校いたの美少女清水桜に視線が向いた時に神谷の目は清水さんの胸で止まった。


「じ、時間が止まってるなら……」


 ゴクリと唾を飲み込む音が聞こえ、神谷はゆっくりと立ち上がり、清水の席の前に立つ、清水は目を開き黒板を見ている。


 清水さんの席の前でしゃがみ込んだ神谷はそのままスカートに視線をを向けるとターコイズブルーの下着が見えた瞬間清水の足が神谷の顎を捉えた。


「ぎゃゃ!!しっ、!清水さんな、なんで動いてるの?」


 蹴り飛ばされ尻餅をついた神谷に立ち上がった清水のゴミを見るような視線が突き刺さる。


「それは私の質問だと思うけど、神谷くん」

「は?え?なんで?」

「あなた、あの力に目覚めたのね、忠告よ、その力を今みたいな悪事に使わないように、それとその力はもう二度と使ったらだめよ。」


 清水はそれだけ言うと椅子に座り姿勢を直し、前を向き目を閉じた。


「ど、どう言うこと?清水さん」


 起き上がった神谷は清水の机に手をバンっと当てる。


「自分で考えな」

「ど、どうやって元に戻せば」

「止めた時と同じように動かせば問題ないわよ」

「だからどうやって!」

「単純よ、時間が止まればって言ったのよね」

「う、うん、そうだけど」

「ならその逆よ、時間よ動げって思えば止まった時は動き出す。」


 言われた通り神谷は『時間よ動け』と声に出して言うと止まっていた燕が動き出し、篠田は早番を食べ始めて、筆箱が落ちた、その後に反応してチョークを取り上げていた新田先生が音の出所を見る前に清水の横に立っている神谷に視線が向いた。


「神谷!何立ってる、席に戻れ」

「は、はい!」


 クスクスと笑い声が漏れる。


 急いで自分の席に座った神谷は授業そっちのけで清水が言った言葉の意味を考える。


(もう2度と、使うな? どう言う意味だ)

(そもそも何で清水は止まった世界を動けたんだ)

(それになんで俺は時間を止めれた?)

(時間よ止まれ……)


 つい口走り気づいた時には世界の時は止まり清水が俺の方をじっと睨む。


「あなた、馬鹿なの、私は忠告したよね」

「だからその忠告ってなんだよ!」

「さあね、自分で考えな、」


 また、清水はさっきと同じように前を向き、目を閉じる。

 それが止まった時間を動かす時に周りに自分が動いていたと思わせないようにしている、ような気がした。


 その後も答えが出ない問題をチャイムがなるまで考えこの現象の理由がわからないまま授業が終わった。


 トイレと水分補給を手短にすませ次の授業の教科書を手に取った。


 〜〜〜〜〜


 6時間目 日本史の授業が始まり30分ほど経って眠く始めた頃


『5月10日、松田市、松尾の、79歳の、女性が、午後14時10分頃から、行方不明と、なってます。特徴は身長146センチ、中肉中背、紫色のシャツに、ベージュ色のズボン、黒色の、サンダルを履いています。お心当たるのある方は付近の交番、または警察署へお連絡をお願いします。』


 学校上部に設置された防災無線の間延びした音声がそこら中で反響し授業を妨害する。

 いつもこの時間に行方不明者の情報が流れることに慣れている桜田先生は防災無線が鳴り終わるまでの少しの間、休憩を挟む。


「さぁ、鳴り終わったな、ここ最近行方不明が多いな、子供に学生、若者老人、性別年代問わずだ、お前らも気をつけろ、今じゃ、そこら中不審者だらけだ。小学生みたいに集団下校しろとは言わんが、ゲーセンやら、裏路地は少し警戒したほうがいいぞ、ついでにネットも気にしとけ。一体いつから日本はこんな国に成り下がったのやら、俺の給料もって関係ねぇな、」


「さて、あと10分ちょいだな、お前ら寝るな、篠田!」

「はい!」


 新田に怒鳴られた篠田は急いで立ち上がり敬礼をする。


「弁当何個目だ?」

「二つ目であります!」

「午前中も早弁したのか。別に食べるなとは言わんがバレないように食べろ。」


 笑い声が教室中に響き、新田先生の授業は再会され、その後すぐにチャイムが鳴り、先生が教室を出る前に勉強道具を仕舞っていた一段が足早に教室を出て行った。



 神谷も帰ろうと筆箱をリュックに仕舞い込み立ちあがろうとしだがさっきの清水の忠告が脳裏を過り、清水の席を見るが清水はもういなかった。


 清水の個人情報など知らない神谷はその忠告の意味を聞くことを諦め、帰路に着いた。

 校舎を出たと同時に行方不明者を知らせる防災無線が鳴る。


『5月10日 松田市、松尾の、5歳の、女の子が、行方不明になっています。特徴は身長100センチ前後、赤色の服に黒色ズボン、白の靴を履き、胸に、赤色の名札を付けています。お心当たりのある方は付近の交番、警察署へご連絡を』


 神谷は少し違和感を感じたが、そのまま帰って行った。

 その後ろを清水が尾行しているとは知らずに。


 〜〜〜〜〜


 家に帰ってきた神谷は制服のままベットに倒れ込み、1人清水の忠告の意味を噛み砕いていたが授業中と同じく全くその意味がわからなかった。だからまた口走った。


「時間が止まる……あっ!時間よ動け!」


 神谷が気づいた時にはすでに遅かった。

 ガシャーン


 どこがで何かが割れた音が神谷の寝室にまで響いてきた。

 ベットで寝っ転がりながらゲームをしていた神谷は耳をしたのキッチンの方に響かせるが誰の声もしてこない。


 いつもなら母親の声が聞こえてくるが今日は気配すらない。


 清水さんの忠告、

 行方不明者の続出

 皿の割れた音だけが響いたキッチン……


 神谷の顔色が悪くなる。ゆっくりとベットから起き上がり寝室を出て階段を降りる。


「母さん?」


 階段の折り返しを降りた頃に神谷は切れそうにか細い声を出す。


「母さん……」


 リビングのドアをゆっくりと開けるとテレビの音が漏れてきた、神谷の脳裏には新田先生の一言と清水の忠告がループする。恐る恐る、キッチンに目を向ける『そんな訳はない』と自分に言い聞かせる。

 だが現実はそう簡単なものではなかった。


 キッチンに敷かれたマット上に3つに割れた白い皿が落ちている。

 そこに母親の姿はなく、人がいる気配すら感じない。ほうきもちりとりも壁に下げられたまま。


「母……さん……」


 神谷は全てがわかった。

 清水の忠告、

 行方不明者の続出、

 昼間の防災無線、


 ガチャ、玄関のドアノブが開く音が聞こえ神谷は玄関に急いで向かう。


「し、清水さん……なんでうちに」

「その様子だと今回の被害者は身内みたいね神谷くん」

「だ。どうなってるんだ……」


 最悪の想像をしてしまった神谷。

 想像が現実となり膝の力が抜け、床に崩れ落ちる。


「………」

「なぁ!答えてくれよ!清水さん、お願いだ答えてくれ」



 神谷の頬に涙が流れ始め、止まる様子を見せない。

 清水は絶望に落ちた神谷を見て、何も思わない。なぜならば自分の神谷と同じ事をやり7年前に家族を失っている。


 法律上行方不明届を出して7年見つからなければ死亡認定される。


「母さんは……母さんは、ど、どうなったんだ」

「神谷くん。私ははっきりと忠告したわ、もうその力を使うなと」

「だからその力ってなんたんだよ!」


 床にを思っ切り殴りつける。手の痛みなど感じないのか何回も何回も行き場のない怒りを床にぶつける。


「それは一般人が知っちゃいけない事」

「一般人?……清水は違うのか?」

「清水って名前は偽物。7年前、神谷くんと同じようにその力に芽生えた。小学校4年生の時だったの、その当時私はいじめに遭っててね、学校に行ってなかったの。


 毎朝、お母さんが私の部屋に来て私を起こすの『起きなさい』って、ある日布団の中で言ったの『時間が止まれば良いのにな』って。そうしたらお母さんの声が聞こえなくなったの、その時は嬉しかったわ、もう誰にも邪魔されずに遊べるんだってだけど数時間もすると飽きてくるの


 誰も動かない世界

 誰も私を見てくれない世界

 音も匂いもない世界

 温度も湿度もない世界

 感触もない世界

 空気すら吸えない世界

 動かない雲

 止まった車


 私は泣きながら家に帰ったわ。その道中誰も私のことを見ようともしない、気にかける様子もない、ただ立ってるだけ。


 お母さんの前に立って泣きながら、抱きついて『時間よ動いてください』って何回も叫んだの、急に私倒れたの。抱きついていたお母さんがいなくなってたの」


 そのあとのことは覚えてないと清水は言った。

 覚えているのはスーツ姿の二人組は家にやってきて清水を連れてどこかの研究施設に連れ込まれ新たな戸籍を与えると言われた事だけ。


「清水は偽名よ、私の本当の名前は新井桜、いえ、No.8(No.エイト)と組織には呼ばれているわ」

「そ、組織って」

「さぁね、私にはわからないわ」


 清水がそう言うとほぼ同タイミングで神谷家の呼び鈴が鳴らされる。


「来たみたいね、あとは任せるとしましょう」

「ど、どこに行くんだ」


 出て行こうとする清水の背中を追うが膝に力が走らない神谷は床に転ぶ。


 清水が内側からドアノブの開くとそこにはスーツ姿の二人組が立っていて、清水と何かを話したあと、『あとはお願い』と言い立ち去った。


「神谷大河さんですね、少しお話を」

「清水!なんだよこれ!」

「No.8は関係ありません」

「清水!」

「拘束しますか?」

 もう1人の大人がロープと粘着テープを出すが大きい方の男は拒否した。

「いや、いい。混乱しているだけだろ、じき解決する」

「何がだよ!説明してくれよ!清水!!」」


 スーツ姿の二人組を押し退け、清水の背中を追おうとしたがその2人を跳ね除けることはできずにガッチリと腕を掴まれ背の低い方の男が神谷の口元にタオルを当てる。


「おい!何しやがる!」

「じき解決する」


 急激な睡魔が神谷を襲い、すぐに意識が薄れて行った。


「ど……俺はどう、なる……」

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