3話 イヴェエルの悩み(後編)
「それで、話なんだが……」
俺は意を決して、エスタレアに伝えておくべき話を始めた。
「はい」
「エスタレアは俺のことを立ててくれているようだが、俺はダルキス伯爵の実の子ではないんだ」
「そ、それは、どういうことですか?」
その様子を見る限り、やはり知らなかったのだな。
「ダルキス伯爵家には子どもがなかなか産まれなかったらしくてな。俺はフーリュが生まれる前に孤児院から引き取られた養子なんだ。それは実の子が産まれなかった時に備えて、俺を次期伯爵にと考えてのことだったらしいのだが。その後、フーリュが無事に産まれた。だから、次に伯爵になるのはフーリュであって、俺ではないんだ」
「そうだったのですね」
「だから、他の領民と同じように、エスタレアもフーリュを次期伯爵だと思って俺に接してくれればいい。今日はそれを伝えたかったんだ」
「分かりました」
よかった。
どうやら、分かってくれたようだ。
「そうか、これで安心したよ。フーリュと一緒にエスタレアの家を訪問をすると、エスタレアだけが、いつも俺の名前を先に呼んでいたから気になっていたんだ」
他の領民は次期伯爵であるフーリュの名前を俺よりも先に呼んでいる。
にもかかわらず、エスタレアは、毎回、俺の名前を先に呼んでいたことが気にかかっていた。
「え? それは変わりませんよ」
「ん、さっき分かったと言っていたと思うのだが」
どういうことだ?
分かったんじゃなかったのか?
「はい、フーリュが次期伯爵だということは分かりました。ですが、イヴェエルがお兄さんなんですよね?」
「ああ、義理の兄弟ではあるが」
「私にとっては、どちらが次期伯爵なのかということは関係ありません。イヴェエルとフーリュの関係は兄弟関係としてしか見ていませんから」
つまり、エスタレアが俺の名前を先に呼んでくれていたのは、次期伯爵がフーリュだということを知らなかったからとか、そんなのは関係なく、俺がフーリュの兄だから先に呼んでくれていたということなのか……
「フフ、そうか。エスタレアは俺のことを、そう見てくれているんだな」
そう言いながら、俺は思わず微笑した。
そして。
ギュッ!
俺は衝動を抑えられずに、気がつくとエスタレアを抱きしめていた。
「イ、イヴェエル?!」
俺に抱きしめられて、エスタレアが驚いている。
それはそうだ。
伯爵の実の子ではない、本当はどこの誰なのかも分からない。
そんな男に抱きしめられて、嬉しいはずがない。
フーリュの方がエスタレアにふさわしいことは分かっている。
分かっているはずなのにな……
「すまない、少しだけこうさせてほしい」
「はい……」
ありがとう、エスタレア。
俺は心の中で、エスタレアの優しさに感謝した。
お前と一緒にいると、何故か心に安らぎが宿る。
たとえ、その関係が永遠に続くものではなかったとしても……
3話の最後まで読んでいただきありがとうございます!!
評価が多いと続きを書きたくなる気持ちになりやすいので、もし続きを書いて欲しいと思った方がいましたら、画面下の「☆☆☆☆☆」から評価をよろしくお願いします。
もちろんブックマークも嬉しいです!
感想も気軽に書いていただければと思います。