1話 プロローグ
「エスタレア、王女のリンディリアから報告があったぞ」
玉座の間に呼び出された私は、突然、アルザム国王にそう告げられた。
はて?
何の報告があったのだろうか?
「お主が息子のオーシェンをたぶらかしているという報告だ」
オーシェン王子をたぶらかしている?
え、私が?
えーと、そんなことあったかな。
オーシェン王子から何故か手紙をもらったり、贈り物をもらったりはしたけど。
まだ、その返事やお返しすらもできていないのだが。
「オーシェンはこのアルザナ王国の皇太子、我が息子をたぶらかしているというのであれば、お主を見逃すことはできない!」
アルザム国王は、かなりお怒りのご様子。
まったく心当たりはないが、アルザム国王がリンディリア王女に何を吹き込まれたのかが分からない以上、本当のことを話したとしても事態が悪化するだけだろう。
「分かりました。では、今後はオーシェン王子に近づかないように距離を置きたいと思います」
「ふ、ふむ、お主からそういう発言があるとは思わなかったが。そうであれば話は早い」
私があまりにも従順なため、一瞬、アルザム国王は腑に落ちないという表情をしたが、目的が叶ったことに満足気な様子ではあった。
「辺境に別荘があることは把握している。今後はその地で暮らしてもらうことになるが、異存はあるか?」
「いえ、ございません」
こうして、私は王都から追放され、辺境の地で新たな生活を始めることになった。
◇
「最初は生活に慣れなかったけど、私、ここの生活の方が向いてるのかも」
新たな地で一ヶ月暮らしてみた私の感想。
城下街ほどの賑わいはないが、街に行けば普通に賑わっていたし。
私が必要だと思った物は、一通り揃っていた。
元々、庭園作りや菜園にも関心があったので、少しずつ勉強をしながら、最近は野菜作りにも挑戦している。
王宮の近くで堅苦しい生活をするより、むしろこっちの生活の方が楽しいのでは?
最近は、そう思うようになってきていた。
結論を言うと、今の自然に囲まれた生活を、私は存分に満喫していた。
「でも、一番嬉しかったのは、仲の良かった侍女のアミーラと離れ離れにならずに済んだことよね」
「そう言っていただけるのであれば、エスタレアお嬢様について来て良かったです」
アミーラは笑顔でそう答えた。
アミーラと私の関係は侍女と令嬢という関係ではあるが、年齢が同じということもあり、気軽に何でも話し合える間柄である。
王都を離れることにはそれほど未練はなかったが、アミーラと離れないといけないということだけが心残りだった。
そんな私の気持ちを察してか。
『私も一緒に行かせてください!』
とアミーラは私に言ってくれた。
アミーラとは魔法学校で仲良くなって、卒業後、私の侍女として働いてくれることになった。
アミーラの故郷が田舎ということもあり、菜園作りに関しては彼女から勉強させてもらっている。
「もう、エスタレアって呼んでくれていいって言ってるのに」
「エスタレアお嬢様、お気持ちはありがたいのですが、他の従者達の視線もありますので、それは難しいです」
「そっか、残念」
「フフ、お嬢様らしいですね。そんなエスタレアお嬢様が私は好きですよ」
「アミーラーー! 私も大好き!」
バッ!
私は思わずアミーラに抱きついた。
「……私がエスタレアから離れるわけないじゃないですか……」
「え、何か言った?」
小声で聞こえなかった。
「いえ、何も言っていませんよ、エスタレアお嬢様」
◇
「エスタレアお嬢様、ダルキス伯爵の息子、フーリュ卿とイヴェエル卿が訪ねて来られました。取り敢えず、追い返したらよろしいでしょうか?」
「え、え? 今日、来られるということは事前に聞いていましたし、二人は友人ですので、追い返さなくても大丈夫ですよ、アミーラ」
「そうですか、分かりました」
アミーラが何故か悔しそうな表情をしている。
「今日のエスタレアも、いつも通り可愛いですね。イヴェエル兄さん」
金髪碧眼のフーリュが、黒髪黒目のイヴェエルにそう言った。
「まあ、可愛いくないわけではないな」
「あ、ありがとうございます」
「ちっ、……エスタレアが魅力的なのは分かるけど、どうしてこうも次から次へと男達が寄ってくるのか……」
今日は天気がいいので、庭園で二人とお茶会をすることにした。
後ろではアミーラが何か呟いている。
「それにしても、どうしてエスタレアのような優しい令嬢が、王都を追い出されたのか今でも不思議に思うのですが」
ダルキス伯爵の領地で暮らし始めて一週間ほど経ったある日、イヴェエルとフーリュが、突然、私の家を訪ねて来た。
フーリュが言うには、王都を追放されたと聞いて、辛い思いをしているのではないかと思い、心配して来てくれたとのこと。
「昔から女性に嫌われることが多いので、直さないといけない性格があるのは分かっているのですが、どこを直したらよいのかが分からなくて……」
「エスタレアお嬢様は、そのままの性格が一番素敵ですよ」
「ふふ、アミーラがいつもそう言ってくれるので、甘えてしまっているところもあるんですけどね」
魔法学校時代、私が自分の性格について真剣に悩んでいた時も、アミーラは同じことを言ってくれた。
そのことが嬉しくて、その時からアミーラが私の中で一番の親友になった。
「素敵な友がいらっしゃって羨ましい限りです」
フーリュは微笑みながらそう言った。
アミーラのことを侍女と言わずに友と言ってくれると、なんだか嬉しい。
「私から見ると、イヴェエルとフーリュも素敵な兄弟ですよ」
「私達がですか? 私はイヴェエル兄さんのことを尊敬していますが、イヴェエル兄さんは私のことをどう思っているんですかね?」
「フ、俺が今ここで、それを答えると思うか?」
「ハハハ、いつもこんな感じで、答えてくれないんですよ」
イヴェエルの答えに、フーリュが笑っている。
傍から見たら、とても素敵な関係ですよ。
お二人は。
「ふふ」
そう思いながら、私は微笑した。
「はぁ、今日もエスタレアの可愛い笑顔が見れて幸せな気持ちになれました。ありがとうございます。イヴェエル兄さんもそうですよね」
「そうだな、エスタレアの笑顔は嫌いではない」
「そ、そんな」
二人にそう言われて、私は顔が真っ赤になるのを感じた。
「はい! 風も出てきましたので、今日はここまでにしましょう!」
アミーラが風が出てきたことを教えてくれた。
言われてみれば、少し肌寒くなってきたかもしれない。
「名残惜しいですが、エスタレアが体調を崩されてしまってはよくありません。また、時間がある時に、お邪魔しても構いませんか?」
「はい、街に出かけていることもありますので、また、事前にご連絡いただければと思います」
「分かりました、その時は事前にご連絡させていただきますね」
「次に会える日も楽しみにしています」
「風邪には気をつけるんだぞ」
イヴェエルも私の体調を心配してくれているようだ。
「ありがとうございます」
こうして、オーシェン王子を溺愛するリンディリア王女に嫉妬されて、私は王都から追放されてしまったが、親友である侍女のアミーラとダルキス伯爵の息子であるイヴェエル、フーリュと共に新たな地での生活が始まった。
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