子猫の3兄妹 冬の雨
とら:
激しい雨の中、僕たちは、土管の中で肩を寄せ合っていた。目の前を小走りに通り過ぎるズボン。一度、足が止まり、再び、小走りで去っていった。
僕は、蛇のようにのたうつ光に驚き、目を閉じた。轟音の余韻が去り、目を開けたとき、傘を持った男が僕たちを覗き込んでいた。
寒さと恐怖で震える僕。頭は、真っ白で、妹達のことさえも隣町へ飛んでいた。
手を差し出す男。僕は、驚き、あとずさった。
妹たちは、動けないでいた。僕でさえ、このありさまでは、当然だろう。
僕は、妹たちのしっぽを引っ張った。正気に返る妹たち。不安げな瞳を、僕に向けてきた。
4つの瞳は、僕に勇気を与えてくれた。じっと男を睨む僕。男は立ち去った。勝利。後には、戦利品のタオルが残されていた。
しろ:
今日は、なんて、なんて、やな天気。わたしの自慢の白い毛が濡れている。
あっ、誰かがやってくる。あっ、誰かは去って行く。
目の前が、一瞬、明るくなる。目の前には、人影がひとつ。あなたは、誰?
わたしのお腹が、ぐうと鳴る。だって、美味しい匂いがするんだもの。恥ずかしい。わたしは、目を伏せる。
兄さんが、しっぽを引っ張ってくる。恥じらいの乙女を演じているのに、どうしたの。わたしは、不満げな目を向ける。
兄さんの瞳が輝いている。そうだよね。わたしも負けては、いられない。精一杯、瞳をうるうるさせてみる。兄さん、偉い。彼の手からは、一握りの煮干が落ちてくる。子猫の武器は可愛らしさだよね。
ミケ:
本日は、どしゃぶりなり。洪水が発生し、床下浸水中です。何かが近くを通り過ぎていったみたいです。
雷をバックに、誰かが立っています。神様でしょうか。いえ、違います。
「まぁ、お兄さん、会いに来てくれたのですね」
ミケは、感動に震えています。
「タオルに、煮干も、くれるのですか。ありがとう」
とらちゃんがしっぽを引っ張ります。分かっています。ちゃんと、とらちゃんにもあげますからね。ミケはウィンクを返します。
とらちゃんの瞳が感激で潤んでいます。そんなに喜んでもらえると嬉しいです。
ミケは、彼に、お礼を言います。
「夜は、寒いですね。お礼に、ミケの体で、あなたを暖めてあげますよ」
彼は去っていきます。遠慮するなんて、慎み深い方です。
どしゃぶりの雨。土管の中では、タオルが、もぞもぞ動いていた。
その中に、煮干にじゃれる3匹の子猫たちの姿があった。