再戦
鶏戦記 再戦
少しのことにも、先達はあらまほしきことなり
再戦は、あっけなく終わった。
持ち帰り用の「丸焼き ローストチキン」を、車で十五分程のところにある大手ファミリーレストランで見つけたSは、そこで再戦相手を調達。
前回のお店だと往復二時間強を、往復三十分に縮めた。
戦いもまた、「ローストチキン おいしい召し上がり方」という説明書《戦法》が一枚付いており、切り分け方が写真で丁寧に説明されていた。
Sは説明書《戦法》通りに、切り分けていった。
前回の手探りとは違い、まさに鶏の解体だった。
肉を切り取ると考えていると、見えるものも見えなくなる。
肉を切り取る時は食べる時で、切り分ける時は解体と言う事が、Sはやってみて分かった。
左右の脚に切れ目を入れて外し、中央の骨に沿って左右の胸肉を切り外す。
そして残った左右の手羽を切り外すと、胴体が残る。
やってみると前回感じた野生よりも、命をいただくという心の動きが強かった。
もしSが自ら探し、狩り、育てて手にした食材を、自ら調理する生活であれば、当たり前に知っていた心の動きだっただろう。
その意味において、Sは生命というものをまだ知らない。
それでも今回、鶏を解体して得たものは、Sの心に残った。
大事に食べないと。
戦いは先達の教示により、たやすく勝利した。
同時にSの心に、足跡を残していった。
全てを食べ終え、骨も捨て片付け終わった後、Sは説明書《戦法》の下に「残った骨の利用例」がある事に気が付いた。
骨は、まだスープに使えたのか。
三度目は戦いではなく、最後の骨までありがたくいただこうと、Sは目を閉じた。